安倍スーパーマンで日本復活
久々にうれしいニュースだ。英誌エコノミスト最新号が表紙でスーパーマンに変身した安倍晋三首相を登場させ、「鳥だ! 飛行機だ! いや、日本だ」とアベノミクスの成功を称賛した。
ロンドンに来てから6年経つが、日本がエコノミスト誌でここまで絶賛されるのは珍しい。かつて「Japain」、「Japanization」の見出しが踊ったことはあっても、日本が肯定的に評価されることは少なかった。
「Japain」とは「痛々しい日本」とでも訳すのだろうか。膨れ上がった政府債務、低成長、政治の停滞と改革の遅れが日本を蝕んでいるという皮肉を込めた「Japan」と「pain」を合わせた造語だった。
「Japanization」は、そんな日本の病が世界金融危機後に米国や欧州に広がっているという指摘だった。オバマ米大統領とメルケル独首相のマンガが着物を着て表紙に登場した。
安倍政権が誕生して約5カ月、ついに辛口のエコノミスト誌が「日本がやってきた」と報じている。
・株価は55%上昇
・第1四半期は年率換算で3.5%成長
・安倍首相の支持率70%超
「安倍首相の計画が半分しか成功しなくても、偉大な首相として数えられるだろう」と絶賛。
面白いのは、安倍首相が財政出動、金融緩和、成長戦略の3つの矢によるアベノミクスを急いだのは日本の国家安全保障と密接に関連していると同誌が分析していることだ。
明治時代の「富国強兵」政策を例に引き、(1)豊かな日本だけが国を守ることができる(2)自分を守れる国だけが中国に対抗できる(3)自分を守れてこそ米国の子分にならなくてすむーーという三段論法でアベノミクスに隠された狙いを分析する。
欧米は中国に対抗できる日本の復活を待ち望んでいた。順風満帆の安倍政権だが、落とし穴が2つあると同誌は説く。
1つは経済が第2四半期になって失速し、消費税引き上げが先送りされるリスク。圧力団体が勢いを増し、アベノミクス第3の矢である成長戦略を妨げる恐れがある。安倍首相はこの圧力をはねのけることができるのか。
2つ目がナショナリズムの落とし穴だ。ナショナル・プライド(国の誇り)と後ろ向きのナショナリズム(民族主義、国家主義)を混同すれば、歴史問題の地雷原に迷い込む。
先日、大和日英基金が英議会で開いたセミナーでも、日本の右傾化に対する懸念が再三にわたって示された。従軍慰安婦問題をめぐる橋下徹大阪市長の発言が米紙ニューヨーク・タイムズに取り上げられ、米国務省報道官にまで「言語道断」と批判された。
橋下市長の考えが日本国民の多数意見ととられるのは迷惑千万な話である。英国では、沖縄県・尖閣諸島で中国の圧力にさらされる日本を応援する空気が醸成されつつあるように感じられるだけに、橋下発言は残念でならない。
安倍政権が歴史問題の地雷原にさまよい込めば、日韓がいがみ合い、中国の思う壺だ。欧州も米国も日本の肩を持ちづらくなる。中国が経済問題で圧力をかけてくる恐れもある。
経済成長を安定軌道に乗せ、守りを固めることが安倍政権の最優先課題だ。中国の圧力は20~30年、増えることはあっても減ることはないだろう。いや、もっと長く圧力は続くかもしれない。
エコノミスト誌は、中国共産党機関紙・人民日報が沖縄県の帰属は「歴史上の懸案であり、未解決の問題だ」とする論文を掲載したことにも言及している。中国の傍若無人ぶりは世界に鳴り響いている。
オバマ米政権にアジア政策を提言している米民主党系知日派の重鎮、ハーバード大学ケネディスクールのジョセフ・ナイ教授は僕のインタビューに「中国がいじめっ子になるシナリオに備えて、日米同盟を維持することは重要なことだ。米国が東南アジアの国々と良好な関係を持つことは現実的な政策だ」と指摘した。
欧米メディアが安倍首相をナショナリストと呼ぶことについて、ナイ教授は「安倍首相は非常にプラグマティック(現実的)にふるまっている。しかし、慰安婦に関する河野洋平官房長官談話などをひっくり返したりすると、日本の国益やソフトパワーを損ねることになる。安倍首相はこれからもプラグマティックに行動し続けるべきだ」とアドバイスしている。
欧米諸国が安倍スーパーマンの失速より、快調に飛び続けることを願っているのは明らかだ。頑張れ、ニッポン!
(おわり)