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能登の子どもからのSOSも 「心配する気持ち否定しない」 電話相談「チャイルドライン」の理事に聞く

関口威人ジャーナリスト
「チャイルドラインあいち」専務理事の高橋弘恵さん=2月1日、名古屋市で筆者撮影

 能登半島地震は高齢化率の高い地方を襲ったが、被災した子どもたちも少なくない。また、直接被災をしていなくても、連日のニュースで不安を募らせる子も多いはず。ただでさえ受験や進学などの悩みが多い時期。子どもたちの声を電話やチャットで受けとめる愛知県の「チャイルドライン」の理事を務める高橋弘恵さんに、子どもたちと接する上で気を付けるべきことなどを聞いた。

電話番号は全国共通、チャットで会話も

−−「チャイルドライン」はどのような仕組みになっているのでしょうか。

 チャイルドラインは18歳までの子どもたちの電話やチャットを受け、ボランティアが相談にのる活動です。1980年代にイギリスで始まり、日本では1998年に世田谷で最初の活動が始まりました。

 私は2000年、当時所属していた子育て支援のNPO法人「名古屋おやこセンター」の事業として始まった「チャイルドラインあいち」のメンバーになりました。その後、事業は独立して2004年にNPO法人「チャイルドラインあいち」ができ、私は専務理事を務めながら全国の団体をサポートする「チャイルドライン支援センター」の理事もしています。

 現在、全国では69団体がチャイルドラインの活動をしています。石川県にも金沢市のNPO団体が開設する「チャイルドライン・いしかわ」があります。電話番号はすべて共通で、フリーダイヤル「0120-99-7777」です。

チャイルドラインあいちが愛知県内の学校などを通じて小中高生に配布しているカード=筆者撮影
チャイルドラインあいちが愛知県内の学校などを通じて小中高生に配布しているカード=筆者撮影

−−地域ごとに電話を受けるわけではないんですね。

 はい、全国の団体が分担して電話を受けたり、オンラインチャットで会話をしたりしています。2022年度は約41万本の電話がかかり、つながった電話は約18万本。チャットには約3万件の書き込みがあり、そのうち約1万1800件に対応しました。

 発信場所はチャットでは分かりませんが、電話はNTTのデータから知ることができます。愛知県から発信された電話は東京や大阪より多く、約5万7000本です。愛知県ではチャイルドラインの電話番号を書いたカードが小中高の全児童・生徒に配布されており、発信数の多さに表れているとみられています。

被災地からも相談「4月からの1人暮らしが怖い」

−−今回の能登半島地震についての相談は、どれぐらいありましたか。

 まだ全国的な集計や情報収集はできていませんが、チャイルドラインあいちでは1月中に3件の相談をチャットで受けました。

 最初の1件は震度6強を経験したという高校生なので、被災地からだと思います。詳しくは言えませんが、就職が決まっていて、4月から1人暮らしになるけれど、地震のことを考えると怖いといった内容でした。

 他の2件は小学生と中学生からで、ニュースで地震の映像を見ていると怖いという声でした。

津波で流されたとみられる野球ボール=石川県能登町で、筆者撮影
津波で流されたとみられる野球ボール=石川県能登町で、筆者撮影

−−被災地の子どもでなくても不安は大きいですよね。

 今回の地震はお正月の夕方の発生で、テレビは正月番組から一斉に災害報道に切り替わりました。そのギャップで子どもたちはしんどかったと思います。2011年の東日本大震災のときも相談は入りましたが、今回はこれまでの災害と比べても反応が早い気がします。

「かわいそう」は下に見られたように感じてしまう

−−そうした子どもたちに、どう声を掛ければいいですか。

 まず、心配する気持ちを否定しないことです。大人はつい「心配しなくても大丈夫だよ」と言ってしまいますが、それは子どもを否定してしまうこと。むしろ「心配なんだね」と気持ちを受けとめた方が、子どもたちは分かってもらえたと安心できると思います。

 また、被災地の子には「かわいそうだね」と言わない方がいいでしょう。「かわいそう」は親切な言葉に聞こえますが、言われた人は「下に見られた」ように感じてしまいます。大人がよかれと思ってかける言葉は、よかれではない場合が多い。まずは子どもたちの声を丁寧に聞くことが大切です。

避難所で炊き出しのカレーを受け取る親子=石川県珠洲市で、筆者撮影
避難所で炊き出しのカレーを受け取る親子=石川県珠洲市で、筆者撮影

−−受け手のボランティアはそうした研修を受けているのですか。

 はい、受け手は全員「ボランティア養成講座」を受けています。チャイルドラインあいちの場合、全6回の基礎講座で子どもの福祉や心理について学んだ後、選考の上で正会員登録をし、さらに全6回の実践講座を受けてボランティアとしてデビューします。

 チャイルドラインで大切にしているのは「子どもは大人と同様に権利を持っていること」「子どもをひとりの人間として、その主体性を尊重すること」。これは国際的な「子どもの権利条約」の理念に基づいています。

 チャイルドラインの主役は子どもたち。大人が問題解決のための具体的な助言やアドバイスをするのではなく、子どもが自分の気持ちを整理して、自分が思う解決方法を考える過程に寄り添います。主導権は子どもにあるので、子どもが話をやめたくなったら、いつでも話をやめていいというルールにしています。

1人で抱え込まず、気軽に相談を

子どもからの相談を受けるチャイルドラインあいちのボランティア用ブース=2月1日、筆者撮影
子どもからの相談を受けるチャイルドラインあいちのボランティア用ブース=2月1日、筆者撮影

−−避難生活などが長引く被災地の子どもたちに、今後どう対応していきますか。

 私たちとしては気軽に相談をしてくれるよう、子どもたちへの広報を進めていきます。石川のチャイルドラインもまだ広報が十分できる体制ではないようなので、全国から支援をしなければなりません。子どもたちのよく使う「TikTok」などの新しいSNSでの広報も、地震前から課題だったのですが、急いで強化していきたいと思います。

 被災地では大人も余裕がないので、子どもを常に見守ってとは言いづらい。そういうときこそ、距離のあるチャイルドラインで受けとめることができます。とにかく1人では抱え込まないで、思いを共有する人、思い合える人が近くにいなければチャイルドラインを使ってほしい。そして「震災があったから仕方ない」とあきらめるのではなく、「震災があったけど頑張った」と言えるようになってほしいと思います。

チャイルドライン(全国共通)
・ホームページ https://childline.or.jp/
・フリーダイヤル 0120-99-7777(毎日午後4時〜午後9時)

ジャーナリスト

1973年横浜市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学)修了。中日新聞記者を経て2008年からフリー。名古屋を拠点に地方の目線で社会問題をはじめ環境や防災、科学技術などの諸問題を追い掛ける。東日本大震災発生前後の4年間は災害救援NPOの非常勤スタッフを経験。2012年からは環境専門紙の編集長を10年間務めた。2018年に名古屋エリアのライターやカメラマン、編集者らと一般社団法人「なごやメディア研究会(nameken)」を立ち上げて代表理事に就任。

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