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トラックと箱根駅伝を両立させる佐藤圭汰②箱根38日前に10000mで学生歴代2位を出したトレーニング

寺田辰朗陸上競技ライター
佐藤(右)と大八木総監督。駒大道環寮応接室で<筆者撮影>

 佐藤圭汰(駒大2年。現3年)が箱根駅伝3区(21.4km。1月2日)で1時間00分13秒と、従来の日本人区間最高記録を上回った。京都・洛南高3年時に1500mと5000mで高校新記録を樹立した選手だが、20km超のレースは初めてで、周囲の予想を上回る結果を出してみせた。昨年11月25日には10000mで27分28秒50の学生歴代2位、U20日本新記録をマークしていたが、10000mもそのレースが初出場だった。しかし佐藤自身は10km(10000m)への距離には、以前から手応えを感じていた。20kmの距離に対しても駒大の大八木弘明総監督は、結果的に体調不良で出場できなかったが、1年時の箱根駅伝前の練習から対応できることを確信していたという。

 箱根駅伝後には米国ボストンで行われた室内競技会5000m(1月26日)で13分09秒45の室内日本新、屋外を含めても大迫傑(Nike)の日本記録13分08秒40に次ぐ歴代2番目のタイムをマークした(トラックと箱根駅伝を両立させる佐藤圭汰①参照)。

 佐藤がトラックとロードを両立させている背景を、3本の記事で紹介していく。2本目の今回は、箱根駅伝までのトレーニングやレース出場の流れを紹介する。

箱根駅伝3区でハーフマラソン日本記録以上のスピード

 佐藤の箱根駅伝には驚かされた。3区の21.4kmを1時間00分13秒で走破したが、ハーフマラソン(21.0975km)に換算すると59分21秒で、片道コースとはいえ日本記録の1時間00分00秒を上回るスピードで走り切った。

 区間記録はイエゴン・ヴィンセント(Honda、当時東京国際大1年)が20年大会でマークした59分25秒で、ハーフマラソンに換算すると58分34秒という世界トップレベルのスピードだった。区間日本人最高は22年大会で丹所健(Honda。当時東京国際大3年)がマークした1時間00分55秒だった。佐藤は丹所の記録を42秒上回った。

 しかし太田蒼生(青学大3年。現4年)が59分47秒の区間日本人最高と快走した。佐藤は中継所を太田より22秒先にスタートしたが、7.6kmで追いつかれ、そこからは壮絶なデッドヒートを展開。残り3km付近で引き離され、佐藤も粘ったが4区への中継では4秒先着された。

「最初の5kmはゆとりをもって入って、5~10kmで徐々に上げていく展開を考えていました。(11.8km付近で)海岸線に入ってからはキツくなると想定していましたが、2分40秒台でしっかり刻んで行くことはできると思っていたんです。しかし5kmを14分00秒で通過したのに太田さんがすぐ後ろに迫っていて、5kmを過ぎてから結構ハイペースになってしまった。レースプランが崩されました」

 佐藤は完敗だったことを潔く認めた。10km通過は27分50秒で5~10kmは13分50秒にペースを上げたが、太田に追いつかれた。太田は10kmを27分26秒という高速ペースで通過したが、それでも終盤でスパートする力があった。

 太田の走りは驚異的だったが、トラックのスピードランナーである佐藤が20kmをこのレベルで走った。佐藤圭汰という選手のスケールが、これまでの常識を大きく上回る可能性を感じさせた。

 佐藤は「20kmの距離走も(1年前に)余裕を持ってできていたので、自信を持って臨んでいました」と、距離に対して不安がなかったことを明かした。

 大八木総監督にも、佐藤の20kmへの対応をどう進めてきたかを確認した。

「練習の中で20kmを速いペースで走っていました。昨年の箱根は走ることができませんでしたが、合宿中に61分と、62分そこそこのタイムで走っていました」

 詳しくは後述するが、今年の箱根駅伝前の合宿では速いペースの20km走は行っていない。それでも佐藤は箱根駅伝をしっかり走ることができた。

 そして箱根駅伝後のダメージも、そこまで大きくなかった。大八木総監督は「12月初めに30km走2本など練習をしっかりやっていたので、体全体のダメージはありましたが、そこまで動かなくなるダメージではありませんでした」と話す。

 佐藤は「3日間ほど走れませんでした。大腿前部や腰の筋肉痛が大きくて、深部にダメージが来ていた」と語ったが、前述のように3週間後のボストンでは5000mを室内日本新で走った。箱根駅伝とトラックを短期間で、周囲には“難なく”と感じさせるように走ってみせたのだった。

箱根駅伝3区で日本人区間歴代2位と予想を上回る走りを見せた佐藤圭汰
箱根駅伝3区で日本人区間歴代2位と予想を上回る走りを見せた佐藤圭汰写真:アフロ

トラック、出雲、全日本、そして箱根の1000m(1km)平均タイムは?

 佐藤の自己記録を出したトラックレースの1000m平均タイムと、高校3年時以降の駅伝の1km平均タイムは以下の通りである。

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<洛南高2年(20年)>

【9月19日・近畿高校ユース】

1500m3分47秒61=2分31秒74(1000m平均)

【11月29日・京都陸協記録会】

5000m13分53秒36=2分46秒67(1000m平均)

【12月20日・全国高校駅伝3区】

8.1075km23分40秒=2分55秒15(1km平均)

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<洛南高3年(21年)>

【7月17日・ホクレンDC千歳】

1500m3分37秒18(高校新)=2分24秒79(1000m平均)

【10月3日・日体大長距離競技会】

5000m13分31秒19(当時高校新)=2分42秒24(1000m平均)

【11月7日・高校駅伝京都府大会1区】

10km29分15秒=2分55秒50(1km平均)

【12月26日・全国高校駅伝3区】

8.1075km23分10秒=2分51秒45(1km平均)

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<駒大1年(22年)>

【5月4日・ゴールデンゲームズinのべおか】

5000m13分22秒91=2分40秒58(1000m平均)

【10月10日・出雲駅伝2区】

5.8km15分27秒=2分39秒83(1km平均)

【11月6日・全日本大学駅伝2区】

11.1km31分13秒=2分48秒74(1km平均)

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<駒大2年(23~24年)>

【10月9日・出雲駅伝2区】

5.8km16分08秒=2分46秒90(1km平均)

【11月5日・全日本大学駅伝2区】

11.1km31分01秒=2分47秒66(1km平均)

【11月25日・八王子ロングディスタンス】

10000m27分28秒50=2分44秒85(1000m平均)

【1月2日・箱根駅伝3区】

21.4km1時間00分13秒=2分48秒83(1km平均)

【1月26日・ボストン室内】

5000m13分09秒45=2分37秒89(1000m平均)

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 気象条件が、特にロードではタイムに影響する。大学2年時の出雲駅伝はアジア大会直後ということも影響したが、向かい風が強かった。それに対して箱根駅伝3区は、追い風の恩恵も受けたのだろう。

 それでも高校時代の駅伝は、トラックとのスピード差が大きかった。だが10kmの距離に対しても、当時からある程度の手応えを持っていた。当時からトラックだけの選手ではなかった。

「高校2年の全国高校駅伝3区で日本人1位になったあたりから、長い距離も行ける実感を持つことができました。ただ、練習は長い距離をやっていなかったので不安もありました。走っても10マイル(約16km)くらい。ペースは1km3分30~35秒で速いペースでは走っていませんでした」

 その練習が駒大で、どう変化してきたのだろう。

スピードを出しながら距離を伸ばしてきたトレーニングとは?

 大八木総監督は「どこでスタミナを付けて、どこでスピードを付けるか。メリハリを意識して行っています。夏はちょっと走り込みをしていますね。普段から距離走を行うのでなく、あえてジョグの中で長い距離を走っています」。ジョグとして距離はしっかり走るが、長い距離でスピードを上げるメニューはあまり行わなかった。

 大塚祥平(九電工)や山下一貴(三菱重工)は駒大時代の夏合宿で、40km走をやり適性を見せていた。田澤廉(トヨタ自動車)や佐藤のようなスピード型の選手と、大塚、山下のようなスタミナ型の選手では、練習パターンを大きく変えている。

 昨年の佐藤は7月にベルギーのナイトオブアスレティック、10月には杭州アジア大会と5000mを走った。夏には米国のクラブチームのスイス・サンモリッツでの高地合宿に参加。走り込みはスピードを上げず、ポイント練習は短い距離で徹底的にスピードを研いた。

 駅伝シーズンに入って佐藤は出雲の2区、全日本も2区に出場。ともに区間賞で駒大の2大会連続優勝に大きく貢献した。大八木総監督は「出雲まで距離走はやりません。全日本まではトラック練習中心で臨んでいる」と明かす。

 アジア大会、出雲を短期間で連戦するまでは5000mを想定した練習で「ショートインターバルは昨年以上に上げた」(大八木総監督)という。出雲後は全日本大学駅伝2区、八王子ロングディスタンスと10kmの距離がターゲットになった。

「全日本は各区間10km強の距離なので、普段のトラック・シーズンと大きく変わりません。距離走は1週間に1回くらい、やっても20kmまでです。クロスカントリーも10マイルくらい」(大八木総監督)

 佐藤は全日本大学駅伝2区に向けては「(1km)2分48秒切りをイメージした練習」を行い、2分47秒66平均とその通りに走った。八王子の10000mに向けては「2分45秒に対応できる練習」を行い、実際2分44秒85平均で走り切った。八王子ロングディスタンスは2分45~46秒ペースで進み、7000~8000mが2分47秒に落ちたが、ラスト2000mを2分40秒ペースに上げて27分30秒切りを達成した。

「ラスト1周まで余裕がありました。目標タイムは27分35秒でしたが、そのくらい練習ができていましたから」

 3月16日のTHE TENは27分34秒66(20位)。八王子の記録は更新できなかったが、セカンド記録の学生最高で、レベルの高いパフォーマンスを続けている。田澤が21年に出した27分23秒44の学生記録に挑むチャンスは何度もあるだろう。

 そして八王子ロングディスタンスが終わると練習に、箱根駅伝に向けての距離走も行い始めた。前述のように12月初めに30km走を2本行っている。佐藤は「合宿では距離を踏むことが大事ですが、故障しないことが一番大事です。ジョグのペースを20秒落としましたし、治療にも行って疲労を抜くことを意識しました」と、箱根駅伝前の合宿で留意した点を話した。その一方で「スピードにも刺激入れました」と明かす。

 大八木総監督は1年時に行ったような20km走はやらなかったという。「八王子をあのタイムで走ったので、スピードに余裕がありました。20kmはそれほど速く走らず、(30kmなど)距離走のあとにインターバルを入れました。そのやり方でスピードが落ちなかった」

 箱根駅伝の3週間後に室内5000mで日本記録に迫るタイムで走ることができたのは、スピードを維持しながら、箱根駅伝の20km超の距離を走るための練習を行ったからだった。箱根駅伝を「駒大にとって通過点」と大八木総監督が位置づけ、その理念にブレないで取り組んでいるから実現できたと言っていい。

<トラックと箱根駅伝を両立させる佐藤圭汰③世界に挑む駒大の環境と3種目日本記録を目指す24年シーズン>は明日(4月10日)公開予定

陸上競技ライター

陸上競技専門のフリーライター。陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の“深い”情報を紹介することをライフワークとする。一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことが多い。地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。座右の銘は「この一球は絶対無二の一球なり」。同じ取材機会は二度とない、と自身を戒めるが、ユーモアを忘れないことが取材の集中力につながるとも考えている。

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