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大阪の事務所無所属お笑いコンビの音声番組がピンチ、予算ゼロでも継続する放送作家の意地「ムカつくんで」

田辺ユウキ芸能ライター
左から弘松メイさん、バリーとくのしんさん、花﨑天神さん、加藤進之介さん/筆者撮影

2023年から2024年にかけて開催された大阪のお笑いコンテスト『第13回ytv漫才新人賞決定戦』予選ROUND(読売テレビ)へ、事務所無所属としては大会史上初めて手見せ審査を通過して出場し、強烈なインパクトを与えたお笑いコンビ・ボニーボニー。同コンビは9月29日に放送された『第14回ytv漫才新人賞決定戦』の予選会にあたるROUND1にも出場。決勝進出は逃したものの確かな印象を残した。

そんな大阪のインディーズのお笑いシーンの「希望の星」であるボニーボニーが特に力を入れている音声配信番組『ボニーボニーのも〜っと!鬼★いてこましラジオ』が、崖っぷちへと追い込まれている。

大阪の大手ラジオ局のプロデューサーが一目惚れ「番組をやらないか」

番組が立ち上がったのは2022年5月。大阪の大手ラジオ局、MBSラジオのプロデューサーがボニーボニーの漫才をたまたまライブで鑑賞して気に入り、「番組をやらないか」と持ちかけた。

ボニーボニーのツッコミ担当、花﨑天神さんは「正確に言うと、プロデューサーさんが見たのはネタをやらない漫才だったんです。相方がセンターマイクのところに立った途端、『ネタをするのをやめる』と言い出して。そして『絶対に触っちゃダメ』と事前に注意されていたステージ後方のライトを触るか、どうかという話ばかりしていたんです。出番5分前までネタ合わせをしていたのに『あれはなんだったんだろう』という感じだったので、僕としてはめちゃくちゃ怖くて。だけどそれがウケて、プロデューサーさんも気に入ってくださったようなんです」と苦笑いを浮かべる。

それをきっかけに、同局のスタジオを使用して『ボニーボニーのも〜っと!鬼★いてこましラジオ』の収録が始まった。もちろん、制作費のバックアップもあった。その内容は、音声配信サービスのRadiotalkなどで聞くことができる。ボニーボニーのボケ担当、バリーとくのしんさんは「このラジオをやる前まではメディア露出がまったくと言って良いほどなかったので、すごく嬉しかったです」と冠番組を手にした喜びを振り返る。

芸人と二人三脚の放送作家「ムカつくんで、絶対にやめたくありません」

そのときのライブを手がけた加藤進之介さんは、ボニーボニーが主戦場とする大阪の劇場・楽屋Aを経営している。そんな加藤進之介さんは、ボニーボニーの番組について「現在は『M-1グランプリ』の結果で仕事の話が決まることが多い。そんななか、メディア関係者にライブを見てもらって番組が決まった経緯は、夢がある話でした。なんせ、プロデューサーの方の『おもしろかった』という感想の一本だけで番組が立ち上がったわけですから」と、同番組の存在は大阪のインディーズシーンで活動する芸人たちにとって励みになったと語る。

MBSラジオへ毎週行き、充実した録音環境で収録はおこなわれた。二人のトークも回を重ねるごとに活気づいた。バリーとくのしんさんが、放送中にもかかわらず、カフ(マイクのオンとオフを切り替える機材)をいじって放送事故寸前になったことも。そういった破天荒な内容が評判となり、立場のある局関係者ものぞきに来るようになった。

ところが2023年夏頃、番組にかけられていた予算の縮小が決まった。花﨑天神さんは「番組はこれでおしまいになるんじゃないか、と思った」と明かす。しかし同番組の放送作家であり、収録時のスタッフワークも任されている弘松メイさんが、大阪・心斎橋にある喫茶店へ二人を呼び出してこのように話したという。

「ムカつくんで、私はこのラジオを絶対にやめたくありません」。

弘松メイさんはその言葉の真意について「予算的にしんどくなるとか、誰かに対してとか、そういうことへのムカつきではないんです。番組のおもしろさがうまく伝わっていなかった現状に対してのムカつきだったんです。どちらかと言うと『番組を絶対に手放したくない』と思わせることができなかった、自分へのムカつきですね」。

それでもボニーボニーは前述したように、『ytv漫才新人賞決定戦』の予選会に出場するなど、少しずつではあるが脚光を浴びるようになった。しかし、ボニーボニーに声をかけたプロデューサーの異動が決まったことで、2024年7月からMBSラジオのスタジオを使用することが不可能に。そして予算も完全に失うことになってしまった。

弘松メイさんは「2023年夏に予算が減ったときから、『別の局で放送してもらえないか』と模索はしていました。だけど現実はそんなに甘くなかった。状況が大きく変わってしまったため、現在は私が所属している事務所で収録するなどし、自力でやっています」と悔しさをにじませながら現状を伝える。

ボニーボニー「『M-1』で結果を出すしかない」

必要なのは「番組を支援してくれるスポンサーや、番組の放送をおこなってくれるラジオ局」なのだという/写真:筆者撮影
必要なのは「番組を支援してくれるスポンサーや、番組の放送をおこなってくれるラジオ局」なのだという/写真:筆者撮影

番組終了も考えられたなか、弘松メイさんが続行にこだわった理由は「この番組は私が業界へ入りたてのタイミングで担当させてもらったもの。お笑いの仕事をやってみたかった私にとって、思い入れが強いんです。なにより、こちらがやって欲しいことを『ノー』と言わずにおもしろくやり切ってくれるボニーボニーさんのことを、いろんな人にもっと知ってもらいたいんです」と力を込める。しかし、弘松メイさんやボニーボニーの仕事の状況に変化が訪れるなどした場合、番組続行は難しくなる。必要なのは、番組を支援してくれるスポンサーや、番組の放送をおこなってくれるラジオ局などだ。

花﨑天神さんは「僕らは、弘松さんが『もう無理です』と言うまで一緒にやっていくつもり」と、まさに一蓮托生の思い。バリーとくのしんさんは「2023年夏、心斎橋の喫茶店に呼び出されたときのことが忘れられないんですよね。弘松さんが『なんでも食ってください、今日は私のおごりです。絶対にやったりましょう!』と言ってくれた、あの姿が」と笑う。

番組再建のカギは、やはりボニーボニーの肩にかかっている。大阪のインディーズシーンで、しかも事務所無所属で活動しながら、熱心なお笑いファンであれば必ず知るコンビへと成長。花﨑天神さんは「大手事務所の芸人さんと同じステージに立つ機会が増えてきた。だからこそ、その技術のすごさにも気づけるようになった。負けたとき、本気で悔しがれるようになってきた。がんばり方、取り組み方が変わってきたんです」、バリーとくのしんさんも「これまでは先輩のネタを見ても、ただただ『おもしろい』だったのが、近くで戦うようになり『この人はこういうところがおもしろいんだ』という風に思えるようになった。この“筋肉”をつけたらもっと戦えるぞって」と手応えを感じている。

もちろん目指しているのは、『M-1』などのお笑いの賞レースで優勝すること。ボニーボニーは「僕らが賞レースで結果を出せば、サポートしてくださる方が現れるはず。なんとかもう一度、この番組を陽のあたる場所へ持っていきたい」と口を揃えた。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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