Yahoo!ニュース

日本代表ヤマトシジミは虫捕り少年たちにも無視される悲しい蝶?

天野和利時事通信社・昆虫記者
ヤマトシジミのオス。よくよく見るとすごくきれいな蝶なのに誰にも見向きもされない。

 「ヤマト(大和)」という語は、日本を意味し、日本を代表する事物に冠されることが多い。戦艦大和、大和なでしこなどがその例だ。虫の世界でもヤマトタマムシは、日本一美しい虫の最有力候補だ。夏の虫捕りの定番、カブトムシもヤマトカブトと呼ばれることがある。

 そんな中で「ヤマトシジミ」は、かなり冷遇されている感がある。日本中に広く分布する(北海道では珍しいらしい)シジミチョウなので「ヤマト」という、名誉ある名前を付けられているが、あまりにも小さく、目立たないので、だれにも注目されない。

 モンシロチョウやモンキチョウには興味を示す虫捕り少年・少女たちも、目の前にたくさんいるヤマトシジミは無視することが多い。

ヤマトシジミのメス。これはあまりにも地味。でも、目立たないことは生き残っていく上で有利なのだろう。
ヤマトシジミのメス。これはあまりにも地味。でも、目立たないことは生き残っていく上で有利なのだろう。

ヤマトシジミの正面顔アップ。よく似たルリシジミは目が黒いことで見分けられる。ルリシジミの幼虫はハギ、クズなどマメ科の花を餌にしており、カタバミの葉を餌にするヤマトシジミよりずっと少ない印象。
ヤマトシジミの正面顔アップ。よく似たルリシジミは目が黒いことで見分けられる。ルリシジミの幼虫はハギ、クズなどマメ科の花を餌にしており、カタバミの葉を餌にするヤマトシジミよりずっと少ない印象。

 しかし、当のヤマトシジミは、そんなことを悲しいとは思っていないだろう。子どもたちに追い回されることもないので、勝手気ままな生活を楽しみ、繁栄を極めている。そして、よくよく見るとヤマトシジミのオスはかなりきれいな蝶でもある。

 ヤマトシジミの繁栄の秘密は、幼虫の餌にもある。幼虫の食草は、庭の片隅や、近所の空き地、小さな公園にいくらでも生えているカタバミという小さな雑草なのだ。あまりにも普通の雑草なのでその存在が意識されにくく、カタバミという名さえ知らない人が多い。

 夏場にカタバミの茂みを見渡せば、交尾、産卵に忙しいたくさんのヤマトシジミの姿を見ることができる。

カタバミの葉上でお見合い中のヤマトシジミのメス(上)とオス(下)。
カタバミの葉上でお見合い中のヤマトシジミのメス(上)とオス(下)。

メスのヤマトシジミ(上)の産卵を邪魔しに来たオス。
メスのヤマトシジミ(上)の産卵を邪魔しに来たオス。

カタバミの葉裏に産み付けられたヤマトシジミの卵。
カタバミの葉裏に産み付けられたヤマトシジミの卵。

ヤマトシジミの幼虫はごく普通のイモムシだ。
ヤマトシジミの幼虫はごく普通のイモムシだ。

羽化直前のヤマトシジミの蛹。
羽化直前のヤマトシジミの蛹。

 日本人であり、しかも虫好きであるならば、日本を代表するヤマトシジミを是非じっくり観察してほしい、と言いたいところだが、実は昆虫記者でさえ、今回の記事を書くまで、ヤマトシジミの写真をしっかり撮ったことがなかった。日本人、虫好きとして猛省すべきことだ。

(写真は特記しない限りすべて筆者=昆虫記者=撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

天野和利の最近の記事