コロナ禍の子育て女性就労困難問題を解決せよ!【小安美和×倉重公太朗】最終回
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日本の人口は、2009年をピークに12年連続で減少となっています。総務省は、2015年からの15年間で生産人口が909万人減ることを見込むというデータを示しました。そんな中、働きたいのに働けない女性はいまだに多くいるようです。働いているのに困窮している非正規雇用労働者やシングルマザーに対する支援も必要とされています。本当に多様な人材が活躍する社会を作るためには、働き手の意識改革はもちろん、会社も制度も変わっていかなければなりません。小安さんとの対話で、そのヒントを探りました。
<ポイント>
・困窮家庭のキャリアアップを誰が担うのか
・女性の就労支援で、企業側が持つべき視点
・40~50代の女性をどう支援していくべきか
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■働く楽しさを女性たちに伝えたい
倉重:最後に小安さんの夢をお願いできますか。
小安:私の夢は、「女性×はたらく」を当たり前にすることを通してジェンダーギャップのない日本をつくることです。私自身は働くことが好きなのです。「スポーツが好き」という人には誰も何も言いませんが、「働くことが好き」と言うと、結構おかしな人扱いされることもあります。
倉重:確かに。
小安:私は「スポーツが好き」「釣りが好き」と同じレベル感で、「働くことが好き」なのです。
倉重:それを自分で選択しているわけですものね。
小安:はい。働く楽しさ、醍醐味(だいごみ)というものを女の子たちに知ってほしいし、経済力さえあればなんでもできるのです。
倉重:なるほど。我慢して、ひどい旦那に耐えなくていいですからね。
小安:そうです。自己決定する力を女の子たちに持ってもらいたいし、そういう社会になるといいなというのが私の夢です。
倉重:いや、素晴らしいです。この対談もいろいろな方と「働く」について考えています。働き方改革や、残業の規制、有給休暇の義務化など、「働くのは悪いことだ」というメッセージが世の中に溢れ過ぎていると思います。まさに、「働くことは楽しく、意味があることだ。人生を懸けてやることなのだ」というのをいろいろな方に語ってもらいたいと思ってこの企画をしています。
小安:傍楽(はたらく)という言葉がありますよね。「傍ら」と書いて「はた」ではないですか。つまり周囲を楽にするのが「働く」なのです。
倉重:「傍楽(=働く)」ですね。なるほど。
小安:「働く」は苦役ではありません。私が働くことで家族が楽しくなるし、楽になるはずなのです。
倉重:誰かの役に立ちますしね。
小安:それが「働く」なのだと思います。
倉重:すごく良い締めだと思います。
■女性の就労支援をする際に必要なこと
倉重:最後に観覧席からご質問を承ろうかと思います。では、コヤマツさん。
コヤマツ:本日は貴重なお話をありがとうございました。今日は福岡から参加させていただいています。「女性はそういう苦労をされているのだ」ということを改めて気付けたというのが正直なところで、非常に勉強になりました。ありがとうございます。
1つ気になったことが、女性が主婦の方の就労支援というのは比較的入りやすいと思うのですけれども、一方で、もし男性が主婦の就労支援をやりたいとなった場合、小安さん的には「どういうことに気を付けたほうがいい」とか、「男性だからこそ、こういうことを言えればいい」みたいなのはあったりするものでしょうか。
小安:ありがとうございます。確かに、女性の就労支援をしている人は女性が多いですね。私が専業主婦の就労や復職支援をする際、企業担当者が男性の場合は「企業相談会では、なるべくカジュアルなスタイルで、スーツは着てこないでください」とお願いしています。専業主婦をしていると、スーツを着ている人と会うことがあまりありません。
コヤマツ:なるほど。
小安:なので、「同じ立場に立てない」「怖い」「緊張する」と言います。そうするとお母さんたちの本来の良さが出なかったりするので、必ずカジュアルな格好をしていただくというのが1つ。あと、いつも「笑顔でお願いします」と話しています。この2つは、マッチングイベントでは必ず言うのです。
あとは、役割分担があると思います。特にブランクが長い女性の場合は、一に不安、二に不安、三に不安という状態なので、「大丈夫ですよ」というメッセージが一番大事です。そういう意味で、私はできれば(男性の)責任者ではなくて、「女性で子育てをしながら働いている担当者の方との対話機会を」とお願いしています。男性もそうだと思うのですが、女性も自分と近い人を見ると、「私もできるかも」と感じるのです。ロールモデルを見せるということを大事にしています。
コヤマツ:ありがとうございます。
■女性の就労支援で、企業側が持つべき視点
倉重:ではツルさん。
ツル:今日はありがとうございました。私は企業の人事制度をつくるコンサルタントをしていて、いろいろな企業さんの人事制度づくりをしています。女性の活躍と就労支援というのは、正直その場のことを制度設計したり、対処したりすることはとても容易なのです。けれども、長く働き続けられると、例えば「女性の賃金は上がらないけれども、男性はどんどん上がっていって格差が開くのはどうなの」とか、真面目な企業さんほど考えてしまいます。要は、「ルールに乗せる場所がないから対処できません」となるのです。割とフットワークが軽い企業さんほど、「そんなことは考えないで雇ってしまえ」という感じがあったりするのですが、きちんとルールが整備されている真面目な会社さんほど、「処遇する場所がないのです」ということになります。
そういった点で、今支援されている女性の皆さまは、その企業の中でキャリアアップして、評価されてお給料が上がっていくことを、どこまで描いていらっしゃるのかなということが気になりました。
小安:ありがとうございます。まさに、そこは大事なポイントです。私たちのプログラムでは、まずお母さんたちに「中長期でステップアップをイメージすることが大事」と話しています。自分の年齢とともに、子どもも大きくなるので、今と未来は同じ状況ではありません。特に子育て中の女性はそうです。10年ぐらい先を見据えて、「自分が○歳の時に子どもが○歳」というライフプランニングを書いてもらいます。それで、「今はしんどいけれども、この頃になるとさすがに子供からは手が離れていますよね」ということに気付いてもらうのです。「できることを少しずつ増やしてステップアップしていかないといけないですよ」という思考を持つようお話しています。
企業側に話すことは、「今は短時間勤務しかできないかもしれないけれども、中長期でみれば、フルタイム勤務、さらには管理職もできる人材に成長する可能性がある」ということです。
■困窮家庭の支援は実利が見えることが大切
松浦:貴重なお話をどうもありがとうございました。
困窮家庭のひとり親の支援においては、「具体的なメリットが見える」ことが重要だと思います。たとえばマネープランやメイクアップは、まさに具体的なメリットだと思いました。
小安:ありがとうございます。
松浦:状況改善に向けて行動するためには、自己肯定感の向上が重要なポイントになるのだということにも改めて気づかされました。
政策的には、職業能力開発支援やハローワークといった仕組みがありますが、利用に向けて背中を押したり、具体的なメリットを説明するといった支援がないと、なかなか利用につながらないのですよね。政策の仕組みとそれを必要としている人を「つなぐ」ための支援を誰がやるのか、できるのかというのも、重要な論点だと思いました。
倉重:ちょうどこの対談でも、東大の経済学者の方と対談して、雇用市場のマーケットデザイン論についてもお話ししたのですが、一対一でマッチングをすると、やはりどこかしら必ずミスマッチというのは出てくるので、「絶対仲介者的な、センターに入る人・組織が必要だ」ということをおっしゃっていました。「多分、この分野でもそうなのだろうな」と思って聞いていました。「それが誰なのか」という話なのですけれども。
松浦:そうですね。
小安:全国各地に「リスキリングセンター」みたいな場が必要なのかもしれません。今回、プログラムをやってみて、20代、30代はやる気さえあればジョブチェンジできることがわかりました。例えば3年間職業訓練で看護学校に行って、看護師になるという、ガッツのあるお母さんもいました。資格を取ってジョブチェンジ、ジョブシフトする人は20~30代に多いです。
ただ、40~50代のお母さんたちの中には、新しいことを学ぶことに自信を持てない方も多いです。今年50歳となった私自身もそうですが、人生100年時代には、40代、50代になっても後20-30年働くため、リスキルは必須。この世代に対するサポートを誰が、どのようにやっていくのかというのは課題です。
松浦:ありがとうございます。
倉重:いや、最後に本当の課題が見えてきた感じがして、非常に良かったです。これからまだ取り組みとしても続いていければいいと思います。小安さん、どうもありがとうございました。
小安:ありがとうございました。
(おわり)
対談協力:小安美和(こやす みわ)
株式会社Will Lab (ウィルラボ)代表取締役
株式会社インフォバーン 社外取締役
株式会社ラポールヘア・グループ社外取締役
内閣府男女共同参画推進連携会議有識者議員
東京外国語大学卒業後、日本経済新聞社入社。2005年株式会社リクルート入社。エイビーロードnet編集長、上海駐在などを経て、2013年株式会社リクルートジョブズ執行役員 経営統括室長 兼 経営企画部長。2015年より、リクルートホールディングスにて、「子育てしながら働きやすい世の中を共に創るiction!」プロジェクト推進事務局長。2016年3月同社退社、6月 スイス IMD Strategies for Leadership(女性の戦略的リーダーシッププログラム)修了、2017年3月 株式会社Will Lab設立。岩手県釜石市、兵庫県豊岡市、朝来市などで女性の雇用創出、人材育成等に関するアドバイザーを務めるほか、企業の女性リーダー育成に取り組んでいる。2019年8月より内閣府男女共同参画推進連携会議有識者議員。