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【ウィキリークス】アサンジをスウェーデンに引き渡せ 英下院議員らが要求 #MeTooの影響も

小林恭子ジャーナリスト
「アサンジを自由の身にせよ!」と運動する人々(写真:ロイター/アフロ)

 2012年から、ロンドンのエクアドル大使館に籠城中だった、内部告発サイト「ウィキリークス」の創設者ジュリアン・アサンジ容疑者(47歳)。

 11日、英警察によって逮捕された後、ウエストミンスター治安裁判所に出廷。判事はこの日の逮捕容疑となった保釈条件の違反(定められた裁判所への出頭を怠った)として有罪判決を下した(なぜ「保釈」なのかは、少し先に説明)。今後の判決では、最高で1年の禁錮刑に処される可能性がある。

 ウィキリークスと言えば、2010年秋、リーク情報を基に米軍の大量の機密文書を公開したことで世界的に著名となった。

 しかし、アサンジが大使館に籠城したきっかけは、同年夏、スウェーデン滞在中に知り合った女性二人に対する性的暴行(強姦)事件だ。本人は疑惑を否定している。

 アサンジは捜査に協力せず、同年11月、国際刑事裁判所によって、性犯罪容疑で国際手配された。これを受けて、12月に英警察がアサンジを逮捕。のちに保釈されたが、2012年5月、英最高裁がアサンジのスウェーデンへの身柄移送判断を下してしまう。移送を避けるため、アサンジは大使館に駆け込んだ。

 なぜスウェーデンに移送されることを拒んだかというと、その後に米国に移送されて、スパイ容疑などをかけられることを避けるためだった。「米国では公正な裁判が受けられない」と主張していた。

 アサンジが大使館に籠城状態となったため、スウェーデン検察側は捜査を一旦、あきらめた。

 しかし、エクアドルでは政権が交代し、アサンジが「諸外国の内政に干渉するなどその行状について限界に達した」ことを理由に、保護を中止した。

 アサンジが大使館の外に出たため、スウェーデンの性的暴行疑惑の捜査が再開される見込みが出てきた。

 一方、米司法省は、逮捕日に、アサンジがリーク者(元陸軍情報分析官チェルシー・マニング)と共謀し、「政府の機密情報を扱うコンピューターに侵入した容疑」で訴追されていたことを発表した。(アサンジ容疑者の身柄、イギリスはアメリカに引き渡す?、BBCニュース)。

 米国はアサンジの身柄移送を求めており、英政府はどうするかを決めなければいけないが(5月2日、審理が行われる予定)、12日夜、「それよりもまず、スウェーデンに移送されるべきではないか」と英議員たちが声を上げた。

 筆者は、2017年秋以降の「#MeToo」運動の影響が大きかったのかもしれない、と思っている。

 2010年の疑惑発覚以降、「女性側とアサンジ側のどちらが本当のことを言っているか、分からない」という見方があったと思う。あるいは「疑惑は米側の陰謀だ」という声も。しかし、今や、「まず犠牲者の側に立つ」ことが実に自然に受け止められるようになった。

「きちんと捜査されるべき」

 ジャビド内相に宛てた書簡の中で、70人の議員らは、内相に(疑惑の)「性的暴力の犠牲者の側に立ってほしい」と訴えた。強姦疑惑について「きちんと捜査してほしい」。

 

 「私たちは、もちろん(アサンジが)有罪だと推定しているのではない。しかし、(法の)適正手続きが行われるべきと考えている」。

 同様の書簡は、労働党のアボット影の内相にも送られたという。

 

ステラ・クリーシー労働下院議員のツイッター(ツイッター画面から)
ステラ・クリーシー労働下院議員のツイッター(ツイッター画面から)

 

 書簡を書いた一人で、労働党議員のスティーブ・キノック氏はBBCの取材に対し、アサンジ容疑者の身柄移送事件は「政治問題化している」、しかし、書簡によって「アサンジ氏がまず第一に、スウェーデンでの強姦疑惑に問われていることをはっきりさせたかった」と述べている。「この点がかき消されるべきではない」。

 今のところ、身柄引き渡しを要求しているのは米国だが、もしスウェーデンが同様の要求をすれば、ジャビド内相はこれを考慮する必要が出てくる。

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 「ウィキリークス」とは?(「英国ニュースダイジェスト」の筆者による解説。2011年)

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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