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北朝鮮「ご子息、ご令嬢のご乱行」で見せしめの刑

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の兵士(デイリーNK)

 北朝鮮北東部の羅先(ラソン)は、中国とロシアの国境に面した経済特区で、北朝鮮の地方都市の中では一二を争う豊かな町だった。

 だが、2020年1月、コロナ対策として国境が封鎖され、すべての貿易がストップしたことで、羅先は奈落の底に突き落とされた。深刻な食糧難が町を襲い、食べ物が底をついた絶糧世帯が続出した。

 そんな中でも例外はあるトンジュ、いわゆるニューリッチだ。飢えに苦しむ人々をよそに、狂乱のパーティを繰り広げていた彼らの子女が摘発された。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

 羅先でも有名なトンジュたちの息子、娘である彼ら、彼女らは、コロナ前から10日に1回集まって、後輩たちを呼び集めて、飲めや歌えやの大騒ぎを続けてきた。もちろん、そんな場に、韓国のK-POPは欠かせない。

 彼らはK-POPをかけて、歌い踊り大騒ぎを繰り返していたが、ちょっとした集まりでも禁じられる非常防疫体制下でのどんちゃん騒ぎとあって、隣人に通報されてしまった。

 早速、反社会主義・非社会主義連合指揮部(82連合指揮部)が取り締まりに乗り出し、家に踏み込んだ。ところが、かかっていたのは北朝鮮の歌。そんなはずはないと、取締官がUSBメモリを確認してみたところ、取り締まりを避けるために、北朝鮮の歌のファイルに、K-POPのファイルが混ぜられていることを発見した。

 ご禁制のK-POP、コロナ禍で禁じられたパーティだけではなかった。家宅捜索で覚せい剤が発見されたのだ。結局、その場にいた5人は逮捕され、8日間の取り調べを受けた上で、羅先市保衛部(秘密警察)に身柄を移された。

(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

 話を聞いた羅先市民は怒っている。

「羅先市では、コロナ長期化のせいで、家を失ったり、ろくに食べるものがなかったりして、死んでしまうことも頻繁に起きているのに、その裏側では、大宴会を繰り広げ、国が禁じる南朝鮮(韓国)の音楽までかけて歌って踊っていたのだから、住民の間では『許されない』との反応が出ている」(情報筋)

 こうした行為は、下手をすれば処刑を含めた重罰が下される危険なものだ。逮捕された5人も、何らかの形で「見せしめの刑」にされるのは避けられないだろう。

 ただ一方では、軽い処罰で済まされる可能性も取りざたされているという。市の治安、行政、司法など様々な機関と太いコネを持っている親がバックについているだけあり、カネの力でもみ消す余地があるからだ。

 ただ、無罪放免にしてしまうと市民からの厳しい視線に晒される可能性があるため、とりあえず処罰したことにして、短期間で釈放するなどの手法が取られるかもしれないとの見方もある。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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