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テレワークのマネジメント課題を解決する方法【皆川恵美×倉重公太朗】第2回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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コロナ禍が長期化するにあたって、ますます当たり前になってきているテレワーク。在宅勤務で問題になるのは人事評価です。これまで同じ空間で見たり聞いたりしていた情報が入らなくなったため、部下の評価やマネンジメントに悩んでいる方は多いかもしれません。また、相手が目の前にいないからこそコミュニケーションのズレも起きやすくなるものです。株式会社KAKEAIの共同創業。取締役の皆川恵美さんに、テレワーク中のマネンジメントの方法について伺いました。

<ポイント>

・カケアイを使って、日常の現場の生の声を集めていく

・テレワークが増えたことで起きている変化

・カケアイのメリットは、上司が自分の言動をチューニングできること

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■「カケアイ」は教育分野にも活用できる?

倉重:仮に 1 on 1のやりとりを全部録音して、文字起こしをして、部長と検討しようとするとすごく大変です。私は裁判対応で面談記録を全部文字起こしして、分析して、「この発言がハラスメントか否か」と原稿を読んで判断するのですが、すごく疲れます。

皆川:確かに、そうですね。

倉重:そういうことがなくなれば、すごくいいと思います。そもそもカケアイを使えば、問題が大きく変わったなる前にコミュニケーションを改善できるということですよね。ハラスメントなどは最初の段階ではちょっとした不満や掛け違いだったりするものが、長年蓄積して、法的な争いまで発展してしまうケースも結構あると思っています。そういう労使紛争を予防できそうですね。

皆川:「カケアイ」のデータを見ながら、メンバーの成長の実感がどのように変化していくのかを分析している企業もあります。成長の実感やマインドが変わっていくものなので、日常の現場の生の声を集めていくと活用の可能性が広がるかと思っています。

倉重:確かに、働いている中で「日々成長している」という自己肯定感を持っている状態かどうかは、人生の充実度合いにとってすごく重要ですものね。

皆川:そうですね。

倉重:それは「仕事は頑張ればやりがいがある」といった昔ながらの話ではなくて、一人ひとりカスタマイズできるということでしょうか。

皆川:そうなのです。

倉重:そういう意味では、組織の問題に着目したツールではないかと思いますけれども、恐らく職場以外でも使えますよね。

皆川:そうです。学校、大人の習い事でも、医療の現場でも、何かしらの「関わり方」の工夫がある領域で活用できると思っています。その領域では「カケアイ」の構造が活用できるので、クラウドシステムで提供する特許も取っています。いろいろなシーンで応用は可能ではないかと思っています。

倉重:実際にいろいろな業界での展開も考えているのですか。

皆川:まだ具体化はしていませんが、学習塾や医療業界の方が非常に興味を持ってくださって、お問い合わせも複数いただいていますね。

倉重:確かに、うちの娘も今小6で中学受験生ですけれども、日々テストの点数や、授業について悩んでいます。チューターさん一人で何十人も生徒を見ていますので、どのような状態かなど日々追っていられません。それが全部分かれば、指導する側もやりやすいだろうと思います。

皆川:そこでも、一緒に考えることが必要なのか、何を教えてほしいと思っているのかがわかるといいですよね。どうしてもあるべき論や教えた側の成功体験に依存するところもあるので、活用の余地があるのではないかと思っています。

倉重:わかりやすい例で言うと、「テストで点数が悪くて今凹んでしまっている状態。フォローが必要です」とか、「自分的には非常に良かったので、すごく喜んでいます。褒めてください」という状態かどうかも分かるということですよね。

皆川:そうですよね。いろいろな生徒さんがいるので、他の先生がどう教えてうまくいったか、どう対応したら勉強への興味が高まったのかということがナレッジとして流通したら、参考になりますよね。

倉重:先ほどの他部署での話と同様に、別のクラスの先生がどのようにしているのかが実際にデータとして伝わってきて、「これに意味がある」という情報を全国で共有できたら、すごい知見がたまりそうですね。

皆川:そうなのです。世界中の知見として広げていきたいと思っています。

倉重:夢がありますね。それは本当に世の中を変えるかもしれません。

■コロナ前と比べて組織の在り方は変化したか

倉重:皆川さんとしては今後、「カケアイ」をどういう感じで展開していきたいですか?

皆川:「カケアイ」の中で部下の満足度がグッと上がった時に、上司側がTipsとしてその時に心掛けていたことをナレッジとして入れてくださるのですが、その内容を見ていると感動します。いざ自分が部下から求められた対応をする時に、他のマネジャーがどうしているかがわかると「確かに!」「なるほど!」という気づきがありますよね。最近、日本国内だけでなく、ニューヨーク、シンガーポール他海外の拠点でも利用していただいています。業界、業種、地域も超えて、どんな上司の対応が有効なのかを知ることができたらとても有益だと思っています。

倉重:本当ですね。学習すればするほど、どんどん精度が高くなってくるでしょうし。

皆川:そういうことです。特性や状況、メンバーのこれまでの経験やワークスタイルなども取り組んでいけたらより精度も上がっていきます。

倉重:ちなみに、コロナ前と比べて組織の在り方などに何か変化はありますか。

皆川:職場というこれまでのプラットフォームがなくなったことで、タスクだけ進めてしまう傾向があります。いかに組織として、共通の方向性に向かって危機感だけでなく良い兆しも共有するか。いかに情報を展開して、点でつなぐだけではなくストーリー全体をきちんと皆で共有するかに関心が集まっていると思います。

倉重:方向性を語っている上司の人は少ないですか?

皆川:以前は、同じ場所にいることで組織の動きや空気を感じ取れていたので、あえて語らなくても伝わっていたという面はあるでしょうね。

倉重:「あの人ならば、こう考えるよね」といった感じですね。

皆川:はい。自然に見えていた物が、見えなくなりました。だから、きちんと方向性を伝える重要性は高まっているでしょう。テレワークでは、イノベーションや新しいことをするためのディスカッションで、「本当に考えきった」「これで限界を超えた」といったところまで持っていくのは難しいという話も伺います。新しいことにチームや組織としてどう取り組んでいくのか、いろいろなやり方を模索したいと皆さんも思っているのではないでしょうか。

倉重:コロナ禍において、事業そのものがどちらに行くのか、いろいろ模索している企業もあると思います。労働者の意識という面では、まだそこまで変わっていないかもしれません。「自分の会社は将来どうなるのだろう」といった漠然とした不安のようなものを抱えている人は多いと思います。リクルートワークスさんの調査でも、まず上司、あるいは経営者があるべき方向性を示すのが大事だと書かれた記事がありました。テレワークなどになると、まさにそういうことが求められるのでしょうか。

皆川:そうですよね。代表的なのは、新卒入社の方への対応です。新しい人とチームを組成する時には、暗黙知のようなものが空気では伝わらないので、そこにしっかり取り組んでいく必要性があります。そこが大きく変わったところです。

倉重:コロナ時代において特に難しいのは、今おっしゃった、新しい人を迎えることです。各社は研修を含めて新入社員対応に悩まれていると思います。「カケアイ」を使って、新入社員に適正な教育をすることもできるのですか?

皆川:もちろんです。会社さんによっては、3年目の先輩社員と新入社員でペアになって、「カケアイ」を使っているという例もあります。ナレッジの共有があると、メンターの人も心強いですし、参考になりますよね。

倉重:メンター自身もメンター経験がないので、なおさら必要ですね。

皆川:1対1で、お互いの意見をすり合わせながら良くなっていくところに「カケアイ」がうまく介在できると、ご活用いただく意味があると思っています。

倉重:テレワークになって人事評価が難しいとか、日々の状態をどうやって見たらいいのかと悩む管理職の方もいらっしゃいますけれども、そういう点はいかがですか。

皆川:難しいと感じるのは、これまでプロセスとして見えていたところが、見えにくくなっているのが原因です。最初の段階で成果の認識を明確にすり合わせておかなければ、評価が難しくなりますよね。一緒にいてプロセスを共有しながらでも、成果やアウトプットの質の評価はズレたわけですから。納得感のある評価のためには、アウトプットや具体的な成果を明確にしておくことと、日常の仕事をどれだけ共有化していけるかが鍵になってきます。半年前に目標設定をして、それについて一切話さずに、ただ「時期が来たから評価するぞ」といってシートを持ってきても、見ていなければ評価も何もできません。

倉重:半年前の話だけでは分かりませんよね。

皆川:そういう意味でも、「カケアイ」のような日常の対話での質の重要性は高まっています。日常できちんとお互いのことを理解していれば、評価の時期だから何か活動するということ自体がなくなるのではないでしょうか。

倉重:何となく経験や感覚でしていたものから、一つひとつきちんとデータを蓄積した上での判断になるのですね。「勘と経験からデータ活用へ」とよく言いますけれども。

皆川:そうですね。

倉重:いろいろな組織が使うべきだとは思いますけれども、まだ導入をためらっているところもあるのでしょうか? まだそんなに知られていないのですか?

皆川:「カケアイ」は上司部下の関わり方の課題をテクノロジーで解決していくということで賞もいただいていますが、まだ全然知られていないと思います。

倉重:まだこれからという感じですね。管理職に対して部下の接し方を一般論で教えるのではなくて、「日々のAさんの感じ方からこういう点を学んでください」という話ですよね。

皆川:そうだと思います。株式会社KAKEAIの取り組みの中で、INTERACTION LAB. ――上司と部下の関わり方を考えるコミュニティを始めました。関わり方というのは唯一絶対の正解はなくて、事業の内容やフェーズ、それから事業に果たしている組織のファンクションによって変わってくるものです。

特に、ボリュームを追求してきた経済から、完全にデジタルシフトしていく変換点では、マネジャー自身もそのソリューションを経験していないことがあります。そういう中で、上司と部下という関係性をどのようにすべきか考える場として、2020年3月末まで前アクセンチュア執行役員人事本部長を務めていた武井章敏さんを所長に迎え、INTERACTION LAB.というコミュニティを作りました。このテーマに興味がある方と継続的に情報交換やディスカッションをしていきたいと考えています。ご興味を持ってくださるお仲間を絶賛、募集中です。

倉重:今年の6月にパワハラ防止法が施行されて、管理職の方はパワハラをするなと当然言われています。一方で、労働時間の上限規制がある中で、労働の総量は限られているけれども成果は出せと言われています。そのためのマネジメントを何とかせよという話ですよね。いろいろな責務を抱えていて、どうすればいいのか、すごく不安な人が多いのではないでしょうか。

皆川:そうだと思います。ともすると、上司側が自分でタスクを引き取ってしまうようなことにもなりかねません。チームメンバーの力を引き出し、成果を出すという役割の方は、気にしなければならないことがたくさんありますよね。

倉重:例えば、部下に対して注意指導するときのコツなどもあるのですか。

皆川:まずは事実に基づいて話すことです。相手に改善してほしいことや、その必要性と背景もセットで伝えると、聞いた側も納得感が高まります。もちろん、あらかじめ期待や大事なことは伝えておくほうが望ましいです。目標と成果のゴール、アウトプットのイメージと、あとは進め方がすり合っていないケースはよくありますね。

倉重:人によっていろいろなルートがあり得る可能性もあります。

皆川:後から「それはダメだ」というよりも、あらかじめOBライン(境界線)について合意できているほうがスムーズですよね。

倉重:「そのようなことは言わなくても分かるでしょう」ではダメですよね。

皆川:同じような仕事をして、判断基準が共有されている場合は、伝えなくても問題ないかもしれませんが、そのようなケースは少なくなっていますよね。あらかじめ大事なポイントを上司も部下も確認できているほうが、双方進めやすくなります。

倉重:「カケアイ」を使うと、そこも可視化されるということですか。

皆川:個々のメンバーに対して、関わり方をどう工夫すれば良いかを上司側が考えて、行動をチューニングする材料になります。話を聞いてほしいと言われて、対応している中で、変化がみられないのならば、伝えるべきことを伝えていないことが考えられます。

倉重:HRテクノロジーというと、従業員が大変多い企業が大規模な分析をするもので、「それはうちの企業には関係ない」と思われる方も結構いたりします。今の話は、上司と部下、さらにいえば人と人が関わる以上は、どのようなところでも役立つ話ですよね。なので、そういうイメージを持ってもらえるといいかと思います。

皆川:そうですね。「カケアイ」がフォーカスしているのは、上司の役に立って、その関わりの質が高まることによって、メンバーが成長して、組織としても成果を出していくという領域です。マネジャーとメンバーが主役として、お役に立てるようなサービスを提供しています。

倉重:そうですね。先ほどの話で、管理職はマネジメントという意味でも、やらなければならないことが本当にたくさんあります。それなのに部下の仕事まで引き取ってしまったら、倒れてしまうかもしれません。

皆川:そうですね。

倉重:そういう悩める管理職へのお助け船になるのではないかという感じですね。

(つづく)

対談協力:皆川 恵美(みながわ えみ)

株式会社KAKEAI 共同創業・取締役

東京大学卒業後、2002年(株)リクルート入社。(株)セルム・PMIコンサルティング(株)にて管理職育成、組織開発コンサルティングに従事した後、独立し2010年より株式会社ミナイー代表取締役社長。同社を廃業し2018年4月 KAKEAIを共同創業。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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