「LGBT生産性ない」という偏見への英レズビアン党首の元気な答え、妊娠と出産、愛、人生いろいろ
「世界で最も影響力のある100人」
[英イングランド中部バーミンガム発]レズビアンであることを公表、女性のジェン・ウィルソンさん(36)と婚約している英スコットランド保守党のルース・デービッドソン党首(39)が10月26日、4578グラムの元気な男の子を出産しました。名前はフィン・ポール・デービッドソンくんだそうです。
デービッドソン党首は「世界にようこそ、おチビちゃん。あなたは愛されていることを知りなさい」と喜びのツイート。母子ともに健康です。おめでとうございます。
「世界で最も影響力のある100人」(米誌タイムズ2018年)や「世界で最も影響力のある女性の1人」(女性誌ヴォーグ)に選ばれたデービッドソン党首。
今月、バーミンガムで開かれた与党・保守党の党大会で演説し、英国の欧州連合(EU)離脱を巡って二分する保守党に団結を呼びかけ、EUと同じルールブックを作って単一市場と関税同盟へのアクセスを可能な限り残すテリーザ・メイ首相の離脱案(チェッカーズ案)を支持する考えを鮮明にしました。このあとすぐ産休に入ったようです。
2年前のEU国民投票でデービットソン党首は残留を主張しましたが、「望まぬ結果が出たからと言って、やり直しを求めるべきではありません」と2度目の国民投票実施に強く反対しました。「これから極めて重要な数週間、数カ月を迎えます。保守党の原則に立ち戻るべきです」
デービッドソン党首は婚約者のウィルソンさんと手と手をつないで仲良く保守党大会にやって来ました。そして大きなお腹について「海軍のフリゲート艦のようでしょ」と言って英メディアを笑わせました。
これも、まだまだ保守的な保守党でLGBTの市民権を認めさせる彼女流のパフォーマンスです。「同性愛の女性が体外受精で妊娠するのは自然なこと。(党首という立場であっても)女性の選択肢を狭めるべきではありません」という主張が込められています。
声を上げなければ女性やマイノリティー(少数派)の権利を社会に浸透させることはできません。
メイ首相の政敵にぶちかまし
デービッドソン党首は「フリゲート艦」のような体でメイ首相の政敵ボリス・ジョンソン前外相にぶちかましをくらわすような勢いです。ジョンソン氏はEU離脱交渉を脱線させて首相の座を奪い取ろうとしています。
派手な女性遍歴から「英国のドナルド・トランプ」と呼ばれるジョンソン前外相を「彼は(問題発言ばかり繰り返した)外相時代よりロンドン市長時代のことを語るのに熱心ね」と攻撃し、メイ首相の親衛隊の役回りを買って出ています。
EU離脱交渉が難航し、息も絶え絶えのメイ首相はデービッドソン党首にクマのぬいぐるみと背番号10(首相官邸がダウニング街10番地にあることにちなんでいる)の子供服、メイ首相が大好きな冒険物語スワローズ・アンド・アマゾンズの本を贈りました。
昨年の総選挙で活躍
メイ首相がよもやの過半数割れを喫した昨年6月の総選挙でデービッドソン党首は一躍、注目を集めました。
1980年代、マーガレット・サッチャー首相(当時)が炭鉱閉鎖、労働組合潰しの大ナタを振るってから、深刻な経済的ダメージを受けたスコットランドはずっと「保守党不毛の地」と呼ばれてきました。97年の総選挙で議席をすべて失ったあと、1議席を死守するのがやっと。
それが、一気に12議席増の13議席。デービッドソン党首の人間的な魅力がなければ、ここまで議席を増やすことはできなかったでしょう。総選挙のキャンペーンでもステージに飛び上がり、隣のメイ首相がそれを真似した場面が強い印象を残しました。
スコットランドの13議席のおかげでメイ首相は何とか政権を維持することができました。メイ政権と、中絶や同性婚に反対する北アイルランドの地域政党・民主統一党(DUP)との閣外協力についても、デービッドソン党首はメイ首相から同性愛者の権利は守るとの言質を得ました。
婚約者はカトリック国のアイルランドを脱出
デービッドソン党首の婚約者ウィルソンさんはアイルランド出身。当時、カトリック国のアイルランドでは同性婚が認められておらず、生き辛くなって2003年に英国に脱出。14年からデービッドソン党首と交際を始めました。
15年2月に2人でテレビに登場、交際していることを公表し、注目を集めました。デービッドソン党首率いるスコットランド保守党は16年のスコットランド議会選で議席を倍増、昨年5月の統一地方選でも躍進しました。
元BBC記者のデービッドソン党首はメディアの前で戦車の主砲にまたがったり、民族楽器バグパイプを吹いて見せたりする元気印。政治的なスタント(妙技)にも長けています。BBCラジオ・スコットランドで自分が体験した男女間の給与格差についても告発しています。
近著『Yes She Can どうして未来は女性にかかっているか』の中で、体外受精や妊娠についての「喜び、悔しさ、不安、希望」を語っています。愛犬が車にはねられ、結婚資金を治療代にあてたため、結婚式を先延ばししました。
2人目の子供をつくる時はウィルソンさんが妊娠するそうです。
「LGBTは生産性がない」という自民党・杉田水脈(みお)衆院議員の寄稿やそれを擁護する特別企画を掲載して休刊に追い込まれた月刊誌「新潮45」の騒動を見ていると、愛の形にも人生のかたちにもそれぞれあるのに、それに気づかないのかなあと思います。
杉田議員よりデービッドソン党首に未来を感じるのは筆者だけではないでしょう。それとも、日本社会や自民党ではまだまだ杉田議員のような政治家の方がデービッドソン党首よりも受け入れられるのでしょうか。
(おわり)