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「吸入ステロイドを使いたくない」 妊娠中の喘息に対する誤解

倉原優呼吸器内科医
(写真:アフロ)

吸入薬の普及により重症喘息やその発作は減少していますが、妊娠中では「吸入ステロイドを使いたくない」ということで、吸入薬を中断してしまう方がいらっしゃいます。今日はその誤解を解きたいと思います。

喘息は妊婦にも胎児にも影響

産婦人科や呼吸器内科では、喘息の患者さんが妊娠したり、妊娠している人が新たに喘息にかかったりすることがあります。

一般的に、妊婦が喘息を合併する頻度は3~10%程度とされています。結構多いですね(資料1~3)。

喘息が悪化しやすいのは、妊娠第17~24週あたりとされています(資料4,5)。これは、妊娠によって子宮が大きくなり、横隔膜が押し上げられるためです(資料6)。また、血中のホルモンバランスの影響で、1回あたりに吸う空気の量が増えて、体がアルカリ性に傾き、呼吸困難を起こしやすいとされています。

喘息が非常に悪い状態だと、胎児にうまく酸素や栄養が到達せず、流産・早産・胎児発育不全のリスクが高くなってしまいます(図1)。

図1.妊婦における喘息悪化のリスク(筆者作成、イラストは看護roo!より使用)
図1.妊婦における喘息悪化のリスク(筆者作成、イラストは看護roo!より使用)

「吸入ステロイドを使いたくない」

妊娠したことをきっかけに「ステロイドは胎児によくない」と周囲に言われ、吸入しなくなった患者さんが、その後救急搬送されてくることがあります(資料7)。

喘息に対して、吸入ステロイドはとても重要な位置づけです。色々なタイプの製剤がありますが、基本的に毎日吸入することで喘息をコントロールすることが可能です。

これは、車でたとえるなら、シートベルトのようなものです図2)。

図2.喘息に対する吸入薬はシートベルトのようなもの(シルエットイラスト、イラストACより使用)
図2.喘息に対する吸入薬はシートベルトのようなもの(シルエットイラスト、イラストACより使用)

妊娠中に使用すると催奇形性のリスクが高くなる薬剤は確かにあります。ただ、なんでもかんでもダメというわけではなく、薬によって安全に使えるものとそうでないものがあります。

吸入ステロイドは、全身へほとんど移行しないことから、妊婦に使用しても胎児への影響はほとんどないことが示されています。

どの吸入ステロイド薬でも安全性に差はありませんが、ブデソニド(商品名パルミコート)がもっとも安全とされています。

そのほか、喘息の治療薬は基本的に妊婦へ安全に用いることが可能なものが多いです。ただ、自己判断はよくないので、必ず主治医に確認しましょう。

授乳婦にも吸入ステロイドは使えるのか?

喘息の吸入薬が母乳に入る可能性はありますが、その量は極めてわずかです。そのため、新生児や乳児に影響が出る可能性はまずありません。

そのため、妊婦よりもさらに安全と言えます。ご安心ください。

まとめ

喘息の女性の生涯において、「吸入ステロイドを中止しなければならない期間」というものはありません。

もし誤解によって妊娠初期に吸入ステロイドを中断した場合でも、数か月は喘息の発作が起こりません。しかし、妊娠後期に喘息が悪くなり、呼吸がしんどくなるという事態になりかねないので、注意が必要です。

(参考資料)

(1) Alexander S, et al. Obstet Gynecol. 1998; 92(3): 435-40.

(2) Kelly W, et al. Postgrad Med. 2015; 127(4): 349-58.

(3) Flores KF, et al. J Asthma. 2020; 57(7): 693–702.

(4) Stenius-Aarniala BS, et al. Thorax. 1996; 51(4): 411-4.

(5) Murphy VE, et al. Obstet Gynecol. 2005; 106(5 Pt 1): 1046-54.

(6) Prowse CM, et al. Anesthesiology. 1965; 26: 381-92.

(7) Ibrahim WH, et al. Chron Respir Dis. 2019; 16: 1479972318767719.

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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