仏ワイン農園でろうそくの灯、理由は極端な寒の戻り
ブドウ園と美女は手がかかるー。
フランスにはこんな諺があります。エレガントさと妖艶さをあわせ持つワインは、まさに美女と同じで手が焼けると、昔からワイン農家を悩ませてきました。さらに近年はそれに輪をかけて、農家の人たちを手こずらせているようです。
初夏の陽気から真冬の寒さに
今月に突入するやいなやフランスに真冬のような寒波が到来し、ブドウの生育に多大な影響を及ぼしています。どうやら今年のワインの出来すらも、雲行きが怪しくなってきました。
ロイター通信によれば、フランス東部ブルゴーニュ地方のシャブリワインの生産地で今月に入ってから霜の被害が起き、ブドウ農家がその対策に追われたもようです。シャブリワインは辛口の白ワインの代名詞的な存在として知られています。
被害の全容はまだ伝えられていませんが、昨年の4月5日にも霜害が発生、これが一因で2021年は深刻なワインの不作年となりました。政府は「今世紀初頭における最大の農業の大惨事だろう」と発言したほどでした。
もれなく氷点下
今回はどれほど冷え込んだのでしょう。
ここ2週間ほどのパリの気温変化を見てみましょう。シャブリの生産地は、パリから車で1時間ほどのところにあります。これをみると、3月中旬は20度近い気温が何日も続いていたことが分かります。これは6月初旬ごろの気温に匹敵し、4月の平均と比べても5度近く暖かい日が続いていました。
ところが、3月後半から徐々に気温が下がっていって、4月1日(金)には雪が降り、その後も毎日のように最低気温が氷点下に冷え込んでいます。フランス南部の標高1,000メートルほどの高地でマイナス21.5度まで気温が下がり、この高度における4月の国内記録となったほどでした。
つまり、ずっと暖かい日が続いてブドウの生育が早まりツボミが芽吹いた後に、真冬並みの寒気が到来し被害が出てしまったというのです。
対策にあの手この手
ただ農家も手をこまねいて見ていたのではなく、できる限りの対策を行い被害が広がらないよう取り組みました。
その一つの方法が、タイトルの写真です。キャンドルに火が灯り幻想的な風景に見えますが、これはブドウ畑を温めるためのものです。農家は夜通し起きていて、一定の気温を下回ったときに火をつけるのだそうです。これで応急処置的に空気を暖めます。時にはこの作戦にヘリコプターを併用して、空から空気をかき混ぜるという大がかりな対策をとることもあるそうです。
ただキャンドルの煙で空気が汚れたり、キャンドル1つ10ユーロ、1ヘクタールあたり600個必要であることから、コストがかさんだりするなどの問題があるようです。
別のブドウの農家では、スプリンクラーで水をかけて、ブドウの木を凍らせるという、一見逆説的にも見える方法がとられました。水をかけて先に凍らせることで、ツボミや木自体の温度が0度以下に下がるのを防げるのだそうです。氷の膜が強烈な寒気から身を守ってくれるのです。
他の対策として、巨大扇風機で地上付近の冷気と上空の空気をかき混ぜるという方法もあります。放射冷却が起きて地上の気温が下がるときは、逆転層という現象が起きて、反対に上空の方が温まるのです。
温暖化の影響も
温暖化は、霜の被害をさらに悪化させるようです。春が早く到来すると、その分早くブドウが生育し、寒の戻りで氷点下の寒気がやってくると、すっかりやられてしまうためです。
実は同じようなことは桜にも起きています。アメリカ・ワシントンDCには日本から送られた美しい桜並木がありますが、2017年には早い春の到来でつぼみが大きく膨らんでいたところに、急激な寒の戻りでツボミが花開く前に凍結して枯れてしまいました。半数以上のツボミがダメになり、木の8割以上が咲いた状態を意味する"満開"に至なかったこともあります。
春が終わってブドウにとって霜の危険が去ると、今度は雹や大雨、干ばつや高温といった新たな強敵がやってきます。一昨年の研究では、もし世界気温がこのまま上がり続けると、産業革命前と比べて2度上がる想定のもとでは、ワインに適した栽培地が今よりも56%も減ってしまうかもしれないそうです。
ワガママは温暖化ではレベルアップしないと仮定すると、農家の苦労は美女ですら歯が立たなくなりそうです。