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BardのGeminiへの改名によりGoogleが訴訟沙汰に

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

「米グーグルAIジェミニは商標権侵害と提訴、使用禁止を請求」というニュース(ロイター)がありました。今年の2月にGoogleがBardから名称変更した生成AIサービスのGeminiについて、サンフランシスコに拠点を構えるGemini Data Inc. から商標権侵害等で訴えられたというお話です。

Gemini Data社は、ビッグデータ処理関連のSaaSを提供している会社のようで、最近は生成AIにも乗り出しています。未上場なのであまり情報がないですが、それほど大規模な会社ではないようです。日本法人もあります。同社2021年6月にソフトウェア(9類)とSaaS(42類)を指定したロゴマークの商標登録を行なっています(タイトル画像参照)。

冒頭引用記事にはGoogle自身がGeminiの商標を出願して(Gemini Data社による先登録を理由に)拒絶されたと書かれていますが、これは正確ではなく、今年の8月にOffice Action(日本で言う拒絶理由通知)が出されただけでまだ拒絶が確定しているわけではありません。おそらくは、この審査は今回の訴訟の結果を待つ形になると思います。

訴訟において、Googleが使用しているGemini文字商標とGemini Data社のロゴマーク登録商標が非類似(顧客に混同を招かない)とされれば、Googleの勝訴ですが、個人的にはちょっと厳しいのではないかと思います(訴状ではこの連邦登録の商標権侵害だけではなく、不正競争や使用によって生じるカリフォルニア州のコモンロー商標権についても主張されています)。同様に、Gemini Data社の登録商標の指定商品・役務は「機械学習と人工知能を使用したビッグデータの収集、送信、可視化、統合、分析、管理、保存を行うソフトウエア(またはSaas)」となっていますが、これがGoogleのGeminiの生成AIサービスという指定役務とは非類似とされれば、Googleの勝訴ですが、これまたちょっと厳しいのではないかと思います。他の可能性としては、GoogleがGemini Data社の商標権を買い取って解決することが考えられます(なお、訴状では「Googleの出願に拒絶理由が通知された直後に"匿名の組織"から商標権の買い取りを持ちかけられたが拒否した」と書かれています)。そして、当然ですが、Googleが名称を変更すれば問題は解決します。

なお、Google自身によるGemini文字商標の出願では、Gemini Data社の登録商標以外に、4件の"Gemini"を含む登録商標(たとえばmyGemini)を理由としたOffice Actionが通知されていますので今回の侵害訴訟の問題を何らかの形でクリアーできたとしても、Google自身がGemini文字商標を登録するためにはまだまだやるべきことが残ります。

ところで、FacebookによるMetaへのリブランド、TwitterによるXのリブランドのように米国のハイテク業界では、商標権的に一悶着ありそうな名前をわざわざ選ぶケースが目立ちます。ザッカーバーグやマスクであれば「俺は自分で使いたい名前を使うだけだ、商標権の問題があれば金で解決する」というのは、”コーポレートカルチャー”として何となく理解できますが、GoogleがGeminiという如何にも商標権で揉めそうな(かつ、どうしてもその名前にする必然性が強いわけでもない)名前を選ぶのはちょっと理解に苦しむところがあります。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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