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言論の自由とインターネットの中央集権化

八田真行駿河台大学経済経営学部教授
(提供:アフロ)

ここしばらく、ミャンマーにおける「少数民族」ロヒンギャに対する暴力が世界的な問題となっている。民族なのか宗教なのか、そもそもロヒンギャが何なのかについてもまだコンセンサスは無いようだが(私も正直良く分からない)、あるマイノリティ集団に対して多数派が、民族浄化に近いことを行っていることは事実らしい。

こうしたロヒンギャの活動家たちは、ミャンマー軍等による彼らへの暴力の記録をFacebookに載せて告発していたのだが、彼らのアカウントはFacebookによって凍結・削除されてしまった(Daily Beastの記事)。Facebookに抗議したところ、ロヒンギャは「危険な組織」に指定されたので削除した、との返答があったようだ(The Hinduの記事)。記事中にもあるように、ミャンマーにおいては「Facebookがインターネット」らしい。だからFacebookから消されるということは、言論による主張の機会が全く失われるということと等しいのである。

イスラム国や昨年の米大統領選など、プロパガンダやフェイクニュースの問題が広く周知された結果、最近ではヘイトスピーチのようなオンラインでの「悪い言論」を積極的に取り締まり、削除を求めていこうという流れが強まっている。もちろん偏見や憎悪を煽って私益を追求するような輩には何のシンパシーも感じないが、個人的には、Facebookにしろ、あるいは我々にしろ、無自覚のまま相当危険な水域に入っているように思われてならない。

ロヒンギャはミャンマーの多数派にとって「危険な組織」かもしれないが、ミャンマーの多数派は、ロヒンギャにとって「危険な組織」でもある。別にミャンマーに限らず、権力を握る側や多数派が、彼らへの批判を「ヘイトスピーチ」呼ばわりすることは決して珍しくない。にも関わらず、往々にして検閲の強化を求めるのがマイノリティや報道機関の側というのは、悲喜劇的な状況とも言える(Techdirtの記事)。そもそも、ある言論が適切であるかどうかをFacebookのようなプラットフォームに判断させるのは筋が悪いのである。だからこそ最高度に慎重な判断が必要なのだが、最近では非常にカジュアルに記事の削除やブロックが行われるようになってきていて、懸念せざるを得ない。

加えて、背景にあるより大きな問題は、プラットフォームの寡占・独占化、あるいはインターネットそのものの中央集権化が急激に進んでいることではないかと私は思う。

FacebookにしろTwitterにしろ、ごく少数のプラットフォームに情報が集中し、さらにその「見せ方」を、彼らの不透明なアルゴリズムが完全にコントロールするようになってきた。プラットフォームが我々が得る情報、ひいては我々の思考そのものに大きく影響するようになった現在、これは極めて重大な問題である。従来、独占や寡占は企業の市場支配力や価格のコントロールといった、言わば金勘定の文脈で捉えられることが多かったが、最近ではこうしたプラットフォームの情報支配力のようなものに目を向ける言論が増えてきている。「フェイクニュースは反トラストの問題だ」という主張も、故無きことではない(Voxの記事)。

反トラスト、反独占というと独占禁止法のような法規制の文脈で語られることが多いと思うが、私自身は、こうした問題も結局は技術的に解決できるのではないかと考えていて、最近ではいくつかのプロジェクトにコミットしている。今後機会があれば、それらについて書いてみたい。

駿河台大学経済経営学部教授

1979年東京生まれ。東京大学経済学部卒、同大学院経済学研究科博士課程単位取得満期退学。一般財団法人知的財産研究所特別研究員を経て、現在駿河台大学経済経営学部教授。専攻は経営組織論、経営情報論。Debian公式開発者、GNUプロジェクトメンバ、一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)理事。Open Knowledge Japan発起人。共著に『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、『ソフトウェアの匠』(日経BP社)、共訳書に『海賊のジレンマ』(フィルムアート社)がある。

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