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ドラマ『セクシー田中さん』調査報告書の発表で脚本家叩きが再び。誹謗中傷する人に知ってほしいこと

篠原修司ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門
ドラマ『セクシー田中さん』。公式サイトより

 ドラマ『セクシー田中さん』の原作者が亡くなったことを受けて、制作過程の問題を検証していた日本テレビの社内特別調査チームの報告書の発表をきっかけに、SNSで脚本家の方への攻撃が再び始まっています。

 脚本家の方がSNSで「9、10話の脚本に携わらなかった説明」を書いたことをきっかけに、原作者の方が亡くなる事態になってしまっているためヘイトが溜まっているのだと思われますが、報告書を読むかぎりでは脚本家の方も被害者です。

原作者のブログ公開まで「必ず漫画に忠実に」を知らされていなかった脚本家

 報告書は97ページもあるため、そのすべてを読む人はいないと思いますので重要なところだけ抜き出しますが、原作者の方が訴えていた「必ず漫画に忠実に」という約束は脚本家には伝えられていませんでした。

 報告書には「本件脚本家は同年1月26日に本件原作者が書いたブログを読むまで、本件原作者がブログに記載するような状況については、日本テレビから伝えられておらず、一切知らなかった」と書かれています。

 問題のSNSの投稿が行われたのは12月24日と12月28日です。

 あの投稿は、『セクシー田中さん』のドラマ化にあたって条件となっていた「必ず漫画に忠実に」、「ドラマなりの結末は原作者があらすじからセリフまで用意する」を知らないなかで行われたものなんです。

原作者も脚本家も被害者と言える

 このような説明をすると、「お前は脚本家の味方をするのか!」と怒る人もいるでしょうが、報告書を読んだかぎりでは原作者はもちろん、脚本家も被害者と言えます。

 脚本家の方からすれば

  • ドラマ化するうえで原作の改変が必要なことは原作者と小学館の理解を得ている
  • なのに、毎回プロットや脚本に原作者が厳しい指摘をしてくる(報告書では物語が進むにつれて「そのまま読むのは辛い」と漏らしており、それが最終的に原作者に伝わり関係性が破綻している)
  • 原作者の「書きたい」という希望で9、10話の脚本から降ろされた
  • 9、10話は一部に自分のアイデアを使っているのに、原作者の要望でクレジットから外された
  • クレジットは著作者の権利で原作者が記載を断れるものではないのに、日テレは味方をしてくれない
  • 9、10話のクレジットに名前がないことから視聴者から指摘のコメントが相次いだため、SNSに状況説明の投稿をした

 という状態です。

 一方、原作者の方からすれば

  • ドラマ化するうえで約束したはずの「必ず漫画に忠実に」が毎回守られない
  • 忙しいなかでそのことを指摘してプロットや脚本の修正を続けても、守られないばかりか脚本家が「原作者の指摘を読むのはつらい」と苦情を言っている
  • 重要な最終話の9、10話でも大幅に改変されているため、原作者の権利を使って脚本家の交代を要望した
  • 結果として、原作者は脚本を書くことになったが、それに対して9、10話を担当していない脚本家が「クレジットを入れるように」訴えてきている
  • その脚本家がSNSで愚痴のかたちでこちらを批判してきた

 という状態になっています。

 脚本家から見ればある程度の改変は認められているのに、それを認めないどころか最終的に原作者の著作権を使って脚本から降ろされたという形ですし、原作者から見れば脚本家が「必ず漫画に忠実に」を守らずに原作改変のひどい脚本を書いてくるうえに、最終的に原作者が書いた脚本にクレジットを入れるように要求してきた厚かましい人という形です。

 分かりやすく言うとどっちも被害者なんです。

日テレと小学館のコミュニケーションエラー

 では、なぜそんな状況になっているかと言うと、日テレと小学館のコミュニケーションエラーが主な原因だと考えられます。

 今回の報告書は日本テレビの社内特別調査チームのためか、小学館の協力が(日本テレビ側と比較して)あまり得られていないような内容に読めましたが、それでも両担当者の間で認識の齟齬があったように見えます。

 それが分かるのが原作者のブログ投稿後の反応について書かれている「K氏(日テレ関係者)はA氏(日テレドラマ制作関係者)とC氏(小学館関係者)のやり取りを提示した上で、本件原作者の投稿内容が日本テレビの認識と乖離していることを指摘した」の部分です。

 このあたり、報告書では「相互理解が図られていなかった」と書かれていますが、どちらかと言えば日テレがキッチリを条件を詰めようとしていなかったように感じられました。

 とくに原作者が撮影内容の確認を求めた場面で、日テレ側がリテイク(撮り直し)を嫌がってまだ撮影前なのに「もう撮影済みです」と嘘の回答をしたが結局嘘だとバレてしまい、原作者が制作サイド(脚本家)への信頼を失っていったのは日テレの責任が大きいです。

 最初から日テレが小学館や原作者の方と話し合って条件を詰めていればこんなことにはならないからです。

末端のスタッフを攻撃しても解決しない

 長々と書きましたが、私が言いたいことは一番の被害者は原作者であるが、脚本家もまた被害者であるということです。

 日テレからの条件に従って書いているのに、原作者からは何度も苦情を入れられ、最終的に原作者の要求で権利であるクレジットを外されてしまっているのです。

 もちろん、何度も書きますが原作者視点から見れば「必ず漫画に忠実に」を守らない脚本家ですので、そうした強い姿勢に出るのも理解できます。

 しかし、外から見て理解できることと、内側である脚本家からの視点は別です。

 今回の件では、脚本家の方が原作をよく改変する人だとして一定のアンチがおり、そのせいで炎上(攻撃)が加速していたように見受けられましたが、報告書を読むかぎりでは日テレの発注内容に従って脚本を用意した制作スタッフのひとりでしかありません。

 そうした人を攻撃しても何も解決しません。間違っている行為だと筆者は考えます。

ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門

1983年生まれ。福岡県在住。2007年よりフリーランスのライターとして活動中。インターネット(SNS)で起きる炎上の解説、デマのファクトチェック、スマホやガジェットの話題、生成AIが専門。最近はYouTubeでも活動しています。執筆や取材の依頼は digimaganet@gmail.com まで

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