せっかく減った家庭の食品ロス、コロナ前まで逆もどり なぜ増えた?英最新調査
英国の非営利組織WRAP(ラップ)の調査によれば、2020年のロックダウン(都市封鎖)により減少傾向を示した家庭の食品ロスが、2021年になり、コロナ前と同等レベルまで増えてしまったことがわかった。
この調査は、18歳以上で、普段、家庭で食料品の買い物や調理をおこなっている英国市民4,172人を対象に、2021年6月25日から7月5日まで、オンラインで実施された。
2021年7月には2018年11月と同レベルに増加
英国WRAPによれば、2019年11月には、主要4品目(パン、鶏肉、ジャガイモ、牛乳)で、家庭の廃棄率は24.1%だった。ところが、2020年のコロナ禍でロックダウンになり、消費者の食品管理に関する行動が改善されると、主要4品目(パン、鶏肉、ジャガイモ、牛乳)の24.1%から13.7%に減少した。すなわち43%の減少と述べている。
WRAPは、2020年当時のレポートでは「34%減」と述べていたが、2021年の今回は「43%減」としている。
「パン・牛乳・鶏肉などのロス34%減」英国、外出自粛中に家庭の食品ロス減:SDGs世界レポ(21)
2020年4月に大きく減少し、その後もコロナ前のレベルを保っていたが、2020年11月には2018年5月の値を上回り、2021年7月には2018年11月の値と同じレベルまで戻ってしまった。つまり、家庭での食品ロスの量が増えてしまった。
なぜ増えた?2つの要因
WRAPは、増えた要因として2つを挙げている。1つめの要因が、外食やテイクアウトが増えたことだ。英国市民は過去1カ月間に7.6回の外食/テイクアウトを行なった。2020年9月の6.0と比べても増えている。2020年9月は、英国政府が「Eat Out to Help Out」(外食で支援しよう)を打ち出した時期だ。
報告書には下のイラストがある。合計しても7.6回にはならないのが不思議だが・・・
過去1ヶ月に英国市民が行った平均回数
テイクアウト 1.6回
レストランでの食事 1回
外出先での食事 1.3回
パブやバーでの食事 0.9回
ファストフード店での食事 0.8回
もう1つの要因が、時間的なプレッシャーが増えたこと。
英国市民の5人に2人(44%)が、日常生活で時間的なプレッシャーを感じており、コロナ前の水準まで増加している。この傾向は、0〜10歳の子どもがいる家庭、フルタイムで働いている人、18歳から34歳、35歳から54歳の年齢層で多く見られている。
「冷凍」「残りものの利用」「まとめて調理」が2020年より減少
「忙しい生活」や「時間に追われる生活」は、せっかく身についた習慣が減ってしまうことにもつながった。たとえば、冷凍や、残りものをうまく利用する、まとめて調理する、などは、2020年のコロナ禍では際立っていた。だが、2021年には、これらの食品管理行動が減ってしまった。
下のグラフは、食品ロスを減らすためによい行動をする人の割合を示している。明るい水色が2020年11月の結果で、濃い色が2021年6月の結果。どの項目においても減少している。
働き盛りと小さな子どもがいる家庭で食品ロスが多い
どんな人に食品ロスが多いかを見てみると、0〜10歳の子どもがいる家庭では50%が食品ロスが多く、11〜17歳の子どもがいる家庭でも43%となっている。
18歳から34歳では50%が「食品ロスが多い」と答え、35歳から44歳の45%が「食品ロスが多い」と答えている。
次のような人も食品ロスが多い。
- 時間に追われていると感じる人 (43%)
- 過去1ヶ月間に10回以上の外食/テイクアウトをした人(56%)
- 食品管理に必要な能力が低いと感じる人(58%)
- 料理や食品の準備に自信がない人(42%)
- ダイエットをしている人(49%)
- アレルギーや不耐性がある人(43%)
- 食中毒の経験がある人(42%)
- 過去1ヶ月間に既製品のミールキットやフルーツ&ベジタブルボックスを購入したことがある人(59%)
WRAP調査の見解
WRAPは、調査のまとめとして、英国市民は食品ロスを減らすスキルを持っているものの、(ロックダウンが解除されて)通常の時間に追われる生活に戻ると、現実はより厳しく、外食や持ち帰りが増え、家での食事の機会が減り、2020年のロックダウン中に効果を発揮した行動がプレッシャーになった結果、自己申告による食品ロスのレベルは2018年と同じレベルに戻ってしまった、としている。
その上で、ロックダウン中のような、家庭で食品を管理する行動をどうすれば維持できるのかについて、WRAPは次のような計画をたてている。
- WRAPの行動変化介入(BCI)プログラムにより、行動科学と洞察力を活用して動機を特定し、食事の偏りや時間の不足など、食品廃棄の原因となる主要な障壁や問題の克服を支援する
- 2022年3月に「食品廃棄物アクションウィーク」を企画し、すべての関係者において、家庭の食品ロスを減らす重要性に対する意識を高め、維持する。そのために、参加を募る
- これまで長年続けてきた「Love Food Hate Waste」キャンペーンは、行動変容を促す上で非常に効果的だったが、さまざまなパートナーの支援を得てより大きく広げる必要がある
- 市民が家庭での食品廃棄物を簡単に減らすことができるよう、食品の賞味期限・消費期限表示や保存方法に関する推奨事項を採用するよう、食品事業者と協力していく
日本では?
日本では、2021年4月21日、第3回食品ロス削減の推進に関する関係省庁会議が開催され、各省庁の備蓄の有効活用の申し合わせが行われた。今まで廃棄されていたものが活用され、賞味期限が過ぎたものでも品質を確認した上で活用の対象となった。国会議員の方も尽力されて、とてもいい動きだった。
願わくは、日本でも、2000年に英国政府が設立して以降、20年以上、継続的に、基本的に同じ職員が取り組みを続けるWRAPのように、食品ロス削減の取り組みを一括して行う組織がほしい。日本は、管轄が分かれているのと、担当する方の在籍スパンが1〜2年と短い。せっかく着任されていい仕事をされても、すぐ異動してしまう。
食品ロス関連の顕彰制度にしても、農林水産省の「食品産業もったいない大賞」、消費者庁の「食品ロス削減推進大賞」と複数あり、最近では環境省が「食品ロス削減環境大臣表彰」を始めた。
「事業系の値は農林水産省、家庭系の値は環境省、消費者行動は消費者庁、教育は文部科学省、小売と卸は経済産業省」といった具合。まとまって、長期的に、食品ロス削減の活動を続けていただきたいと願っている。