もう一つの棋譜関連訴訟(東京地裁)の判決文が公開されました
将棋の駒の動きの記録である棋譜が著作物であるかどうかはまだ明確な結論が出ていない争点です。
放送された棋譜情報を無断で使ったYouTube動画を削除申請した件が不法行為があたるか否かが争われた、YouTuberを原告とし、BS放送局「囲碁将棋チャンネル」を被告とした大阪地裁の訴訟については既に書いています(「"パンドラの箱"を開けてしまった"囲碁将棋チャンネル"判決」、「"囲碁将棋チャンネル"訴訟の大阪地裁判決文が公開されました」)。そこでは、「棋譜は原則として自由利用の範疇に属する情報であると解される」と棋譜の著作物性を否定するにほぼ等しい裁判所の判断が出されました。
その記事でもちょっと触れましたが、同じく「囲碁将棋チャンネル」を被告とし、YouTuberを原告として、YouTube動画の削除申請は不法行為にあたるか否かが争われた訴訟が東京地裁でも同時進行していました。もちろん、原告も代理人も大阪地裁とは異なります(被告の代理人は同じです)。その判決文が裁判所のサイトで公開されました。
結果は「囲碁将棋チャンネル」側の敗訴ですが、約180万円の損害賠償が請求されていたのに対して、わずか約18,000円の支払いしか認められず、原告にとっては何とも割の合わない結果になりました。
大阪地裁との相違点に興味があるところですが、大阪地裁では、「囲碁将棋チャンネル」側が削除申請の正当性を主張するために、棋譜の著作物性については主張しない一方で「法律上保護される」情報であるという主張をしてしまったことにより、裁判所に「(たとえ有料放送されたものであれ)棋譜は自由に利用できる」という判断をさせる結果になってしまいました。
今回の東京地裁では、被告は、棋譜の著作物性どころか、削除申請の正当性すら争わず、損害賠償金額だけが争点になっています。削除申請が間違ったものであったことを認めたのは、対象動画は動画作成者の創意工夫があるものであり、単なるフリーライドではないからとのことです(だったら、そもそも削除申請しなければいいのにと思ってしまいます)。そして、損害賠償については、精神的苦痛といった要素は認められず、逸失利益だけが問題とされ、上記のとおり約18,000円という結果になってしまいました。
今回、「囲碁将棋チャンネル」は毎日新聞社やスポーツニッポン社の名を語って削除申請をしたりしているようです(ビッグネームを出せば配信者もビビって反論してこないだろうという判断でしょうか)が、そのあたりはあまり判決に影響を与えていないようです。根拠がないと思っていても、とりあえず削除申請したもの勝ちではないかと思ってしまいました。控訴されるかどうかはわかりませんが、是非さらなる裁判所の判断を見てみたい気がします。