復興を支える歴史的事実と象徴:NHK歴史秘話ヒストリア緊急特集「熊本城 400年の愛」:熊本地震
■NHK歴史秘話ヒストリア緊急特集「熊本城 400年の愛」
6月3日(土)のNHKテレビ「NHK歴史秘話ヒストリア緊急特集「熊本城 400年の愛」」は、素晴らしい番組でした。
この番組は、毎回歴史をひもときながら、私たちに勇気と希望を与えてくれる番組です。今回の「熊本城 400年の愛」は、まさに歴史ヒストリアの面目躍如たる放送でした。
熊本城は、日本随一の堅固さを誇る城です。番組では、熊本地震以前に、街のいたるところから見えた熊本城の勇姿を見せます(4年前の取材映像)。さらに、現在の姿を超える築城直後の素晴らしい城全体の様子を、CGで紹介します。
バーチャールカメラは、城の周りをぐるりと回ります。巨大な石垣、数え切れないほどの櫓(やぐら)。その完璧な防御力。番組では、城を攻めようとするものに絶望感を与えるほどの力強さだと評します。
しかし今、名城熊本城は、大きな被害を受けています。その様子を改めて見ると、また心が痛みます。
けれども、熊本城が大きな被害を受けたのは、今回が初めてではありませんでした。敵の攻撃で落城したことはないものの、江戸時代には地震の被害を受けます。明治時代には火事で本丸も消失します。しかしその度に、熊本城は復活しました。
番組では、江戸時代、明治時代、昭和の戦後復興、そして現代の様子を示します。懸命に頑張る城主、立ち上がる市民、私財を投げ打つ人、そして全国からの応援。彦根城も、姫路城も、小田原城も、熊本城を応援します。
■歴史上の事実と象徴と私たちの感情と勇気:復興のための災害心理学
番組では、最後に再び現在の大きな被害を受けた熊本城天守閣の様子を映します。客観的に見れば、ひどい状況の熊本城です。しかし、私の目にはもう哀れに壊れた熊本城には見えませんでした。
それは、番組の中で、何度も破壊されては復興してきた様子を見聞きしたからです。白黒写真に残る、かつての災害で破壊された無残なお城の姿。しかし、その熊本城が後に見事に再建された歴史上の事実を、私は知りました。その私の目には、現在の熊本城の姿も、これから復興へと向かう勇姿に見えました。
さて、こんな話は、ただのファンタジーでしょうか。歴史上の事実と言っても、歴史は歴史家が個々の事実を解釈しストーリーを作り上げたものとも言えるでしょう。番組も、もちろん台本があり、演出があります。「私の目には」などと言っても、それは私の感傷的な思い込みに過ぎないでしょうか。
しかし番組は、ただ夢を語っているわけではありません。これまでと同じように、再建には長い時間と莫大な予算がかかることも、解説しています。そして、視聴者一人ひとりの目に、今の熊本城がどのように映るのかという「心理的事実」は、ただの思い込みや綺麗事ではありません。
ある災害心理学者は、大災害の発生時には、被災者は「神」を失うと表現しています。夢や希望、努力は報われるといった価値観すべて、その人にとっての「神」や「世界」と言えるような大切なものを失うという意味です。
ここから、何とか立ち上がらなくてはなりません。たとえ街並みが戻っても、住民たちの心が復興しなければ、本当の復興にはなりません。
そのために効果的なのが、郷土の歴史であり、象徴です。たとえば、東北の人々が何度も困難を乗り越えてきた、三陸の人々は何度も大津波の災害から復興してきた。そのような郷土の歴史は、住民に力を与えます。
熊本の県民性を表す「肥後もっこす」も同様でしょう。熊本県民は、正義感が強く、頑固で妥協しません。熊本県民は、熊本城を守り続けたように、決してあきらめません。
そのようなアイデンティティを持つことが、復興の力とつながるでしょう。
そこから、復興の象徴も生まれます。お金も法律も大切ですが、心を支える象徴も必要です。熊本にとっては、それが熊本城であり、「くまモン」なのでしょう。
熊本県の人気ゆるキャラ「くまモン」が、地震前にユーモアたっぷりに言っていました。「熊本県は、日本でいちばん強そうな県名だと自負しております」。
私も同感です。
「熊本城400年の愛」。熊本県民は、400年間熊本城を愛し、互いに敬愛しあい、そして全国から愛され、共に支えあってきました。その愛と不屈の歴史に、今また新たなページが書き加えられるのでしょう。
*「熊本地震」ですが、大分県の復興も全国で支援したいと思います。