中国との関係正常化など「都合の悪い資料」を保存しないノルウェー政府を監査総監が批判
- 情報の公開性においては欧州で最も優秀と評価されているはずのノルウェー。しかし、一部の官庁は政府にとって都合の悪い歴史書類の保存を避けている。
- 公に公開・議論されるべきはずの資料を残さない行為は、民主主義、国民の知る権利=国の憲法に反する。
ノルウェーの監査総監Riksrevisjonenは、5月30日の報告書で重要記録の保存を怠る政府体制を批判した。
首相官邸を含む17の省のうち、最も書類の保存を怠っているワーストスリーは、法務・危機管理省、防衛省、労働・社会問題省。反対にベストスリーは文化省、貿易・産業省、農業・食糧省。
ワーストスリーの3省においては、政治書簡などの保存を怠る「常連者」だと、監査総監のフォス氏は現地報道を通じて強く批判した。
ノーベル平和賞やダライ・ラマ14世のノルウェー訪問を巡ってのノルウェーと中国との関係、イスラム国に対するシリアでのノルウェーの軍事介入などにおいては、あまりにも記録が欠けていると批判されている。
2010年、中国の民主活動家である劉暁波氏に、ノルウェー・ノーベル委員会がノーベル平和賞を授与。結果、ノルウェーと中国の関係は悪化した。1989年の平和賞受賞者であるダライ・ラマ14世は、2014年にノルウェーを訪問。しかし、中国との関係を懸念した首相や政府関係者は、公式な面会を断固として拒否した。
政府の面会拒否は、両国の関係正常化に大きな意味を持つ歴史・政治的プロセスとされている。しかし、政府はこれらの経緯を示す資料をアーカイブしていないと監査総監は批判。
民主主義の国にも関わらず、これでは「歴史的に存在しなかったことになってしまう」とフォス氏は最大手アフテンポステン紙に語る。
都合の悪い政治的経緯をアーカイブに残そうとしないのは、一部の官庁では「カルチャーになってしまっている」と同氏は指摘。これに対して外務省は中国との関係正常化において、資料を隠そうとしてはいないと反論している。
アフテンポステン紙のスタンヘッレ編集長は「物議を醸すテーマは、オープンな議論を避けて隠されてしまう」と警報を鳴らす。恥ずかしく、危険な状態だと同紙のコメント欄で批判した。
「これらの3省は、何度も何度もワーストリストの常連者となっており、落胆せざるをえない」、「我々の社会は信頼で成り立っているはずでは」。情報開示と保存は民主的に重要だと、フォス氏は国営放送局NRKに語った。
Photo&Text: Asaki Abumi