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【コロナと生きる】都市封鎖で心と向き合い、ヒットチャートで1位になった“ロンドンの歌姫”

木村正人在英国際ジャーナリスト
鈴木ナオミさん(C)Mayumi Hirata (衣装Kimono de Go)

[ロンドン発]世界のラジオDJ(ディスクジョッキー)1693人が選ぶ「キングズ・オブ・スピン・トップ30」の1位にロンドンを拠点に活動する歌手、鈴木ナオミさんの「Harder and Faster」が輝きました。ロンドンで頑張る仲間の活躍を心から祝福したいと思います。

東日本大震災のチャリティー・コンサートを開いてきた鈴木さんは「震災の時もそうでしたが、アーティストには、苦しむ人たちに『芸術(音楽)』を通じて生きる力を感じてもらえるように頑張る使命があります」と声を弾ませました。

「そういう意味で新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ都市封鎖(ロックダウン)で『自分に何ができるか』『どういうことで人の役に立てるか』という課題に向き合い、それを実行できる大変良い機会となりました。1位に驚く半面、間違っていなかったと腑に落ちました」

鈴木さんは東日本大震災が発生した2011年当時、肝機能不全で白血球が減少し、体調を崩していました。震災直後、被災者から「音楽で被災者を救って」というメッセージがツイッターに寄せられました。

その被災者の自宅は全壊。毎日弾いていたベースが瓦礫の中から見つかったそうです。鈴木さんは被災者と共同で歌詞を書きました。

被災地やロンドンでチャリティー・コンサートを開き、その回数は100回を超えました。コンサートで集めた寄付金の総額は数百万円にのぼります。鈴木さんは「私自身、被災地と関わることで生かしてもらいました」と振り返ります。

鈴木さんは筑豊炭田がある福岡県田川市の出身。昨年のラグビーW杯日本大会では開催都市特別サポーター福岡代表(オフィシャルアンバサダー)として、筑豊炭田を描いて国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界の記憶」に登録された絵師、山本作兵衛の炭坑記録画をウェールズのビッグピット国立石炭博物館に展示しようと奔走しました。

2020年東京五輪・パラリンピック(新型コロナウイルスの流行で1年延期)に向け日本を世界にPRするプログラムの一環として「日本へ行こうよプロジェクト」を企画し、日本の歌謡曲をジャズ風にアレンジしてニューヨークでコンサートを開き、好評を博します。

プロジェクトのメインイベントとして昨年、ロンドンのカドガンホールで「ジャズファンク昭和歌謡ショー」を開催、夏木マリさんがゲスト出演しました。

世界を飛び回っていた最中、新型コロナウイルスが中国から一気に世界中に広がります。昨年5月に肺の手術をした鈴木さんは基礎疾患のあるハイリスクグループ。「新型コロナウイルスに感染したら死ぬかもしれないと不安と恐怖でいっぱいでした」と話します。

イギリスでは3月23日に外出禁止令が敷かれます。「私たち、これからどうなるんだろうと真剣に考え込んでしまい、最初は頭の中を空っぽにするため寝てばかりいました」

「しかし、生きていることや頑張っていること、優しい気持ちや癒やしを共に感じていただこうと、お花やペットの写真を募集して参加型ミュージックビデオ『癒やされてください』を作成しました」

チャリティー活動に全力投球してきた鈴木さんにはSNSを通じて世界中にたくさんのお友達がいます。

「自由に外出できず、憂鬱だったみなさんも写真を撮りに出掛けたり、自分のペットの写真が全員参加型ミュージックビデオで紹介されたりすることで生き甲斐や喜びを見つけて下さったようです」

「元気になったというコメントをみて、私もまた元気を頂きました」

「癒やされてください」シリーズ第3弾では、イギリスの国民医療サービス(NHS)をサポートするチャリティーライブで「いのちの歌」を熱唱しました。

「その時、明日どうなるかわからないから今手元にある未発表の曲を世の中に出したいと思ったのです」

随分、昔につくってもらった曲「ハーダー・アンド・ファースター(Harder and Faster)」をiTunesで配信したところ、英プロモーション会社から「ホリデーに行けないから音楽でホリデー気分を楽しもうというプロジェクトに参加しないか」と打診がありました。

オーケーすると今度はアメリカのプロモーターから「世界中の人に聞いてもらおう」と連絡があり、6月25日に「キングズ・オブ・スピン・トップ30」の1位に躍り出たのです。

鈴木さんがスクリーンショットしたもの
鈴木さんがスクリーンショットしたもの

「普段は忙しくて飛び回っていますが、パンデミックによる都市封鎖で私にできることは何だろうと向き合えました」

「エンターテインメントの世界はライブやコンサート活動ができなくなり、気分は落ち込んでいます。あきらめたり、モチベーションを失くしたり、目標を見失ったりしている人も少なくありません」

「だからこそ全てのアーティストに今できることを考え抜いて元気を出してもらいたいなと願っています」

鈴木さんはインターネットで探し出して連絡を取った「Harder and Faster」の作曲家と意気投合して今の「コロナの世界」を歌った歌を制作中だそうです。

「窓の外の景色は同じなのに、世界を一変させた闇に脅えている。でも気付いたら綺麗な空気や海が戻っている。人類にとって再生のチャンスかもしれない、という曲です」

一歩一歩、封鎖解除に向かい始めたロンドンで鈴木さんの夢は膨らみます。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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