Yahoo!ニュース

10万円一律給付の補正予算で、ワニの口は崩壊した

土居丈朗慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)
4月20日に閣議決定し直した補正予算案によって、ワニの口はどうなったか…

4月20日に、1人当たり一律10万円の給付を盛り込んだ2020年度補正予算案が閣議決定された。

4月7日に一度閣議決定していた予算案を、組み替えて閣議決定をし直すというのは極めて異例なことである。

結局、4月7日の補正予算案で盛り込んでいた4兆0206億円もの生活支援臨時給付金(仮称)をやめて、特別定額給付金を12兆8803億円盛り込んだ。その結果、差し引きで8兆8597億円給付が増えた。それも合わせて補正予算の財源は、25.7兆円の国債増発で賄われた。

その結果、国の一般会計はどうなったか。当初予算とこの補正予算を合わせると、一般会計歳出総額は128.3兆円となった。

時系列で国の一般会計歳出と税収の金額を折れ線グラフを、いわゆる「ワニ口グラフ」と呼ぶ。記事冒頭のグラフがそうである。ワニの上あご(赤線)が歳出総額で、下あご(青線)が税収である(2018年度まで決算ベース、2019年度以降は補正後予算ベース)。この両者で描かれる形がワニの口に見えることからその名が付いた。

国の一般会計では、歳出の増加に、税収が追い付かず、上あごが上がる割には下あごが上がらず、国の財政は、文字通り「開いた口がふさがらない」状態にある、とたとえられてきた。

2020年度補正後予算ベースでみると、一般会計歳出総額は128.3兆円と断トツで過去最高額となり、上あご(歳出総額)が上に突き抜けて、もはやワニの口は崩壊したかのようである。

この補正予算では、税収の減額補正はしていない。だから、図にあるわにの下あご(税収)は当初予算で見積もった63.5兆円のままである。今後、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、税収が減れば、この下あごはこの図よりももっと下がってしまうだろう。

図の棒グラフは国債発行額で、2020年度補正後予算ベースで58.2兆円、歳出総額との比である公債依存度は45.4%となった。

2020年度補正予算で、「ワニの口」はもはやその体を成していない様になってしまった。

慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)

1970年生。大阪大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。慶應義塾大学准教授等を経て2009年4月から現職。主著に『地方債改革の経済学』日本経済新聞出版社(日経・経済図書文化賞とサントリー学芸賞受賞)、『平成の経済政策はどう決められたか』中央公論新社、『入門財政学(第2版)』日本評論社、『入門公共経済学(第2版)』日本評論社。行政改革推進会議議員、全世代型社会保障構築会議構成員、政府税制調査会委員、国税審議会委員(会長代理)、財政制度等審議会委員(部会長代理)、産業構造審議会臨時委員、経済財政諮問会議経済・財政一体改革推進会議WG委員なども兼務。

慶大教授・土居ゼミ「税・社会保障の今さら聞けない基礎知識」

税込550円/月初月無料投稿頻度:月2回程度(不定期)

日常生活で何かと関わりが深い税金の話や、医療、介護、年金などの社会保障の話は、仕組みが複雑な割に、誰に聞けばよいかわからないことがままあります。でも、知っていないと損をするような情報もたくさん。そこで本連載では、ニュース等の話題をきっかけに、税や社会保障について、その仕組みの経緯や込められた真意、政策決定の舞台裏を、新聞や公式見解では明らかにされない点も含め、平易に解説していきます。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

土居丈朗の最近の記事