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「仏の格闘ゲーム優勝」は事実無根 太田市職員が虚偽発表 朝日、上毛新聞おわび

楊井人文弁護士

朝日新聞は9月27日付朝刊群馬版とデジタル版で、群馬県太田市役所の男性臨時職員(23)がフランス・パリで開かれたゲームイベントで優勝したと報じた。しかし、同市の調査で発表内容が虚偽と判明したとして、28日付で記事を削除するとのおわび記事を掲載した。このニュースは群馬県の地元紙、上毛新聞も大きく報じていたが、27日夜に事実無根だとわかったとしてニュースサイトの記事を削除した。この男性職員はフランスに行っておらず、大会に出場していなかったという。

朝日新聞2016年9月28日付朝刊(群馬版)
朝日新聞2016年9月28日付朝刊(群馬版)

朝日新聞と上毛新聞の27日付記事は、いずれも男性職員の写真入りで、ゲームイベントに参加した経緯や経歴、本人のコメントなどを掲載していた。

両紙の説明や太田市の広報担当者などによると、26日に市役所の記者クラブで記者会見が開かれ、この男性職員と所属の部長が出席。20、21日に開かれたパリのゲームイベントの格闘技ゲーム部門で優勝したと発表した。しかし、27日の報道直後からネット上で大会開催への疑義が相次ぎ、市が調べたところ虚偽であることが判明した。疑惑浮上直後、BuzzFeed Japanは、本人が取材に対して事実だと主張しているものの、大会開催の裏付けがとれないと伝えていた。太田市は今回の不祥事についてまだ公式に発表していないが、男性と同じ部署の太田市の職員は大筋で事実関係を認めた。

上毛新聞は28日付のおわび記事で経緯を詳しく説明し、「記者会見で明らかにされた内容とはいえ、報道に際しての確認作業が不十分で、紙面の信頼を損なう結果となりました」と陳謝。朝日新聞も発表が虚偽と判明した経緯を報じた上で「確認が不十分でした」と釈明した。このニュースは、読売新聞と毎日新聞には掲載されていなかった。

上毛新聞のおわび記事全文

27日に掲載した「仏で格闘ゲーム世界大会」の記事で、群馬県太田市臨時職員の男性(23)が渡仏して大会に出場した事実はなく、格闘ゲーム部門で優勝したとする報道は事実無根だったことが分かりました。読者の皆さまに深くおわび申し上げます。

この報道は男性が所属する太田市産業環境部からの情報提供を受け、26日に太田市役所内で記者会見が開かれました。男性が作成したとみられる記者発表資料には「優勝」と明記され、1時間程度の質疑を経て会見時の写真とともに記事を掲載しました。

しかし、大会開催について疑念が指摘され、27日に市幹部も同席して男性に事実関係をただしたところ、虚偽であることが判明しました。男性は「フランスには行っていません。周囲に行くと言った手前、引くに引けなくなってしまった」と話しました。

記者会見で明らかにされた内容とはいえ、報道に際しての確認作業が不十分で、紙面の信頼を損なう結果となりました。

男性からの虚偽の情報を提供した市産業環境部は27日、「私の見る目がなく、だまされてしまった」(板橋信一部長)として、報道機関に訂正を求めました。さらに、「今回のいきさつを全て人事当局に報告し、(職員の)処分を含めた人事判断を待つ」としています。

上毛新聞ニュースサイト2016年9月28日掲載

弁護士

慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHoo運営(2019年解散)。2017年からファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年『ファクトチェックとは何か』出版(共著、尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。2022年、衆議院憲法審査会に参考人として出席。2023年、Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット賞受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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