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ビックリ仰天の元韓国系CIA要員の逮捕! 米韓関係は蜜月なのになぜ?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
隠し撮りされたスミ・テリー氏(左)とNSP要員らとの会食(米連邦検訴状から)

 韓国系の元CIA分析官が韓国政府のためのロビー活動を行った容疑で米連邦捜査局(FBI)に逮捕、起訴されたとのワシントン発の情報は韓国政府、特に韓国の情報機関・国家情報院(NSP)に大きな衝撃を与えている。

 米韓は今、最良の関係にあるだけにこのニュースを韓国人の誰もが「まさか」「信じられない」と受け止めている。

 韓国政府のエージェントとして活動したとして電撃逮捕されたのはCIAの元女性分析官、スミ・テリー氏(54歳)。

 今では米国では名の知れた朝鮮問題エキスパートとして知られているが、韓国などでは昨年公開され、絶賛を浴びた脱北者を扱った映画「ビヨンド・ユートピア 脱北」の共同制作者として有名である。実に皮肉なことに、彼女が逮捕された翌日、「ビヨンド・ユートピア 脱北」が米TVのアカデミー賞と称される「エミー賞」にノミネートされていた。

 現在、米外交協会(CFR)の専任研究員でもあるスミ・テリー氏は2001年から在職していたCIAを2008年に退職した後にアプローチしてきたNSP要員らの要請を受け、ブリンケン国務長官をはじめ米高官らとのやりとりを韓国側に伝え、米政府関係者との会合を斡旋したりしていた。そして、その見返りとして高級バッグや衣類、研究活動費という名目で多額の現金を受け取っていたとの疑いを掛けられている。

 逮捕、起訴されたのはロビイストとして米政府に正式に登録せずに外国のためのロビー活動を行ったことによる「外国代理人登録法」に抵触したからである。仮に有罪となれば、最大で5年の実刑が科せられる。

 一時的に身柄は拘束されたものの直ぐに日本円で約7億8千万円の保釈金を払い、現在は保釈の身である。

 起訴状によれば、FBIは2013年から昨年6月まで約10年にわたってスミ・テリー氏とNSP要員との関係、接触を追跡していたようだ。凄まじい執念である。

 FBIの監視や尾行によりスミ・テリー氏を担当していたNSP要員が2019年11月13日にはメリーランド州にある免税店で2800ドル相当のドルチェ&ガッパーナ製コートを、また同じ日に今度はワシントンで2950ドル相当のイタリア製のボッテガヴェネタのバッグを、さらに2021年4月16日にはワシントンで3450ドル相当のルイヴィトンのバッグを購入していたことが判明。ルイヴィトンバッグを購入する時にはスミ・テリー氏も一緒だった。

 ニューヨーク南部地検が16日(現地時間)に公開した31枚程度の起訴状にはスミ・テリー氏が2022年6月16日に国務省で開かれた非公開会議に出席した際、会議内容を駐米韓国大使館に派遣されたNSP要員に大使館ナンバーの車の中で手渡していたことが記述されている。また、NSP要員らがその代価として高価なブランドバッグをプレゼントしたり、高級レストランで食事を接待したりしている場面が隠し撮りされた写真も「証拠品」として添付されている。

 また、起訴状にはスミ・テリー氏が2021年4月16日にワシントン市内のレストランでNSP要員らと会食した際にCIAと国家情報委員会(NIC)の要職を歴任し、韓国業務を担当する国務省高官と緊密な関係にあることを示唆する発言を行っていたと記述されているようだが、この高官は他ならぬ今月5日に国務省副次官補(東アジア太平洋担当)を唐突に辞任したチョン・パク氏(51歳)ではないかと噂されている。

 スミ・テリー氏と同様に韓国系移民であるチョン・パク前国務省副次官補は国家情報局(DNI)で韓国担当副情報官、CIAで東アジア太平洋担当ミッションセンター局長を経て2021年1月に国務省副次官補に任命され、韓国関連の業務も担っていた。

 ブルッキングス研究所の研究員であった彼女は「金正恩専門家」と言われるほどの「北朝鮮ウォッチャー」として知られていた。その証拠に2020年には北朝鮮の未来を分析した著書「ビカミング金正恩:北朝鮮の謎のような独裁者に対する前職CIA分析官の洞察」を出版していた。

 韓国系と言うと、国務省の中にはこの他にもトランプ政権下で北朝鮮担当特別代表として北朝鮮との交渉に関与し、後にフィリンピン大使やインドネシア大使などを歴任したソン・キム元アジア太平洋担当国務次官補もいる。

 また、下院議員の中ではニュージャージー州のアンディ・キム議員(民主党)、ワシントン州のマリリン・ストリックランド議員(民主党)、カリフォルニア州のヤング・キム議員(共和党)、同じくカリフォルニア州のミシェル・パク・スティール議員(共和党)の4人が韓国系である。

 韓国系米国人によるロビー活動として1970年代半ばに米国を震撼させた在米韓国人実業家、トン・ソンパク(朴東宣)による「コリア・ゲート事件」(米議会買収事件)が米国人の脳裏に焼き付いているが、今回の事件は大掛かりでないことから外交問題に発展する可能性は低い。

 それでも韓国政府はとして11月の米大統領選挙でトランプ前大統領が返り咲く可能性が濃厚なだけに大使館によるロビー外交が今回の一件で監視の対象となり、委縮するようなことになれば痛手を被るのは明らかだ。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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