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1日10時間以上、週6日働き、賃金は1カ月100ユーロ。世界の縫製工場で働く女性たちの現実を知って

水上賢治映画ライター
「メイド・イン・バングラデシュ」のルバイヤット・ホセイン監督

 わたしたちが日々着ている、いわゆるファストファッションの服は、なぜ安価なのか?

 詳しくは知らなくとも、低賃金で働かされている労働者のもと成り立っていることぐらいはなにかしらで耳にしたことがあるのではないだろうか?

 本作「メイド・イン・バングラデシュ」は、<世界の縫製工場>といわれるバングラデシュのとある工場で働く女性の物語。

 実話をもとに、劣悪な労働環境を変えようと組合を作って経営者と相対した女性労働者たちの姿が描かれる。

 その物語は、ファストファッションの裏側にある現実のみならず、男性上位社会にあるバングラデシュの女性の立場までを浮かび上がらせる。

 名もなき女性労働者から自国バングラデシュと世界の現実を見据えたルバイヤット・ホセイン監督に訊く。(第四回)

 前回(第一回)は、作品のモデルとなったダリヤ・アクター・ドリとの出会いについて語られたが、引き続き脚本についての話を。

1日10時間以上、週6日働いて、賃金はよくて1カ月100ユーロぐらい

 リサーチでさまざまな工場で働く女性たちに会ったとのことだが、どんな現実がみえてきたのだろうか?

「そうですね。

 まず縫製工場で働く女性たちの主な年代は18~30歳ととても若いです。

 彼女たちはだいたい固いイスに座って、ミシンの前で体をかがめて1日10時間以上、週6日働いて、賃金はよくて1カ月100ユーロぐらいです。

 こんな労働環境ですから、体を壊してしまう。そのために、年配の女性労働者はほとんどいない。いないというよりも、過酷な労働なので続けられないのが実際のところだと思います。

 そういう厳しい現実がある中で、わたしが一番心を惹かれたのは、稼ぎが少なくても、労働環境が悪くても、家で家長である夫や男性との闘いが待っていても、彼女たちがエンパワーメントできている、つまり、自らの意志を決定できて、自らが望む行動ができることを誇りとしている。そのことでした。

 いまから100年前のバングラデシュでは、女性は働くことさえ許されなかった。女性はほとんど世間から隔絶されていた。ある意味、社会活動に参加することが許されていなかった。

 でも、現在、彼女たちは家から出て外で働き、自分自身と家族の生活を支えている。そして、働き先の工場と家庭で、自分たちの権利のために闘っています。

 彼女たちにそういう意識があることに感銘を受けて、物語に反映できればと思いました」

「メイド・イン・バングラデシュ」より
「メイド・イン・バングラデシュ」より

組合を作って会社と交渉に入り、正当な権利を求めて立ち上がるのは、

女性が圧倒的に多いんです

 作品の主人公は、10代前半で親に結婚を強制され、地元のラージプールを逃げ出してきたシム。

 現在、23歳になった彼女は、衣料品工場で働いている。

 そんなある日、工場で火災が発生。ひとりの同僚が逃げ遅れて命を落とす。

 このことが引き金になってより工場と経営側に不信感を抱いたシムは、とある労働者権利団体の関係者に出会ったことをきっかけに、労働組合の結成を水面下で始める。

 しかし、それは男性上位社会のバングラデシュという国において至難の業。いろいろな横槍や経営側の圧力に次々と襲われる。それでもシムは工場の経営者たちに、理解のない夫に、労働組合の申請を後回しにし続ける行政に立ち向かっていく。

 シムのように組合を作って会社に対して正当な賃金を求めたり、職場の環境を良くするように申し出たりと立ち上がる女性は実際にはいるのだろうか?

「これは調べる中でわかったことなんですけど、組合を作って会社と交渉に入り、正当な権利を求めて立ち上がるのは、女性が圧倒的に多いんです。

 労働組合の組合長になっているのも圧倒的に女性が多いんです。

 だから、日本をはじめほかの国のことはわからないんですけど、バングラデシュにおいてシムのような存在は珍しくないんです。

 ただ、じゃあなぜ女性が立ち上がるかといえば、それは男性と女性ではあまりに賃金が違うからで。

 経営者をはじめその工場の実権を握るサイドの立場の職務も男性が占めている。

 もちろん男性にも女性たちと同じような境遇で働かされている人もいる。でも、たとえばこういう縫製工場の労働者は圧倒的に女性の方が多い。

 なので、女性が主導になって動くケースがほとんどです。

 いまはこういった縫製工場もオートメーション化が進んで、働く人の男女比でいうと、男性40%で女性が60%ぐらいになっているそうです。

 ただ、わたしがリサーチしていた当時は2013年ぐらいのデータをもとにしていたんですけど、そのころは女性が85%を占めていました。

 その中で、シムのような女性たちが現れて、現状が少しずつですけれども改善されてきた。

 それでも、仕事ができて高給を取れるという人でも、月給が100ユーロぐらいなんです。

 仕事ができるといわれている人でも、それぐらいしかお給料をもらえていない。なので、まだまだ改善の余地はある。

 ただ、女性たちが泣き寝入りしないで、立ち上がった勇気というのは称賛に価すると思います。

 そのことも含めて、知ってもらえたらという気持ちがこの作品にはあります」

「メイド・イン・バングラデシュ」より
「メイド・イン・バングラデシュ」より

「メイド・イン・バングラデシュ」

監督・脚本・製作:ルバイヤット・ホセイン

出演:リキタ・ナンディニ・シム、ノベラ・ラフマンほか

岩波ホールほか全国順次公開中

詳細は公式サイトへ http://pan-dora.co.jp/bangladesh/

写真はすべて(C)2019 – LES FILMS DE L’APRES MIDI – KHONA TALKIES– BEOFILM – MIDAS FILMES

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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