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なぜ今なのか? シーズン残り5試合でエンジェルスからの離脱を決めたアンドレルトン・シモンズの謎

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
シーズン5試合を残してチーム離脱を決断したアンドレルトン・シモンズ選手(写真:代表撮影/USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【あまりに突然のチーム離脱表明】

 エンジェルスは現地時間の9月22日、アンドレルトン・シモンズ選手が残りシーズンを欠場する意向をチームに通達したため、それを受け入れたことを明らかにした。

 チームが発表した声明は、以下の通りだ。

 「アンドレルトン・シモンズがチームに対し、残りシーズンを離脱すると通達してきた。今シーズンは多岐にわたり独特なチャレンジを強いられるシーズンであり、エンジェルスはアンドレルトンの決断を尊重する」

 今シーズンは新型コロナウイルスの影響で、MLBと選手会の間で選手たちは自分の意思でシーズンを欠場できる選択権を有することで合意していていた。だが今シーズンのエンジェルスはわずか5試合を残すのみという状況だっただけに、この時期でのシモンズ選手の決断に謎が深まっている。

【シモンズ選手「自分と家族にとって最善の決断」】

 LAタイムズ紙のマリア・トーレス記者によれば、シモンズ選手も以下のような声明を出しているようだ。

 「自分は残りシーズンを離脱する決断を下した。MLBと選手会が選手たちに権限を行使できるシステムと環境を整えてくれ、離脱するかどうか決断できる機会を与えてくれた。現時点で自分の決断は、自分と家族にとって最善のものだと考えている。

 今後自分の将来がどうなっていくのかは定かでではないが、我々を歓迎してくれ、まるで我が家のように感じさせてくれた、エンジェルスとそのファンに心から感謝したい」

 今シーズンのシモンズ選手は、シーズン開幕早々に左足首の捻挫で戦線離脱するアクシデントに見舞われたものの、8月21日に復帰後は先発遊撃手として活躍。ここまで30試合に出場し、主力選手の中ではチームトップの打率.297を残す活躍を続けていた。

 まだポストシーズン進出の可能性を残すエンジェルスにとって、シモンズ選手の離脱は大きな痛手といっていい。

【マドン監督もまさに寝耳に水だった】

 シモンズ選手の決断は、チームにとってまさに寝耳に水だったようだ。

 22日のパドレス戦前にオンライン会見に応じたジョー・マドン監督も、ビリー・エプラーGMから連絡を受けるまでまったく知らなかったという。

 指揮官の説明によれば、21日のレンジャーズ戦後の帰宅中に、エプラーGMから連絡を受け、その事実を知らされた。連絡を受けてからもシモンズ選手と話す機会はなく、翌22日なってパドレス戦に向けサンディエゴに移動するバスの中からシモンズ選手にショートメールを送ってみたものの、彼から返信はなかったという。

 またシーズンを通してシモンズ選手との会話の中で、チーム離脱を匂わせるような素振りもなかったと説明している。

 「いつか彼と話すことができ、今回の決断の裏に何があったのかを確認できる日が来ればいいのだが、とにかく彼が無事であることを祈っている」

 その言葉からも、マドン監督の困惑ぶりが窺い知れるだろう。

【なぜ今なのか?】

 マドン監督をも困惑させるほど、シモンズ選手の唐突すぎる離脱は、多くの人たちから不可思議だと受け取られている。

 もしシモンズ選手が以前から新型コロナウイルスに不安を感じていたのなら、もっと早い時期に離脱することができていたはずなのだ。彼が無理をしてまで試合に出場する必要性がなかったからだ。

 シモンズ選手の場合、今シーズンの全60試合を欠場したとしても彼のMLB在籍日数に何ら影響はなく、彼がブレーブス時代に合意した7年契約の最終年となる今シーズン終了後に、自動的にFAの資格を得られることになっていた。

 また昨シーズンも1300万ドル(約14億円)の年俸を得ており、若手選手のように今シーズンの年俸を得るためにプレーする必要もなかったはずなのだ。

 にもかかわらず、彼はエンジェルスの一員としてここまでシーズンを戦ってきた。そしてチームが重要な状況に置かれている最中に、離脱することを決めたのだ。与えられた状況証拠だけでは、シモンズ選手の真意がまったく見えてこない。彼の声明にもあるように、これでエンジェルスを離れる可能性も十分にある。

 一体シモンズ選手に何が起こったのか。その真相が判明する日は訪れるのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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