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容易ではない中朝関係の完全修復――映像からチェックした中朝首脳会談

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
首脳会談を前に握手する習近平主席と金正恩委員長

 金正恩委員長の訪中に驚いたのは安倍総理だけではない。韓国の文在寅大統領とトランプ大統領もしかりだ。

 冷え切った中朝関係を考えると、この時期の訪中はあり得ないとみていただけに内心受けた衝撃は測り知れないものがあったのではないだろうか。

 金委員長の訪中は早い段階から計画されていたとの見方もあるようだが、そうだろうか?おそらく、即断即決し、中国側に通告したのは、中国入りする3~4日前あたりではないだろうか。

 そもそも、北朝鮮の平昌五輪参加も南北首脳会談も、そしてトランプ大統領との史上初の首脳会談も中国に事前通告すらしなかった。それもこれも、米国と一緒になって制裁と圧力を掛けてきた中国の鼻を明かしたいがためだ。実際に、金委員長の南北首脳会談と米朝首脳会談の提案を訪中して、習主席に伝えたのは、金委員長と会った韓国特使であった。

 それが、一転訪中を決断したのは、やはり予測不能の交渉相手であるトランプ大統領が17日から22日にかけて対話派のティラーソン国務長官とマクマスター大統領補佐官を解任し、後任に金正恩政権のレジームチェンジや軍事オプションによる解決を公然と主張する強硬派のポンペオCIA長官とボルドン元国連大使を指名したことによるところが大きい。

 金委員長は晩さん会でのスピーチで2度にわたって「電撃訪問」という言葉を使っていた。自身の電撃的訪問を習主席が多忙の中、快く承諾してくれたと感謝の意を本人の前で述べていたが、韓国に昨日(29日)入った中国の楊潔チ・共産党政治局員(元外相)は当初、25日に韓国を訪問する予定だった。そのことを本人自らが3月中旬に公表していた。結局、金正恩訪中で延期となったが、元外相の楊政治局員ですら直前まで把握できなかったということはまさに急遽決まったからに他ならない。

 金委員長は全人代閉幕(20日)の際に再選された習近平主席に祝電を送ったが、疎遠な中朝関係を反映してか、中身は短く、実にそっけないものであった。詰まるところ、金委員長の訪中はポンペオ、ボルドンの両タカ派の起用に危機感を覚え、急遽セットしたのではないだろうか。

 新体制下における中朝初の首脳会談で中朝関係は改善され、往来や交流は活発になることが予想されるが、以前のような蜜月の関係に回帰するとは考えにくい。その理由の一つは、トップ同士の心のわだかまりが完全には解消されてないことだ。

 ▲慣例のハグの挨拶がなかった

 初対面であろうが、再会であろうが、中朝首脳は挨拶する場合、ハグするのが慣例となっていたが、映像を見る限り、今回は、一度も抱擁することはなかったようだ。

 習主席はベトナムの共産党書記長と会った時をはじめ何度か友好国の指導者らとハグをしており、また金委員長も訪朝したキューバの要人と接見した際にやはりハグをしていた。いくら疎遠な関係にあったとしても、社会主義友好国の指導者らの挨拶はハグが付き物である。まして、晩餐会の宴会場で先代の指導者らの出会うシーンが映像で流れ、金正日総書記と江沢民、胡錦濤の元・前国家主席らが頬を合わせるように抱擁していたわけだからなおさらのことである。

 結局、晩さん会終了後も、翌日の夫人だけを同席させた午餐会の時も、また最後の別れの時にも抱擁することはなかった。金委員長がそのつもりで手を差し出していたようにもみえたが、抱きかかえる側の習主席にその気がなかったことから実現しなかった。

 もう一つは、首脳会談で完全な意見の一致がみられなかったことだ。

 ▲「完全な意見の一致をみた」との報道がなかった

 中朝双方の報道では戦略的意思疎通を強化し、交流と協力を深め、両国の親善・友好関係をさらに発展させることでは意見の一致をみたとされているが、肝心の主要懸案については、北朝鮮の報道によると「朝鮮半島情勢管理問題を含む主要事案については深みのある意見交換を行った。会談は虚心坦懐で、建設的で、真摯な雰囲気の中で行われた」との表現に留めていた。

 父・金正日総書記は亡くなる半年前の2011年5月に訪中し、その際、胡錦濤主席ほか当時副主席だった習近平氏らと首脳会談を行っていたが、北朝鮮のメディアは「共通の関心事である重大な国際及び地域問題について虚心坦懐に意見を交わし、完全な意見の一致をみた」と伝えていた。

 また、その前年(2010年8月)にも金総書記は訪中していたが、やはり「共同の関心事となる重大な国際及び地域問題について深く話し合い、完全な見解の一致を見た」と、北朝鮮のメディアは報じていた。

 朝鮮半島の非核化をめぐる問題、北朝鮮が9月の建国70周年に向けて準備している人工衛星の発射問題、中国が賛成した国連安保理の制裁措置をめぐる問題、駐韓米軍をめぐる問題を含む対米認識などで見解、立場が異なっていたとしても何ら不思議なことではない。

 今回の首脳会談の結果、中朝が朝鮮半島の非核化問題で、あるいはトランプ政権への対応で共同戦線を張ることはなさそうだ。

 中朝関係が完全修復するかどうかは、習主席が9月9日の北朝鮮の建国70周年記念式典に訪朝するかが一つのバロメータとなるだろう。

(参考資料:「金正恩電撃訪中」の狙いー「18年前の金正日訪中」の再現

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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