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「私に戦争は止められない…でも平和願い、歌う」 日本在住ウクライナ民族楽器奏者の調べ

南龍太記者

 ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、反戦と平和を願うコンサートが29日、都内の武蔵野市役所で開かれた。

 演奏者はウクライナの民族楽器「バンドゥーラ」を弾く同国出身のカテリーナさん(36)。「私が戦争を止めることはできない。でも歌で、平和を願う」とウクライナの楽曲を披露、詰め掛けた聴衆は美しくも悲しい音色に聴き入った。

数百の聴衆

 「平和を願うミニコンサート」と題し、会場となった市役所1階のホールは数百人の市民らで埋め尽くされ、入りきらず階段にまで人垣ができるほどだった。

 市のほか、平和事業を推進する武蔵野市非核都市宣言平和事業実行委員会や、国際交流や在日外国人支援を担う武蔵野市国際交流協会、武蔵野文化事業団が共催した。

 松下玲子市長は、ロシアの暴挙に対してロシア側に送った抗議文に触れながら、「この事態が一日も早く収まり、ウクライナに平和が訪れるよう願う」と話した。

大勢の市民がコンサートに駆け付けた
大勢の市民がコンサートに駆け付けた

原発事故で被災

 カテリーナさんは、チェルノブイリ原発から2.5キロほど離れたプリピャチで生まれ、約1カ月後に起きた1986年の原発事故により、町からの強制退去を余儀なくされた。その後、被災した子どもらでつくる音楽団「チェルボナカリーナ」に加わり、音楽活動を続けてきた。

 公演で訪れるうちに日本が気に入り、19歳で活動の拠点を東京に移した。現在は東京・三鷹に夫と子どもと暮らしているという。

 この日、ウクライナ国旗と同じ青と黄色の衣装で登場したカテリーナさんは、故郷や離れて暮らす母への思慕を歌った「マリーゴールド」などウクライナの曲に加え、日本語の「翼をください」を弾き語りした。1曲終わるたびに万雷の拍手が起こり、目頭を押さえる人たちの姿が目立った。

 カテリーナさんは、それぞれの曲に込められた意味やバンドゥーラの歴史を紹介し、「バンドゥーラ=ウクライナ、ウクライナ=バンドゥーラと言ってもいい」という深く、長い歴史を持つその楽器の魅力について説明した。「バンドゥーラは重さ8キロもあるんですよ。筋トレにちょうどいい」などと冗談も言い、笑顔で気丈な様子が印象的だった。

65本の弦があるというバンドゥーラを紹介するカテリーナさん
65本の弦があるというバンドゥーラを紹介するカテリーナさん

何もしていないのに殺される

 一方、ウクライナ文化の象徴とも言えるバンドゥーラの奏者が時の支配者に迫害されてきた史実などにも言及した。「ウクライナは昔から、他の国に取られそうになってきたが、負けずにウクライナの国として残ってきた」と話し、危機的な現状を憂えた。

 カテリーナさんは、ロシア侵攻後のウクライナの惨状について、「街はがれきになった。友達も先生もシェルターから出られない状況が続いている。電気もない。小さな子どもたちは、何もしていないのに殺されている」と言葉を詰まらせた。「私が戦争を止めることはできません。でも歌で、一人ひとりの方の心に平和を願って届けたい」

母との再会

 会場には母マリヤさん(68)の姿もあった。マリヤさんは侵攻後もキエフで独り暮らしをしていたが、ポーランド経由で3月21日に来日し、カテリーナさんと再会を果たした。

 カテリーナさんによると、マリヤさんは足を悪くしている中、11時間立ったままぎゅうぎゅう詰めの列車に乗り、国境を越えるために数キロもの長蛇の列に並び、かろうじて逃れてきた。

 コンサート終了後、マリヤさんは報道陣の取材に応じ、「日本へ来るのは4回目。ただ、これまでと違い今回は"逃げて"きた。それはとてもつらいこと」と話した。

母マリヤさん(左)の肩にそっと手を置くカテリーナさん
母マリヤさん(左)の肩にそっと手を置くカテリーナさん

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マリヤさんにとって、日本は「2つ目の家」になったという。原発事故と戦争という壮絶な体験をしながらも、日本の子どもたちには「戦争とは何かを知らずに生きてほしい」と優しく祈った。

会場に設置された募金箱の前には、平和を願う市民らが列をなした。善意の広がりを信じたい。

(写真はいずれも筆者撮影)

カテリーナさん(Kateryna Gudzii)

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記者

執筆テーマはAIやBMIのICT、移民・外国人、エネルギー。 未来を探究する学問"未来学"(Futures Studies)の国際NGO世界未来学連盟(WFSF)日本支部創設、現在電気通信大学大学院情報理工学研究科で2050年以降の世界について研究。東京外国語大学ペルシア語学科卒、元共同通信記者。 主著『生成AIの常識』(ソシム)、今年度刊行予定『未来学の世界(仮)』、『エネルギー業界大研究』、『電子部品業界大研究』、『AI・5G・IC業界大研究』(産学社)、訳書『Futures Thinking Playbook』。新潟出身。ryuta373rm[at]yahoo.co.jp

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