Uber Eatsで100回注文する常連がいる店に聞いた、その成功の秘訣は「接客」だった
新型コロナのパンデミックによるコロナ禍の状況から早1年半近い年月が過ぎようとしています。いろんなことが変化し、状況とともさらに変化もしていますが、中でも状況が激変してしまったのが飲食店です。
これまで通ってきた飲食店がいろいろなことを挑戦していたり、業態の変化の様なものを見てきたみなさんも多いのではないかと思います。
そんな中、とある飲食店のオーナーからこんな話を聞きました。
「うちの店でいつもUber Eatsで注文してくれる常連さんの注文回数がついに100回になりました」
個人が注文する数として100回ってすごい数字です。毎日でも3か月以上、2日に1回でも半年以上はかかる数字です。そんな常連さんが出る店であれば、なにか飲食店がUber Eatsを利用する上で参考になる話があるのではないかと思って、お話をうかがいました。すると、ちょっと想像以上のコロナ禍でのUber Eatsについてのお話をうかがうことができました。そこにはUber Eatsに対応するためのノウハウとこれまで店舗でつちかってきたリアル飲食店のノウハウが合体した姿がありました。
― 100回注文する常連さんが出たってすごいですね
ひごの屋のオーナー、長谷場大亮氏(以下、長):われわれもよくご注文いただくなあとは思っていたのですが、改めてカウントしたらきょうで100回目だったのでびっくりしました(笑)
― そもそもUber Eats自体はコロナ禍以降で参入されたんですか?
長:いや、実はコロナ禍よりも前で、半年ぐらいは大した売上もなかったんです。でも、コロナ禍になり、とにかくいろいろとやるしかないなということで、ある意味ギアチェンジして、この1年半Uber Eatsをやってきました。そしていろいろ感じるところはありますね
― なるほど。では、この1年半を振り返ってみて、コロナ禍でUber Eatsを利用する人も増えたと思うので、変わったところはありますか?
長:自分でもUber Eatsを試したりしてわかったことがありまして、Uber Eatsでうまくいっている飲食店さんって、飲食の世界の人ではなくネットに明るい人たちなんですよね
― なるほど
長:要するにアプリでの見せ方が上手い人たちです。どうやればお客さんが目にとめるか、お客さんたちはUber Eatsでどんな検索の仕方をするか、どこにワードを仕込んでおくと検索で優位に立てるか、などなど
― それはネットでのコンテンツ作りに近いですね
長:だから僕たちのような飲食店がどんなに美味しい料理を作って、声を大にして叫んでも、肝心のお客さんには届かないんです。でも飲食畑の人たちはそれに気づかず、「注文全然来ないね」とか嘆いているんですよね
― なるほどなるほど
長:私はUber Eatsでは、これまでと戦っている相手が全く違うと感じました
― 実際の店舗に来てもらうノウハウとUber Eatsのようなアプリの中の世界では最適解が違うだろうということですね。そして、実際に別の最適解はあったと
長:その通りです。どっちかと言うとアプリの中でのノウハウはECに近いと思うんですよね
― そうか、Uber Eatsはいわばモールだから、その中で埋もれないためにどうするか?ということですね
長:そうなんです。でも多くの店はいろんな問題をごっちゃにしちゃってるんですよ。メニュー変えてみようかなあ、とか(笑)。でも、そこじゃないんですよ。それはアプリに対応できているか?っていう問題をクリアした後に考える問題なんだよ!っていう感じです
― お客さんの目に止まる状態にしないと、スタート地点にも立てないということですか?
長:そうなんです。だから、アプリの世界では僕たちは素人なのでプロの助けが必要だと思い、コロナ禍以降、実はUber Eatsではコンサルを入れてます
― そのコンサルの助言を踏まえて、Uber Eatsに実際に飲食店として参加してみてどうでしたか?
長:下手すると、アプリで店名で検索しても引っかかりません(笑)
― え!そうなんですか。でも、そこを嘆いているよりも、今の環境での最適解探す方が飲食店としては正解ですよね
長:アプリだって完璧ではないわけですよ。お客さんには見えない部分ですが、管理画面も完璧ではないです(笑)
― その辺は運用してみないとわからないことですね
長:そして、やったことをもうちょっと具体的に話しますと、われわれがはじめに言われたのは「Uber Eats厳選」を目指しましょうということです
― ふむふむ
長:ああいうアプリではいろんな数字があるんです。店舗側がちゃんとオンラインになっているか?とか、あとはもちろん注文数とか評価の星の数とかもですね
― Uber Eats、けっこう要素ありますもんね
長:これらに基準になる数値があって、これをクリアできていると「Uber Eats厳選」の称号が得られるわけです。そうなると露出が増えて、お客さんも安心して手を出しやすくなるんです
― 整理してみると、そりゃそうだって話ですね。チェーン店なら安心して注文できるけど、はじめて名前を聞くような個別の飲食店はそうじゃないですもんね
長:これまでリアル店舗で得られた信用とか歴史とかが一度リセットされるのが、アプリの世界だと思います。でも、そこである程度売上ができるベースを作ると、今度はそこから先はこれまでの飲食店でやってきた武器はここでも使えると感じています
― 武器?
長:簡単に言うと「接客」ですね。どのお店も届けた料理にサンクスレターを入れているのですが、これはちゃんとやると思った以上にすごく効果が出るんですよ
― 言われてみれば、サンクスレターっていわゆるチラシしか見たことないですね
長:ほとんどのお店が(チラシの)コピーを入れてるだけなんです。うちのスタッフが始めたんですが、ちゃんと名前を入れて、新規のお客さんと、2回目の方、常連の方で内容を変えてるんです。レビュー書いてくれた人はその次の時にそのお礼を書いていたりもします
― うわー、それはすごい。よくそこまでやりますね
長:結局、アプリの中ではレビューの数や星の数でお客さんがお店を判断しているわけです。それはただの数字といえば数字ですけど、その先にお客さんがいます。ちゃんとレビューを書いてくれる人が増えれば、アプリでのお客さんはとにかく増えるんですよ。だからサンクスレターを本気で書いて、レビューを書いてもらおう、星を付けてもらおうっていうスタッフの行動になるわけです
― この話ってツイッターが流行りだしたときに「お店がツイッターなんてやってどうするの?」って話にかなり近いですね
長:ですです。ホントにそう
― サンクスレターをまめに続けることでどういう変化がありましたか?
長:リピーターの数が他の飲食店の平均を大きく超えています。現在の注文の約4割が2回目以降のお客様で、さらにその中の半分は4回以上のご注文です。
― それはめちゃくちゃ多いですね
長:そうですね。だからコンサルの人も驚いています(笑)
― でも、その数字って、要するに接客の成果ですよね。店舗とアプリで場所が変わっただけで、実はこれまでやってきたことでもあるわけですね
長:そうなんです。やっぱりお決まりのチラシコピーじゃダメなんです
― ただ毎日のように手書きで書くって、現場のスタッフのみなさんはたいへんじゃないですか?
長:現場はメチャクチャ大変だと言ってます(笑)
― ですよねえ
長:でも、現場の店長が比較的負担がかるいオペレーションを確立してくれたので、今は結構普通にやってくれています。今の数字はそのオペレーション(と表参道店店長)のおかげですね。あとは、以前は注文がないと、営業時間の最後の方は手動で適当に営業終了にしてしまっていたんですが、それをやってるとアプリでの「オンライン率」の数値が悪くなるんです。いつもそうしてしまっているのであれば、営業時間自体を短くしてしまえばいいわけです。そうすればオンライン率(の数字)に影響ないからいいでしょうと
― 営業時間の不安定なお店にお客さんくるわけないですもんね(笑)
長:この辺は私たちじゃわかんなかったですね。コンサル的な視点のアドバイスでした
― Uber Eatsへの最適化と接客の徹底。それで、ついにとある常連さんが注文を100回突破するまでたどり着いたわけですね
長:そうなんです。もう毎日のように注文をくれるので、手書きの文章がもはや文通みたいになってると苦笑いしていました。「暑くなってきたので体調に気を付けてくださいね!」とか書いてるみたいです(笑)
― いい話だ
長:ちなみに100回のお客さんは完全に突出していますが、50回前後の方は他にも何人かいます
― すばらしい成果です。おめでとうございます
インタビューどうでしたでしょうか。
お話を聞いている間、私はなんども深くうなづいていました。飲食として戦う場所が変われば、変わってしまう部分はある。でも、変わらない部分も、飲食店だからちゃんとある。この問題整理というのは、特定の飲食店だけではなく、広く応用の利くノウハウなのではないかと思います。
同時にコロナ禍で思わぬ大きな変化があったとはいえ、コロナ禍以前からUber Eatsは存在していたわけで、いつか直面しなくてはいけない問題であったとも言えます。
今回、「ひごの屋」の長谷場さんは惜しげもなくUber Eatsでの成功の秘訣についてお話ししてくれました。これがコロナ禍で対応にいそしんでいる飲食店のみなさんの一助となれば、お話ししてくれた甲斐があるというものです。
そして、この記事が、もう一度自分たちの飲食店の運営について見つめ直すきっかけになっていただければ、これ以上のことはありません。