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与党合意に反してまで齋藤法相が死守する疑惑の人物、現役参与員らからも批判続出

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
齋藤法務大臣 筆者撮影

 今年6月に成立した改正(改悪)入管法をめぐり、国会で大問題となったのが、難民認定制度の「闇」だ。中でも、その発言が入管法の改正(改悪)の根拠となった柳瀬房子・難民審査参与員(NPO法人「難民を助ける会」元名誉会長)をめぐっては、その信憑性や認定率の低さ、111人いる難民審査参与員の中で、柳瀬氏に割り振られる審査が年間全体の4分の1と異常に多いなどが指摘され、制度そのものへの信頼を揺るがす事態となった。このような状況に対し、現役の参与員や元参与員からも、疑問や批判の声が上がったが、これらの声を黙殺しているのが、法務省の齋藤健大臣である。会見で、あくまで柳瀬氏を特別扱いする一方、他の参与員達からの異論を聞くことについては明言を避けた。

〇柳瀬房子氏の発言

 難民審査参与員は、難民認定の一次審査に不服を申し立てた申請者を、改めて審査し、難民として認めるべきかどうかを法務大臣に助言する。その参与員の一人である柳瀬氏は、2021年4月の法務委員会で「これまで2000人を(対面で)審査してきたが、申請者の中に、難民はほとんどいない」と発言。これを法務省/入管庁は、難民認定申請者の強制送還を可能とする、今回の法改正(改悪)の根拠とした。難民として保護を求めている人々を、迫害の恐れのある母国へと強制送還することは、「間接的に死刑執行ボタンを押す」ことになりかねないが、「申請者の中に難民はいない」とすることで、強制送還を正当化したのだ。また、柳瀬氏は今年4月の時点で朝日新聞のインタビューに対し、「これまで4000人の審査を対面で行っている」と発言しているので、上記の法務委員会の発言から、2年で2000人の対面審査を行ったと主張していることになる。

〇現役・元参与員らからの批判

 こうした柳瀬氏の言動や法務省/入管庁の説明に異論を唱えたのが、現役参与員や元参与員達だ。2年で2000件を審査したとする柳瀬氏の主張に対し、「難民認定審査は時間がかかる。2年で2000件は、とても可能とは思えない」「まともに審査しているのか疑問を持たざるを得ない」との指摘が相次いだ(全国難民弁護団連絡会議のアンケートより)。さらに、今年5月末、現役参与員や元参与員達6名が都内で記者会見を行い、柳瀬発言へ反論し、難民審査参与員制度が法務省/入管庁の恣意的な運用で歪められていることを指摘したのである。

 柳瀬氏の「難民はほとんどいない」という発言に対し、中央大学名誉教授(国際法)で、難民審査参与員の北村泰三氏は「ふに落ちない。全然違う」と疑問を呈し、弁護士で難民審査参与員の伊藤敬史氏も、「私は、難民はそれなりに日本にいるんじゃないかという印象を持っている」と語った。

 会見した現役参与員及び元参与員らが口々に語ったのは、「難民と認定すべきと意見すると、割り振られる審査が減らされる」「審査を引き受けられるのに、割り振られない」ということだ。前出の伊藤弁護士は2021、2022両年度で計49件審査し、難民認定や人道上配慮のための在留特別許可を出すべきだとの意見書を出したのは17件(認定率34.7%)であったが、22年度後半から「割り振られる審査が半減した」という。北村名誉教授も2015年から2020年までは月4件を担当していたが、「コンスタントに認定の意見書を書いていたら、月1件に減らされた」と語る。これに対し、柳瀬氏は今年4月の朝日新聞インタビューでの発言から、これまので認定率は0.15%、直近の審査件数は法務省/入管庁によれば、2021年度で1378件、2022年度は1231件だという(年間の審査件数全体の4~5分の1に相当)。

 つまり、難民認定率が低い柳瀬氏に異常に多い審査が集中しており、難民審査参与員制度が極めて恣意的に運用されている疑いが濃厚なのである。

〇批判的な参与員の意見は聞かない

 柳瀬氏の言動は今国会でも野党から厳しい追及を受けたが、齋藤法務大臣は徹底的に柳瀬氏を擁護し続けた。そこで筆者は、先月27日の法務大臣会見で以下のように質問した。

「柳瀬さんや浅川(晃広)さんのような、『難民はいない』という立場の参与員の意見しか大臣は聞いていないのではないか。もしそうではない、個別の参与員に肩入れしているわけではないのなら、例えば北村泰三中央大名誉教授だとか、鈴木江理子国士舘大学教授だとか、『難民はいる』という立場の参与員、現在の制度に問題を指摘している参与員の方々の意見も聞くべきではないか?」

 これに対し、齋藤大臣は「何十回も説明しているので、お答えは同じ」として、柳瀬氏の一連の発言への調査・検証は行わない、解任せず引き続き参与員として審査させ続けるとの見解をくり返した。また、「参与員制度につきましては、この運用については、今後、やはりちゃんと私は、注視をして、おかしいことがないかどうかというのは、しっかりやっていきたい」と述べたものの、北村名誉教授らの意見を聞くかどうかは明言を避けた。

〇深まるばかりの疑惑、追及が必要

入管法改悪反対の国会前集会で「私達も人間だ」とのプラカードを掲げる少女 筆者撮影
入管法改悪反対の国会前集会で「私達も人間だ」とのプラカードを掲げる少女 筆者撮影

 今国会での入管法改正(改悪)の際に、与党と一部野党が付帯決議(法の施行・運用について留意すべきことについての決議)として、合意したことの一つとして、「難民認定申請における透明性・公平性に関する検討・配慮を行う」とある。柳瀬氏をめぐる一連の疑惑は、正に、この国の難民認定制度における透明性・公平性に直結する問題だ。それにもかかわらず、柳瀬氏の難民審査について、一切の検証もしない、情報も開示しないというのなら、齋藤大臣は、与党が合意した付帯決議にすら反している。なぜ、齋藤大臣はそこまでして、柳瀬氏を庇うのか。疑惑は深まるばかりである。改正(改悪)入管法の施行は、成立から1年後、つまり来年6月。今後も報道機関による、参与員制度の疑惑や齋藤大臣のスタンスに対する追及が必要であろう。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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