Yahoo!ニュース

『虎に翼』が描いた〝透明化された人々〟の過去と未来 #専門家のまとめ

松谷創一郎ジャーナリスト
朝ドラ「虎に翼」公式X(2024年7月31日)より。

 最終回を迎えたNHKの朝ドラ『虎に翼』は、日本初の女性法曹・猪爪寅子を軸に、これまでさほど注目されなかった〝透明化された人々〟に光をあてた。

 女性、在日コリアン、同性愛者、障害者など、多様なマイノリティの描写は、戦前から戦後にかけての日本社会の歪みを浮き彫りにし、現代にも通じる課題も提起する。

 この画期的な作品が持つ社会的意義と、視聴者への影響力を多角的に考察した4つの論考を紹介する。

ココがポイント

よねと轟が一緒に法律事務所を開くということは、ジェンダー史的にも非常に納得がいく、考え抜かれた構成になっています。

『あしたのメディア』2024/9/18(水)

日本は、1940年から朝鮮で「創氏改名」を実施しました。要するに、朝鮮式の姓と名前を日本風のものに変えさせるという通達
『CINRA.net』2024/9/26(木)

私たちはアメリカで結婚しているんですけど、日本に帰ってくるとそれは何も意味しない(略)一緒にいることの証は何も残らない
『NHK みんなでプラス』2024/9/25(水)

これまで透明化されてきた人々が「おかしい」と立ち上がり、裁判を起こして闘ってきた先に、今の私たちの暮らしはある
『VOGUE JAPAN』2024/9/13(金)

エキスパートの補足・見解

 『虎に翼』は、日本のテレビドラマにおける重要な転換点を示しているのかもしれない。これまでの朝ドラが女性の成長物語を描きつつも、その多くが既存の社会規範の中での成功を描いてきたのに対し、本作は社会構造そのものへの問いかけを前面に押し出しているからだ。

 そこには現代社会への強いメッセージ性も含まれている。なぜなら〝透明化された人々〟の描写を通じて、視聴者に自身の中にある無意識の差別や偏見と向き合うことを促しているからだ。それは、エンタテインメントとしての役割を果たしつつ、社会変化の触媒としての機能も果たそうとする姿勢を示唆するものだ。

 制作過程におけるジェンダーや朝鮮文化などの専門家の関与も特筆すべきで、これによって作品の信頼性と説得力も高められた。これは、ポピュラー文化における正確性の重要度の高まりと、視聴者の知的要求を反映している。

 この成功は、現代における夫婦別姓や同性婚など多様性と包摂性に関する議論を、より開かれた形で行う準備が整いつつあることも示唆する。そして、こうした社会的テーマを扱うドラマが広く受け入れられたことは、メディアの果たしうる役割の大きさを改めて認識させる。

ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

松谷創一郎の最近の記事