ウクライナ供与予定のレオパルト1戦車がドイツで再整備中
NATO各国はウクライナに対し主力戦車の供与を開始しています。イギリスのチャレンジャー2、アメリカのM1エイブラムス、ドイツのレオパルト2。ドイツ製のレオパルト2はドイツ以外のNATO各国の保有分も供与されています。
これに加えて旧式ですがレオパルト1の供与も決まりました。ドイツ、オランダ、デンマークが共同で出資してレオパルト1の保管在庫を購入して再整備を行い、ウクライナに約100両を送る予定です。
ドイツで再整備中のレオパルト1A5DK戦車(デンマークの供与)
元デンマークのレオパルト1A5DKの再整備を担当するのは、ドイツのフレンスブルクにあるFFG(フレンスブルガー・ファールツォィクバウ・ゲゼルシャフト、フレンスブルク車両製造会社)です。
ドイツ製のレオパルト1は約60年前の設計の第2世代戦車です。レオパルト2と名前が似ていますが全く別物の戦車です。性能は大きく異なり、特に防御力が劣っています。レオパルト1は鋼板装甲なので、急速に進化した対戦車ミサイルや戦車砲の徹甲弾に耐えることは出来ず、機関砲の徹甲弾までしか耐えられません。それでも火力面ではロシア戦車を相手に不利ではありますが限定的には戦えますし、戦車以外の全ての装甲車両は余裕をもって撃破できます。
- レオパルト1・・・第2世代戦車。105mm砲、鋼板装甲、重量40~42トン。
- レオパルト2・・・第3世代戦車。120mm砲、複合装甲、重量55~63トン。
※バージョンによって重量は細かく異なってきます。
ロシア-ウクライナ戦争は双方の戦車が大量に撃破され損耗してお互いに古い戦車を引っ張り出して戦っています。ロシア側は既にT-62(第2世代戦車)を投入、最近ではとうとうT-54/55(第1世代戦車)まで確認されています。ウクライナ側はスロベニアからM-55S(T-55を第2世代相当に改修)の供与を受けています。
約60年前の設計の第2世代戦車が21世紀の戦場で有効な兵器として投入されており、これにレオパルト1が加わることになります。開戦前にはとても考えられなかった旧式戦車の投入が今や当たり前の光景となってしまいました。第2世代戦車では第3世代戦車を相手に戦うのはかなり不利ですが、戦車以外の装甲車や歩兵を相手にするなら十分です。もしも戦車と戦うことになった場合は、味方歩兵の対戦車ミサイル班と共同で対処したり、歩兵戦闘車に搭載した対戦車ミサイルの援護などを組み合わせて戦うことになります。
ウクライナ向けレオパルト1A5戦車(鋳造砲塔と溶接砲塔)
- レオパルト1A5:鋳造砲塔+増加装甲板。レオパルト1A1から改修(ドイツ)
- レオパルト1A5DK:溶接砲塔。レオパルト1A3/A4から改修(デンマーク)
- レオパルト1A5BE:鋳造砲塔。レオパルト1A1から改修(ベルギー)
レオパルト1戦車には幾つか種類があるのですが、初期型A1とA2は丸みがある鋳造砲塔で、後期型A3とA4は角張った溶接砲塔です。しかし最後期型A5は改修車両で射撃管制装置の仕様のことで、レオパルト2の射撃管制装置の派生型をレオパルト1用として搭載しています。
各国のレオパルト1A1~A4がA5仕様の射撃管制装置に改修された結果、同じレオパルト1A5でも砲塔の形状が異なるものが混在していることになりますが、実のところ鋳造砲塔でも溶接砲塔でも防御力は大きく変わりません。ウクライナに送られるレオパルト1はこの最後期型のA5系となる予定です。
レオパルト1A5(鋳造砲塔+増加装甲板)
鋳造砲塔に増加装甲板を装着したレオパルト1A1A1からA5へ改修。なおA1A1はA1の細かい改修バージョンで、A1A1の時点で増加装甲板は付いています。増加装甲板は砲塔の防盾・側面・後部の全周に装着されているので角張って見えますが、中身の鋳造砲塔は丸みのある形状です。
レオパルト1A5DK(溶接砲塔)
レオパルト1A3またはA4からA5へ改修。砲塔側面の丸い部品は予備の転輪。A3/A4の溶接砲塔は中空装甲(2枚の鋼板の間に何も無い空間を設けた構造)が組み込まれています。
レオパルト1A5BE(鋳造砲塔)
レオパルト1A1からA5へ改修。ベルギーの軍需企業OIP社が退役した元ベルギー軍のレオパルト1A5BEを2014年に購入して大量の在庫を抱え込んでおり、これをベルギー政府が買い戻してウクライナに供与する交渉が続いています。ドイツ、オランダ、デンマークの取り組みとは別の動きになります。
ただし買戻しの価格交渉で揉めており、こちらの合意の見通しは立っていません。