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アフガン病院誤爆は「故意」?「国境なき医師団」の静かな怒り オバマ大統領は独立調査を受け入れるか

木村正人在英国際ジャーナリスト
米軍のアフガン病院空爆で被害を受けた人々(写真:ロイター/アフロ)

国際事実調査委員会が始動

アフガニスタン北部クンドゥズで国際医療支援団体「国境なき医師団(MSF)」の病院が誤爆され、3人の子供を含む患者、スタッフ計22人が死亡した問題で、スイス・ベルンの国際事実調査委員会(IHFFC)は、米国とアフガニスタンが同意すれば、今回の誤爆について調査を開始する。

今月3日、誤爆され、炎上する国境なき医師団の病院(MSF提供)
今月3日、誤爆され、炎上する国境なき医師団の病院(MSF提供)

同委員会は自らのイニシアチブで今月7日に両国政府に書簡を送った。当時国の同意がある場合に限り、調査を開始できる。オバマ米大統領は誤爆を認めて謝罪、事実関係の調査を約束している。アフガン政府と北大西洋条約機構(NATO)もそれぞれ調査を始めている。

医療施設や医療従事者への攻撃はジュネーブ諸条約で禁止されており、米軍やアフガン政府に病院の位置情報を通知していた国境なき医師団は「戦争犯罪の疑いがある」と主張している。オバマ政権が同委員会による独立調査を受け入れる可能性は皆無だろう。

同委員会は国際人道法の重大な違反を調査する唯一の常設機関。1991年に設立されたが、実働実績はない。15人の専門家で構成され、古谷修一早稲田大学法科大学院教授が副委員長を務める。任務は事実を確定し、結果と勧告を紛争当事者に伝えることに限られている。

「戦争にもルールがある」

国境なき医師団のジョアン・リュー会長は国際事実調査委員会による独立調査を呼びかけてきた。

「各国が『紳士協定』を隠れミノにし、それによって無法状態や責任逃れを生み出すことがあってはいけません。医療施設が爆撃され、医療従事者および患者が命を奪われても付随的被害としかみなされず、単なる過失で片付けられることなどあってはならないのです」

「このような私たちの反撃は、ジュネーブ諸条約の尊重のためです。医療に携わる者として、私たちの患者のために反撃に転じています。皆様にも、社会を構成する一員として、私たちとともに戦争にもルールがあるのだと声を上げていただきたいのです」

国際問題研究所で独立調査を求めるリュー会長(筆者撮影)
国際問題研究所で独立調査を求めるリュー会長(筆者撮影)

ロンドンにあるシンクタンク、国際問題研究所のチャタムハウス賞を受賞したリュー会長は記念講演で、アフリカでのエボラ出血熱の流行や中東諸国での紛争への対応で「国際的な政治のリーダーシップが深刻な真空状態に陥っている」ことに強い懸念を示した。

国境なき医師団は世界28カ所に拠点を持ち、3万5千人のスタッフを擁する。13億ドル(約1552億円)の年間予算の約9割は570万人の寄付によって支えられている。世界が国際統治を欠く中、国境なき医師団のような国際NGO(非政府組織)の役割が増している。

中東・北アフリカを中心に紛争が拡大、しかし米国や欧州連合(EU)による政治のリーダシップがないという矛盾の中で、国際的な人道支援につぎ込まれる予算は昨年末時点で実に170億ドル(約2兆円)にのぼっている。

リュー会長は厳しい表情を浮かべて、静かな公憤を口にした。「リスクについて私たちの組織は毎日自問しています。2~3年前にソマリアから撤退しました。シリアには撤退した地域もあります。私たちは犠牲になるために赴くのではありません。殉教者でもありません」

「クンドゥズの病院からも撤退しました。リスクについて語るとき、何が起きたのか、どのようにして起きたのかが分かるまで、私たちはクンドゥズに戻ることができません。それが、私たちが公平で独立した調査を求めている理由なのです」

オバマ大統領がリーダーシップを執れないのなら、せめて医師の背中から爆弾を撃ちこむのはやめてくれ、ジュネーブ諸条約で定められた戦争のルールぐらいは守れ、という静かな怒りがリュー会長の言葉からはにじみだしていた。

米軍は病院と知っていた?

米軍の説明は二転三転している。

病院を攻撃する数日前に米軍の特別作戦分析官が病院の情報を収集、アフガンの反政府武装勢力タリバンと協力するためパキスタンの工作員が病院を使っていたと思い込んでいた――と、AP通信は今月15日に伝えた。

分析官が収集した情報は、病院はタリバンの司令・コントロールセンターとして使われ、重火器が保管されている可能性を示唆していたという。しかし国境なき医師団は「スタッフの中にパキスタン人は1人もいない」「爆撃された病院には武装兵もおらず、空爆前に戦闘もなかった」と反論した。

事件当日の今月3日、アフガン駐留米軍の報道官は「近くにいた米部隊が攻撃を受けたため、空爆は要請された。空爆で近くの医療施設に付随的被害が出た可能性がある」と発表していた。アフガン内務省は「タリバンは病院の中や周辺にいた」と説明。しかしタリバンの報道官は「空爆時、タリバンは病院にはいなかった」と反論していた。

2日後の5日、アフガン駐留米軍のキャンベル司令官は国防総省で記者会見し、「アフガン治安部隊が敵陣から攻撃を受けており、米軍に航空支援を要請してきた」と軌道修正した。さらに「空爆はタリバンの脅威を排除するため要請され、それによって複数の民間人が偶発的に巻き添えになった」と付け加えた。

キャンベル司令官は6日、米上院軍事委員会の公聴会で「空爆の決断は、米軍の指揮系統の中で行われた。病院は間違って攻撃された。米国が国際法で守られている医療施設を意図的に標的にすることは絶対にあり得ない」と証言した。

翌7日、オバマ大統領がリュー会長に短い電話をかけ、責任を認めて謝罪、徹底した調査を行うことを約束した。10日には米国防総省の報道官が被害者に賠償する方針を表明し、早期の幕引きを図った。

アフガン治安部隊と米軍はクンドゥズをタリバンから奪還した。アフガンではタリバンだけでなく、過激派組織「イスラム国」の攻勢も強まる。オバマ大統領は来年末までに米部隊をアフガンから撤退させる計画だったが、現在の9800人態勢を維持したうえで、2017年以降も5500人を駐留させる方針を発表した。

しかし、リュー会長は「この攻撃の実態と実情は、独立性と公平性をもって調査されなければなりません。米国とアフガニスタンによる一貫しない説明をみれば、なおさらです。米軍、NATO軍、アフガニスタン軍の内部調査だけに頼るわけにはいきません」とまなじりを決する。

紛争地では救急医療が不可欠だ。しかし、スタッフを死地に赴かせるわけにはいかない。なぜ、米軍は病院を攻撃したのか。その理由とプロセスが明らかにならない限り、米軍が展開する紛争地に国境なき医師団はスタッフを派遣できなくなる。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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