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「対馬」の奪還を!? 保守の牙城・慶尚北道議会で野党議員が提唱!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
本会議を史上初めて竹島(韓国名:独島)で開いた慶尚北道議会(同議会HPから)

 慶尚北道の朴ヨンソン議員が一昨日(26日)、同議会の本会議で唐突に「対島の返還を主張しよう」と唱えたようだ。日韓の火種となっている竹島(韓国名:独島)について声を張り上げたならば分からないわけでもない。しかし、対馬は韓国人の愛唱歌「独島は我が領土」の歌詞にも明記されているように100%日本の領土である。

 朴議員は何を勘違いしているのか、対馬は「韓国固有の領土で、日本に奪われた土地」との前提で発言していた。

 日本が竹島を歴史的にも国際法的にも日本の固有の領土であると一貫して主張していることについても「日本が歴史を歪曲しながらも独島侵奪への野心を捨てられずにいる理由は大韓民国がいつか対馬の返還を主張することに備えた策略である」と主張し、こうした誤った認識の下、同僚議員に向かって「独島と対馬を明らかな韓国領土にするために『対馬失地回復国民運動』の火種を慶尚北道が率先して蘇らせ、釜山や慶尚南道など他の市・道と協力して領土守護共同協議体をつくろう」と呼びかけていた。

 また、元徴用工の問題についても間接的に触れ、「日本の戦犯企業は我が国民を強制動員した三菱、東芝など多いが、独島を日本の領土だと妄言を吐いて独島侵奪後援支援金を支給するすべての日本企業も当然、戦犯企業の範疇に入れるべきだ」と語気を強めていた。

 これほどの対日強硬論をぶち上げているわけだからおそらく文在寅政権を支える与党「共に民主党」所属議員だろうと思って調べてみたら、朴議員はなんと1965年の日韓請求権協定に基づき拠出された経済協力金で発展を遂げた浦項出身の、それも保守野党「国民の力」に所属し、朴槿恵前政権時代の与党「セヌリ党」慶尚北道のスポークスマン、同青年委員長を歴任した経歴の持ち主であった。

 慶尚北道は保守の牙城である。道議会には議員が72人いるが、このうち60人までもが「国民の力」所属議員である。また、慶尚北道選出国会議員(13人)は全員「国民の力」の議員である。

 道議会には領土問題を取り上げる独島守護特別委員会が設置されている。同委員会所属議員は7人で、委員長(朴判洙議員)は「国民の力」から選出されている。朴議員の過激な発言はここで飛び出したのではない。朴議員は教育委員会の委員で、独島守護特別委員会のメンバーでもない。

 同議会は一昨年6月に大韓民国臨時政府樹立100周年を記念して、史上初めて「独島」で本会議を開いていた。「セヌリ党」所属の知事も出席して開かれた本会議では日本に領有権主張を放棄するよう促す決議案が採択されていた。ちなみに知事は2月22日に島根県が条例で定めた「竹島の日」に記念式典を開催したことについて「毎年式典を開催していることや7年連続で内閣府政務官を派遣していることは独島侵奪を加速させていることに他ならない」と糾弾する声明を出していた。

 「独島」は韓国からすれば慶尚北道に帰属しているので慶尚北道議会がこの種のイベントを行うのはある意味では予想されたことではあるが、それにしても「対馬奪還に向けて国民運動を展開しよう」の朴議員の主張はパフォーマンスにしては度が過ぎる。

 日本では「文在寅政権である限り、日韓関係は良くならない」とか、「保守政権になればまともになるのでは」との声が聞こえるが、こと日本に対する対応は基本的には保守政権になっても変わることはなさそうだ。

 実際に、保守野党は大法院(最高裁)の徴用工訴訟判決の際には「日本は請求権協定に反するとして反発するが、我が国の国民情緒を考えず妄言を繰り返して関係をさらに悪化させている」と日本を非難しているし、2018年12月に発生した韓国海軍レーダー照射事件に関する日本側の対応についても「安倍晋三首相が急落する支持率の回復のため韓日間の摩擦を利用している」として、安倍首相に謝罪を求める論評を出していた。

 昨年末に韓国で開催予定の日中韓首脳会談開催のため文政権が日本に歩み寄る素振りを見せようとした際も「日本総理の訪韓イベントのため国格を棄損する裏取引は絶対に許せない親日行脚である」と断じ、「反人類的な罪を犯した日本企業に罪を償うようどなりつけることができないまでも賠償の素振りを見せ、税金でカバーしてあげるならば、李完用(日韓併合条約に調印した首相。韓国では親日派、売国奴の代名詞となっている)でさえ感服する屈辱である」と辛辣に批判したのも保守系議員である。

 攻守所を変えれば、保守野党もまた、現職大統領としては初めて竹島に上陸した李明博元大統領のように、また元慰安婦問題で徹底抗戦していた朴槿恵前大統領の時代に回帰するのではないだろうか。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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