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日本人メジャーリーガー的視点で考える八村塁とJBA&ホーバス代表HCの確執

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
八村塁選手はJBAと和解できるのだろうか?(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【渡邊雄太選手が事態収拾のため事情説明】

 八村塁選手が日本バスケットボール協会(JBA)およびトム・ホーバス代表HCに対する批判とも受け取られる発言を繰り返したことで、すっかり世間が賑わっている。

 遂には渡邊雄太選手が八村選手に了解をとった上で、中立的な立場からメディアの前で事情説明を行い、何とか事態を収拾する方向に向かわせようと頑張っているように見える。

 確かに今回の騒動は、渡邊選手が指摘するように「悪者は1人もいない」というのが実際のところだと思う。

 ただ彼が「(ホーバスHCの)発言を変な切り取り方をされた記事が出た」と説明したことで、メディアが事の発端のように受け取れてしまうと感じたのは自分だけではなかったと思う。

 メディアによって本当に変な切り取られ方をされていたのだろうか。そして今回の騒動の本質的な部分は、違ったところにあるように思えるのだが…。

【当時から関心を集めていたホーバスHCの発言】

 資金力もなく後ろ盾のない自分のようなスポーツライターがバスケの国際大会を取材できるはずもなく、これまでホーバスHCの取材はオンライン会見に参加させてもらった程度だ。

 それでも大事な試合は必ずチェックしており、パリ五輪出場を決めた昨年のW杯も全試合観戦していたし、ホーバスHCの発言も逐一耳を傾けていた。その中で渡邊選手が変な切り取り方をされたと指摘するホーバスHCの発言を聞き、正直にいって危うい発言と感じていた。

 実際彼の発言は注目されることになり、大々的にメディアで報じられている。ホーバスHC発言の真意はともかくにしても、やはりメディアにそう受け取られても仕方がない内容だったと今も考えている。

 だからこそJBAは急きょホーバスHCの補足コメントを発表し、事態の収拾に乗り出そうとしたはずだ。

【ホーバスHCが英語で補足コメントを発表した意味】

 ご記憶の方も多いと思うが、その際発表された補足コメントは日本語と英語の両方が併記されていた。日本語版は「参照用」となっていたので、英語文をホーバスHCが自ら作成し、それをJBAが翻訳を行ったものだったのだろう。

 JBAとホーバスHCがそのようなかたちで補足コメントを発表したのは、補足コメントでも説明しているように、日本人を妻に持ち日常会話なら日本語で対応できる同HCでも、難しいニュアンス、自分の真意を正しく表現することが困難だと考えたからに他ならない。

 ホーバスHCに限ったことではなく、母国語以外の言語を使って自分の真意を伝えるのは本当に難しい作業だ。あくまで私見ではあるが、もしJBAが真剣に問題再発を防ごうと取り組んでいたのなら、記者会見等の公の場で通訳をつける措置を講じていただろう。だが実際のホーバスHCは、今も通訳無しでメディア対応し続けている。

【ダルビッシュ投手が公の場で今も通訳をつけるワケ】

 MLBの取材現場に目を転じてほしい。そして機会があるのであれば、ぜひダルビッシュ有投手の記者会見動画をチェックしてほしい。

 今年でMLB13年目のシーズンを過ごしたダルビッシュ投手は、当然のごとく日常会話レベルの英語なら何の不安もなくこなせている。それを裏づけるように、記者会見上で米メディアから英語の質問をされても、通訳から質問内容を確認することもなく即座に質問に回答している。

 だがダルビッシュ投手は必ず日本語で回答し、それを通訳から英語で伝えるという形式をとり続けている。なぜかといえば、自分の真意をしっかり伝えるべく、ネイティブレベルの英語を扱える通訳に頼んだ方が、齟齬が発生しにくいからだ。

 長年MLB取材を経験してきた中で、メディア対応を自分でしていた選手は数えるほどしかない。マイナーから這い上がってきたマック鈴木投手や大家友和投手は別として、NPBを経由してMLBに挑戦してきた選手たちの中で自らメディア対応していたのは、長谷川滋利投手と田口壮選手くらいだったと記憶している。

 MLB日本人選手の草分け的存在である野茂英雄投手にしても、1999年にブルワーズに移籍して以降は専属通訳をつけていなかったものの、登板後に実施されていたメディア対応の場では必ずチームに通訳派遣を依頼していた。もちろん野茂投手も、チーム内でのやりとりならまったく問題ない英語レベルであったにもかかわらずだ。

 それだけ彼らは公の場において英語で発言することに、慎重を期していたのだ。ホーバスHCに対しても通訳がついていれば、自分の意思、真意を不安なく母国語で説明してきていたはずだ。

【「悪者は1人もいない」のままで問題解決は困難】

 また多少疑問を抱いているのは、JBAが発表した補足コメントが誰を対象にしていたかだ。タイミング、内容を含めメディア向けだったように感じてしまうのだが、本当に伝えるべき相手は当事者である八村選手だったはずだ。

 ホーバスHCの発言が騒ぎになったすぐ後に、JBAから八村選手にきちんと事情説明を行い、今後の対策を凝議できていたとしたならば、果たしてここまでの騒動になっていただろうか。

 渡邊選手の説明では、八村選手のエージェントが連絡を遮断していたようだが、JBAが現地に乗り込んで練習施設に足を運ぶなどしていれば、話し合う場を創出できていたように思う。それこそが、八村選手が発言している「選手ファースト」であり、JBAが八村選手に示すべき誠意ではなかっただろうか。

 渡邊選手を責めるつもりは毛頭ないが、「悪者は1人もいない」という状況が続けば、多分問題は解決しないだろう。解決を模索するのは渡邊選手ではなく、間違いなくJBAのはずだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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