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習近平の武漢訪問で、新型コロナの真実を隠蔽?庶民が告発記事を読めたワケは?

宮崎紀秀ジャーナリスト
習主席の武漢訪問を大々的に報じる国営メディア(2020年3月10日北京)(写真:ロイター/アフロ)

 習近平国家主席は10日、新型コロナウイルスの感染拡大以降、初めて武漢を視察した。この日「悲劇は防げたはず」と告発する、武漢の現役医師のインタビュー記事が、ネット上から削除された。

習近平は武漢で医師らを讃えたが...

 習近平主席は10日、「震源地」である湖北省の武漢を、感染が拡大して以来、初めて視察した。感染を封じ込めつつあるとして、防疫対策の成果をアピールする意味があった。

 その中で、医療従事者を「希望の使者であり、真の英雄」などと讃えた。

 しかし、同日に発表された、最前線の医師のインタビュー記事の原文と、それを転載した記事などが、わずか3時間でネット上から削除されたという。

削除された告発医師の記事

 その記事とは、武漢市中心医院の救急科主任、艾芬医師のインタビューを元にした内容。

 彼女は、去年12月30日の段階で、感染症の発生に気づき、グループチャットで同僚らに警告した。しかし、上司からは専門家がデマを流したと叱責され、「これまで経験したことのないような厳しい訓戒処分」を受けてしまった。

 インタビューからは、彼女がとても落ち込んだ様子が伝わる。

 さらに、武漢市の衛生委員会の通知として、情報を口外しないよう口止めされた。

「原因不明の肺炎について、勝手に外部に公表して、大衆にパニックを引き起こさないように。もし情報漏洩によってパニックが起きたら、責任を問う」

夫や子にも言えず...

 彼女がグループチャットで発した情報を転送した同僚の医師ら合わせて8人が処罰された。その中には、勇気ある告発者として国内外で知られた後、2月7日に35歳で亡くなった眼科医、李文亮医師も含まれる。

 口止めされた艾芬医師は、家族にも真実を言えなかった。夫や子供に対し、人の多い所には行かないよう、外出する時はマスクをするよう注意する、などしか術がなかった。

 病院の中でも同様だった。ある医師は、外側に防護服を着るべきだと提案したが、病院は、防護服はパニックを引き起こすとして認めなかった。彼女は部下である救急科の医師には、白衣の下に防護服を着用するよう求めた。全く理にかなっていなかった。

悲劇は防げたはず

 彼女の勤務する武漢市中心医院では、これまでに、李文亮医師を含む医療関係者4人が死亡し、200人以上が感染確認されたという。

 同僚の死さえ目の当たりにした艾芬医師は、後悔の念を述べている。

「もし1月1日に皆が用心できていれば、このような多くの悲劇はおきなかった」

削除されないよう記事を漫画に「翻訳」して転送(写真はSNSより)
削除されないよう記事を漫画に「翻訳」して転送(写真はSNSより)

当局の検閲に庶民が採った手段は?

 削除されたのは、このような内容の記事だった。しかし、中国の庶民も黙ってはいなかった。検閲を逃れるために、元の文章あるいは文字の一部を、他の言語や絵文字、暗号などに置き換えて転送した。甲骨文字版もあるというし、漫画版もある。国民の生死がかかっている事態にあっても、真実を隠蔽しようとする当局の宣伝工作に対し、一矢を報いた形だ。

 そうやって当局の手を逃れ、人々が艾芬医師の言葉を共有している。

「立ち上がって本当の話をする人がいるべきだ。この世界には、多様な声があるべきだ」

艾芬医師の記事が様々に「翻訳」され共有されている(写真はSNSより)
艾芬医師の記事が様々に「翻訳」され共有されている(写真はSNSより)
ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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