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常夏ハワイに「暴風雪警報」、ホノルルは干天の慈雨

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
NWSの警報の画像に筆者加筆 (現地時間12月3日)

不似合いなことの例えとして「法師の戦話(ほうしのいくさばなし)」という諺がありますが、「ハワイの暴風雪」もまた、同様に似合わない組み合わせと言えるでしょう。しかしこの奇妙に見える現象が、いま起きています。

現在ハワイには「ブリザード警報」、いわゆる「暴風雪警報」が発令されています。対象の地域は、ハワイ島のマウナケア山とマウナロア山の標高4,000メートル以上の高地です。

警報の詳細には、以下のような内容が書かれてあります。

・期間: 3日(金)18時~5日(日)6時

・雪の量:30センチ以上

・風の強さ:秒速45メートル以上

・影響:吹雪で視界が全く利かなくなる。不要不急の通行を避けること。もしどうしても行くのであれば非常袋を持参すること。さまよったら車中に留まること。

(↑2日の様子。マウナケア山ではすでに積雪。)

暴風雪警報とは…

アメリカの暴風雪警報の定義には、雪の量の規定は特にありません。むしろ強風がキーで、雪と強風によって視界が400メートル未満の状態が3時間以上続くことを指します。

常夏とはいえ、富士山よりも高い山を持つハワイでは、年に数回雪が降ることがあります。そんな時は、スキー板やスノーボードを持って山に向かう人々もいます。

とはいえ、暴風雪警報はあまり見かけません。ウェザーチャンネルによると、その頻度は10年間に5回ほどのようです。

原因「コナ・ストーム」

この悪天をもたらしているのが「コナ・ストーム」とも呼ばれる寒冷前線の通過です。

コナ・ストームは、冷たい空気を伴って、たいていハワイの北西から接近し、長い期間にわたって悪天を引き起こすことがあります。主に冬の間に出現することが多く、平均で年に2~3回ほど現れては、大雨、山雪、強風、雹や水上竜巻などを発生させます。

また風向きも変わるので、ホノルルなど普段は雨の降らない楽園でも大雨が降ります。湿度も高くなって、ムワッとした空気に包まれるのです。

現地時間4日の予想天気図 (NWS出典の画像に筆者加筆)
現地時間4日の予想天気図 (NWS出典の画像に筆者加筆)

平地では「干天の慈雨」

このコナ・ストームの影響で、ホノルルなど平野部には洪水警報や大雨注意報などが出されており、来週にかけて大雨が降る予想です。

ただ恵みの雨の要素もありそうです。というのも、昨月ホノルルには2ミリしか雨が降っていません。11月の月間降水量の平均は約60ミリですから、30分の1の量でした。

さらに元旦から数えても、258ミリしか降っていません。平年の同時期と比べ3分の2ほどに留まっています。

ハワイと山火事

ハワイの干ばつの状況 (出典: Drought Monitor)
ハワイの干ばつの状況 (出典: Drought Monitor)

ハワイでは全体の57%の地域で干ばつが起きています(2日時点)。このため今年は例年になく大きな山火事がたびたび起きています。

とくにハワイ島では、今年の夏に島の観測史上最悪ともいわれる160平方キロを焼く山火事が発生しました。近年ハワイは雨が減少傾向にあって、山火事のリスクも高まっています。枯れたサトウキビなども、火を拡大する要因になるといいます。

「楽園ハワイに山火事」という一見不釣り合いな組み合わせも、これからは度々耳にすることになるかもしれません。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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