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ギリシャで空前絶後の早すぎる熱波 行方不明になる観光客

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
暑さで一時閉鎖されたギリシャ・アクロポリス遺跡 (12日)(写真:ロイター/アフロ)

「太陽の国」ギリシャが、かつてない早さの熱波に襲われています。ギリシャの「熱波」の定義は、38度以上の気温が3日以上続いた時とされますが、今年はそうした日がすでに続いています。

たとえば首都アテネの気温は、11日(火)に39.8度に達し、12日(水)は40.2度、その翌日もまたその翌日も38度を上回りました。恐ろしいのは夜の暑さで、深夜でも気温が30度を下回りません。

国営テレビのパノス・ギアノプロス氏は、「この熱波は歴史に残るだろう。熱波が6月19日以前に発生したことは、20世紀には一度もなかった。今世紀に入ってからは何回かあったが、それでも6月15日以前に起こったことは一度もなかった」と語っています。

人気の観光スポットであるアクロポリスの丘は、この暑さのため、正午から17時までの一般公開を一時的に中止しました。

アクロポリスの丘に建つパルテノン神殿。一日に2万3千人もの人たちが訪れるという。
アクロポリスの丘に建つパルテノン神殿。一日に2万3千人もの人たちが訪れるという。写真:アフロ

行方不明になる観光客

いま酷暑のギリシャに訪れた観光客に対し、暑さに気を付けるよう緊急警告が出されています。実は、このところ観光客が行方不明になり、遺体で見つかるという悲しい出来事が立て続けに起きているのです。これまでに4人の観光客が亡くなっています。

“週2回の断食ダイエット”を提唱したマイケル・モズリー博士(67)もその1人で、ギリシャのシミ島に出かけたまま姿を消し、数日後に遺体で発見されました。

ご夫人によると、モズリー博士は道を間違え、捜索隊の目につきにくい場所で倒れていたそうです。その道には岩が散らばり、暑さを遮るものもなかったといいます。

また、エーゲ海に浮かぶクレタ島では、オランダ人(67歳)とフランス人観光客(70歳)を含む3人が暑さに倒れ、命を落としています。同島では13日(木)、気温が44.5度まで上がり、観測史上一位の高温となりました。

現在でもアメリカ人2人とオランダ人1人の行方が分かっていないと報じられています。そのうち2人はハイキングに出かけた後に、消息を絶ったそうです。

せっかく遠路はるばる旅行に来たのだからと、いつもなら暑いから我慢しておくところを、頑張ってしまう気持ちは正直分かります。そうした心情も働きますから、観光客にはなおのこと、高温のリスクを十分すぎるほど伝えることが必要です。

クレタ島ハニア。13日には前代未聞の44.5度まで気温が上がった。
クレタ島ハニア。13日には前代未聞の44.5度まで気温が上がった。写真:アフロ

観光客と熱中症

ギリシャ国立銀行によると、今年上半期にギリシャを訪れた旅行者は1年前と比べて約25%増加していたそうです。

これは日本の今の状況と重なるようです。日本に訪れた外国人旅行客の数は3月、4月共にそれぞれ300万人を超え、空前絶後の観光ブームが起きています。

日本でもすでに各地で真夏日、ところによっては猛暑日となるなど、尋常でない暑さが始まっています。今年の夏はラニーニャ現象も相まって、記録的な暑さとなることも見込まれていますから、外国人旅行者に対する注意喚起が、これまで以上に必要です。

もし、ぐったりしている人や無理をしている旅行者を見かけたら、声をかけてあげることも「おもてなし」の一つかと思います。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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