預金はほぼゼロ 長年連れ添った夫に、なぜ妻は亡くなるまで旧統一教会の信者であることを告げなかったのか
8月27日に、全国統一教会被害対策弁護団は司法記者クラブで会見を行い、村越進団長は、第三次集団調停の申し立てを裁判所に行ったことを話します。
「すでに第一次、二次の集団調停が行われており、三次を合わせての申立件数は161件、被害者の数は171名、被害総額請求金総額は52億1532万円となりました」
「これだけ続々に被害を訴えて、賠償を求める方が出て、裁判所に申し立てをしているわけですから、(旧統一教会は)被害者に真摯に向き合って速やかに賠償に応じるべきです。これは被害者の願いだと思います。裁判所のご理解もいただいて、解決に向けての取組みを加速させていきたい」(村越団長)
宗教2世に対して、どのような法的責任を負うのか
今回の集団調停には、旧統一教会の2世の方が2名参加していますが、どのような法的責任を教団側が負うのかについて、阿部克臣弁護士から詳しく説明がありました。
「宗教法人というのは、信者に対して生命、身体、財産、信教の自由などの権利を守るべき配慮義務を負うとしています。(不当寄附勧誘防止法3条2項)この配慮義務というのは7月11日の最高裁の判決でも、宗教団体の信者が寄附の勧誘を行うに際しても、配慮義務を負うということが認められております。当然に、信者の家族である子どもに対しても配慮義務を負うことになります。そういう配慮義務を怠って過度の高額献金や信仰活動を行わせたことにより、2世の方は信教の自由や婚姻の自由などの精神的自由を侵害されています。十分な養育を受けられなかった被害についても、教団は使用者責任に基づき、賠償する責任があります」
旧統一教会による深刻な高額献金などの被害実態が明らかになり、国会では不当寄附勧誘防止法が制定されました。その法律の一部を取り入れた形での最高裁の判決があり、そのなかで宗教2世らが勇気を持って声をあげたことで、被害救済への道もひらかれてきています。
すべては、甚大な被害を生みだした旧統一教会への国民の厳しい目と関心が国を動かし、多くの人を救済できるような司法判断の流れを作ったといえます。
亡くなるまで、奥さんが旧統一教会の信者であることを知らなかった
今回の会見には、集団調停に参加している田中さん(仮名・80代男性)からも話もありました。川井康雄弁護士によると「ご本人が信者だったのではなく、亡くなられた奥様が信者であり、被害総額が9000万円以上になっている」といいます。
驚くことに、田中さんは奥さんが亡くなるまで、旧統一教会の信者であることを知らなかったといいます。
「私は統一教会とは全く関係がないにかかわらず、妻が信者だったために、知らないうちに被害者になりました。誠に情けなく、残念至極の気持ちでいっぱいです」
「私は25歳で結婚して60歳で定年退職を迎えるまでの間、35年間、自分の給与については、毎月決まった小遣い分を差し引いて、残りはすべて家内に手渡していました。退職金についても4分の1を手元に残して、あとは妻に渡してきました。ところが妻が亡くなって、生前使用していたクローゼットを開けて、預金関係を調べてみたところ、びっくりすることに、預金額はゼロに近いものになっていました」
そして、おびただしい数の旧統一教会の書籍やグッズ、壺が出てきたといいます。
体から力が抜けていくのを感じました
それを見た田中さんは「体から力が抜けていくのを感じました。腰が抜けるというのは、こういう状態なのかを、生まれて初めて体験しました。しばらくは立ち上がることができませんでした。しかし、嘆いているだけではしょうがないということで、弁護団の先生にお願いをしまして、今日を迎えている」といいます。
記者からの質問を受けて、田中さんが教団による被害に気づいたのは、令和5年(2023年)頃だと答えています。ただし妻の入信した時がいつなのかは、はっきりしないそうです。
しかし元信者の目線からはある程度、推察できます。
田中さんの奥さんは、おそらく相当な高額献金をしたからでしょう。旧統一教会の大塚克己会長の名でのメダルが贈呈されています。この人物は2回、会長をしていますが、最後は2008年まで務めていますので、奥さんの信者としての活動開始年を2008年としても、15年という長い信仰歴を持つ信者だったことが推察されます。
もし信者を辞めていれば、「預金額はゼロに近いもの」になることはないので、おそらく献金などをし続けていたために、そうなったと思われます。何より脱会をすれば、少なからず旦那さんに話をしたでしょうから、それをしていないことを考えれば、亡くなられる頃まで信者であった可能性が高いと思っています。
なぜ奥さんは、旧統一教会の信者であることを告げなかったのか
長年連れ添った夫に、なぜ奥さんは亡くなるまで旧統一教会の信者であることを話さなかったのでしょうか。それは教団側の指示によるものだと考えています。家族に信者であるかどうかを告げるのは、本人の意志ではなく、教団の意向によることが一般的だからです。
私が旧統一教会の教義を信じ始めて間もない頃、統一教会に入っていることを、自らの判断で上京してきた親に告げたことがあります。しかし当時のアベル(教団の上司)からは「神側からの指示がないにもかかわらず、自分勝手に信者であることを告げた」と叱責されました。
その後、親からの強烈な反対を受けましたが「神様が願わない、時ならぬ時に、教会をあかしたから、サタンが入った」とまでいわれました。このように、自らの判断で信者であることを告げてはならないのです。それはサタン的行為としてとがめられることになります。
数年後、私は深い信仰を持って、献身(出家)することになりました。それまで教団からの指示で「信者を辞めた」と親に嘘をついて信仰を続けていましたが、教団から突然、家に帰り、家族に信者であることを告げるようにいわれました。その時のタイミングも、当時のアベルから指示されています。
奥さんは、長きにわたり、田中さんには何も告げず、多額の献金や物品を購入して旧統一教会の信仰をし続けていましたが、この背後に教団の指示があったと考えるのが自然です。
それにしても、信じていた奥さんに裏切られた田中さんのショックは、どれほど大きいものだったでしょうか。信者であることを隠して、奥さんに高額献金や物品の購入などをさせてきた、教団の責任は極めて重いといえます。
被害者らは、どのようなものを購入してきたのか?
被害者はどのようなものを購入してきたのでしょうか。中森麻由子弁護士は写真のパネルを出して説明をします。
「聖本は3000万円の献金が必要であるとされています。多宝塔3つございますけれども、一番高くて7000万円ということになっております。(左から2つ目は)阿弥陀如来像です」
この他にも、数千万円もする高麗壺などもあるそうです。
誠意を持って対応し謝罪を示すように、被害者として強く求める
田中さんの奥さんもそうですが、信者らは本当に様々な高額な商品を買わされています。
これは、万物復帰(この世のもの『お金』をサタン世界から神様のもとに取り戻さなければならない)という教義をもとに、信者は教団の側の商品を様々に購入させられます。さらに、神側(教団側)の商品を買うことで、霊界で苦しむ先祖の霊が救われるとも教えられます。そのために、身の丈を超えるようなお金を出して、高額な商品を買わなければならなくなります。
おそらく奥さんも、教団から「家族が幸せになるために、先祖の因縁を解かなければならない」といわれて、物品を購入していることでしょう。しかし現実はどうでしょうか。家族である田中さんは幸せになるどころか、多額のお金を失い、妻の裏切りともいえる状況を前に、苦しみを背負っています。
最後に、田中さんは「統一教会について、一言申し上げたい」と切り出します。
「統一教会は宗教団体ですから、通常からすれば社会に善を提供することが期待されるところです。しかしそれに反して、多くの人を財産的困窮に追いやる事態を招来しております。このような団体が、今のままの状態で社会に存在し続けることは許されて良いのでしょうか。宗教団体としての良心を持ち合わせているのであれば、それに照らして、被害者の損害賠償請求に誠意を持って対応し謝罪をするように、被害者として強く求めます」
生活に困窮するほどの高額献金や物品購入は、家族にも大きな苦しみを背負わせています。その事実に、旧統一教会のすべての信者がしっかりと向き合わなければなりません。