投球データから読み解く前田健太が復帰登板で掴んだ確かな手応え
【2021年8月17日以来の勝利を飾った前田投手】
すでに各所で報じられているように、ツインズの前田健太投手が現地時間6月23日のタイガース戦に登板し、5回を投げ3安打無失点8奪三振の好投で、今シーズン初勝利を飾った。
2021年のシーズン途中に右ヒジ内側粗服靱帯を断裂し、いわゆるトミージョン手術を余儀なくされた前田投手。約1年半のリハビリを経て今シーズン開幕から戦列復帰を果たしていたが、4試合に登板し0勝4敗、防御率9.00という厳しいスタートを切り、右腕三頭筋の違和感で4月28日に負傷者リスト(IL)入りを余儀なくされていた。
その復帰登板で勝利を飾った前田投手にとって、2021年8月17日のレイズ戦以来の勝利となった。
日本メディアの報道によれば、久々の勝利後に「先発ピッチャーとして勝つ瞬間というのが何ものにも代えがたい一番嬉しい瞬間ですし、リハビリ期間とか、勝てない時期とか、すべてが報われたというか、すごく気持ちが楽になりました」と、安堵の言葉を口にしている。
【復帰登板で掴んだ開幕当初にはなかった手応え】
今回の勝利により開幕4試合で見せた不安定な投球内容を払拭するとともに、完全復活に向け本格的なスタートラインに立った感があるように感じる。
今シーズン限りで2016年1月にドジャースと結んだ8年契約が満了するため、今シーズンの成績が前田投手の将来を大きく左右するだけに、本人としても残りシーズンでの快進撃を期しているのではないだろうか。
そして前田投手自身は以下のような言葉を口にし、今回の復帰登板にある程度の手応えを掴んでいるようだ。
「内容的にも、自分の投げている感覚的にも、ILに入る前よりもすごく良くなって戻ることができた」
【投球データでも確認できる前田投手の変化】
前田投手が感じた手応えは単純に感覚的なものではなく、実は投球データからも明確に確認することができる。
そこで開幕4試合とタイガース戦の投球データを比較する表をまとめてみた。以下に掲載するので、まずはチェックしてほしい。
如何だろう。まず大きな変化として、フォーシームの平均球速が上昇しているのが理解できるだろう。
多分ご記憶の方もおられると思うが、開幕4試合で結果が残せていなかった時点で、前田投手のフォーシームの球速が手術前より低下していると危惧されていた。
確かに選手の各種データを紹介しているMLB公式サイト「savant」をチェックしても、2016~2021年のシーズンごとのフォーシームの平均球速は、最低でも2021年の90.6mphを計測していた。
つまり開幕4試合は明らかな球威不足だったのだが、タイガース戦ではほぼ手術前の状態まで戻すことができたというわけだ。
【回転率の上昇でスライダー、カーブに更なるキレが】
次に回転率に注目して欲しい。
回転率が高い方が理想的だとされるフォーシーム、スライダー、カーブに関しては開幕4試合より回転率が上昇している一方で、ボールを抜くように投げるスプリッターとシンカーは逆に回転率が下がっているのが分かる。
しかもスライダー、カーブ、スプリッターは、平均球速が下がっているのだ。なぜこうした現象になるのかと言えば、ボールをしっかり操れていることで速球、変化球ともにキレが増しているからに他ならない。
つまりタイガース戦における前田投手は手術前に近い投球フォーム(リリースポイント)で投げられるようになり、速い球をより速く、変化球をより変化させられていたというわけだ。
【トミージョン手術からの復帰は時間と根気を要する】
約2ヶ月ぶりの復帰登板は、前田投手にとって2度目のシーズン開幕だと考えて良いだろう。ここから投球を重ねながら、さらに状態が上がっていくことが期待される。
だがトミージョン手術から復帰するのは、時間と根気が必要とされている。これまで何人かの手術経験者から話を聞かせてもらっても、戦列復帰した後もしばらくの間は、ヒジの状態は上がったり、下がったりを繰り返すという。
また手術箇所とは直接関係はないものの、今回前田投手がIL入りする原因となった三頭筋の違和感など、予想外のアクシデントが発生することもトミージョン手術の典型例だ。
しかも前田投手の場合、まだ症例の少ないじん帯移植とじん帯補強(インターナル・ブレース術式)を同時に行っており、その分だけ予期せぬアクシデントが生じる可能性を否定できない。
残りシーズンもコンディション的に難しい面が続くとは思うが、タイガース戦のような投球データと同様の投球を続けられれば、前田投手は納得するかたちでシーズンを終えることができると期待して止まない。