韓国で新型コロナ感染者が過去最高…「無症状でも無料検査」導入や軍投入で総力戦、現場は疲弊も
新型コロナウイルス感染症の感染拡大が止まらない韓国。新規確診者(検査を受けて陽性と判定された者を韓国ではこう呼ぶ)のうち最大で40%が無症状と言われる中で、新たなPCR検査の拡大方針を示したが、現場での疲労も高まっている。韓国メディアの報道をまとめた。
●拡散への「先制攻撃」…無料コロナ検査
13日午前、韓国のコロナ対策の司令塔・疾病管理庁は12日の新型コロナウイルス新規確診者が1030人(国内1002人、海外入国28人)に達したと発表した。
日に1000人を超えたのは今年1月に一人目の確診者が見つかって以降はじめて。人口比で換算し日本に置き換えると2500人となり、両国は感染者数では似たような状況だ。
韓国の感染拡大状況において特記すべき部分は二つある。
一つ目は「社会的距離の確保」戦略の効きが悪いことだ。韓国では過去、感染者が増える度に引き締めを図ることで、一定期間後に感染者数を減らす成果を挙げてきた。
だが、11月24日にレベルを「2(5段階中の3段階目)」に引き上げたのにもかかわらず、今なお患者は増え続けている。そして今月8日からはレベルを「2.5(同4段階目)」に引き上げた。政府はこの効果は早くても15日以降に表れるとしている。
二つ目は、無症状の感染者が増えていることだ。今月10日、中央防疫対策本部では「無症状の感染が、確診者のうち40%程度まで存在すると把握している」と明かした。これは感染源を追えない点とも関わっている。
同本部は12日、11月29日から12月12日0時までの確診者8423人を分析した結果、20.3%にあたる1711名の感染経路が不明であるとした。これは10%前半台を維持していた11月中旬から大幅に増えている数値だ。この理由について疾病管理庁では「新型コロナの流行が9か月以上続く中、無症状、軽症患者が地域社会に累積されていて、伝播力がとても高い」と分析している。
こんな状況の中、政府は今月8日、疫学的な関連性(感染者への濃厚接触など)や症状の有無にかかわらず、誰でも無料で新型コロナ検査を受けられるようにする方針を発表した。ターゲットは特に活動が活発で無症状の可能性がある首都圏(ソウル市、京畿道[キョンギド]、仁川[インチョン]市)の20代から50代までの層だ。
しかしこんな防疫当局の発表とは異なり、検査を担当する第一線の保健所などでは市民が無料検査を受けられない状況が続いていたと、12日まで韓国メディアが相次いで報じた。政府は体制に不備があったとし、改めて今月14日から1月3日までの3週間を「首都圏集中検査期間」とすることを明かした。首都圏に150の臨時選抜検査所を設置し、週末も休みなく朝9時から夜6時まで運営する。
●現場に溜まる疲労
こんな政府の対策と裏腹に、医療や防疫対策の現場では疲労とストレスが高まっている。
『聯合ニュース』は11日、医療陣の疲労を取り上げる記事の中で、国立ソウル大病院の新型コロナ重症患者治療病棟(DICU)で勤務するイ・ウンジュン首看護師(看護師の責任者)の「いつ終わるともしれない状況の中で、全ての医療陣が疲れている。私たちがやらなければならない仕事だから淡々と行っている」という声を伝えた。同大では最近一週間のうち、人工心肺装置(ECMO)を装着した患者が10人も増えたという。
また、有名私大病院の一つ、高麗大安岩病院のソン・ジャンウク感染内科教授による「新型コロナの状況が1年間続き皆が苦しい中で患者が急増し、全員が『燃え尽き症候群』だ」、「臨床医師は患者だけ診るのではなく、院内での確診者の発生や流入など感染管理を並行しなければならないため、より苦労が多い」との発言を報じた。
政府の防疫活動を支える疫学調査官の状況も深刻だ。疫学調査官は感染者の動線を調査し、接触者を把握すると共に、検査や自宅隔離を指示する役割を持っている。
やはり『聯合ニュース』は13日、人口1300万人を抱える京畿道で、疫学調査官の数は157人に過ぎず京畿道の31の市郡のうち8か所では疫学調査官が存在しないとした上で、「疫学調査官のうち、新型コロナ感染初期から勤務した者たちは8月から9月にかけての第二次流行の時に『燃え尽き症候群』となったが、最近の第三次流行を受け、極度の疲労を訴えている」と伝えた。
疫学調査官は集団感染が起きた施設に投入される場合、汚染・清潔施設の分離、危険地域の指定、確診者の動線把握、接触者の分類などのために、保護服を着たまま6時間連続して勤務しなければならず、トイレに行く回数を減らすため水も飲まないという。
また、具体的な証言として4月から疫学調査官を務めるキム某氏の声をこう伝えている。「(コロナが始まって以降)今まで家で食事をしたことがない。特に最近は家族が寝ている時間に家に帰り、服だけ着替えてまた出勤している」、「皆が大変で疲れているが、責任感ひとつでなんとか耐えている」。
同紙は人口約350万人の釜山市でも疫学調査官がわずか12人しかいないとした上で、「初の確診者が出た2月21日から10か月近く休めず働いている」、「第一線の保健所の職員も過度の業務に疲れ、病気休暇を願い出たり休職する者も多い」という現場の様子を伝えた。
さらに自宅隔離を命じる際にこれを嫌がる市民から暴言を吐かれるなどストレスが多く士気が下がっているとし、「公務員の身分に転換することで待遇を改善し、交替で勤務できる人材を養成すべき」という声を報じた。
なお、疫学調査官の8割が情緒的な「脱尽(気力が尽きること)」状態にあるというソウル大の調査もある。
●「K−防疫」の正念場
このような状況を受け、政府は今年3月の大邱(テグ)市での第一次大流行の時と同じように、総力戦で臨んでいる。
7日、文在寅大統領は「公務員、軍、警察など可能な人力を今週から疫学調査支援業務に投入するよう」指示を出した。これを受け11日、軍、警察、公務員修習生など800人が首都圏に派遣されることとなった。ここには、陸軍特殊戦司令部の下士(軍曹)以上の362人も含まれている。
政府はコロナ対策の「社会的距離の確保」を最大レベルの3(5段階中の5段階目)に引き上げる可能性も示唆している。
そうなった場合、保育園や学校は必要最低限の保育を除きオンラインに切り替わり、職場でも同様に在宅ワークを勧告する。博物館や図書館など公共の施設の運営も中断となる。韓国のメディアでは「準シャットダウン」と表現するが、スーパーやコンビニなどは時間を制限し運営される。韓国銀行は10日のレポートでレベル3になる場合、民間の消費が17%減少すると推算している。
公共医療機関もフル回転している。『YTN』は13日、ソウル中央報勲病院が新型コロナ患者用の病棟を作るため、脳梗塞で入院していた患者をはじめ110人を退院させたと混乱する患者や保護者の声を伝えた。
同時に、「医療現場からは、今春の第一次流行時から政府に対し『コロナ専門の病院を作るべき』と進言したが、政府は何の措置もしてこなかった」と指摘した。
実は前出の疫学調査官の増員や病床の確保といった点は、新型コロナ感染症が拡散して以降、ずっと指摘されてきた点だ。これを受け入れなかった韓国政府への批判は避けられないだろう。
韓国政府の新型コロナ対策はこれまで、▲迅速な情報公開と透明性のある民主的な対策、▲市民の自発的な参加、▲ICT技術の結合、という要素を持って国際的に評価されてきたし、政府みずからも「K-防疫」として世界に誇ってきた。
こうした原則は未だ有効と言えるが、医療陣の疲労や市民の自粛に対する疲弊などもあり難しい局面に差し掛かっているのが現実だ。
韓国政府はすでに「欠かせない外出を除いては年末年始の全ての集まりと約束を取り消すよう」求めているが、市民の協力と同時に、よりしっかりとした政府の対応が求められている。