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ハリルジャパンも参考にできる! バルセロナのセットプレー戦術の秘密

清水英斗サッカーライター

6日に行われたチャンピオンズリーグ準決勝の第1戦、バルセロナ対バイエルン・ミュンヘンは、3-0でホームのバルセロナが快勝した。

バイエルンにとっては、負けたこと以上に、アウェーゴールを1点も奪えなかったショックが大きい。決勝に進むためには、第2戦で少なくとも3点を奪い、なおかつ、今季チャンピオンズリーグで無得点試合がひとつもないバルセロナのアウェーゴールを封じるという、あまりにも困難なタスクに挑まなければならない。

バイエルンが欧州を制覇した2年前の2012―13シーズンも、準決勝で対戦した両クラブだが、当時はバイエルンが第1戦を3-0で制し、第2戦も4-0。合計7-0でバルセロナを下している。奇しくも今回、同じスコアで第1戦に敗れたバイエルンは、2年前のリベンジを果たされる可能性も出てきた。

なぜ、バイエルンはアウェーゴールを1点も奪えなかったのか?

2年前に挙げた7得点の内訳は、ロッベンが仕掛けた2発、サイドからのクロスで3発、コーナーキックからの2発となっている。負傷離脱のロッベンはともかく、サイドと空中戦をベースとした他の得点パターンはどこへ行ったのか。

特にセットプレーは、試合の流れが劣勢でも、それにかかわらずゴールを挙げることができる攻撃パターンだ。グアルディオラが指揮する現在のバイエルンは、スタメンの平均身長が181.6センチと、前任のハインケス時代よりも3センチほど低くなったが、それでも、バルセロナの平均178.5センチに対しては、今も空中戦の優位がある。

しかし、バルセロナはそこからの失点を許さなかった。

コーナーの守備戦術

ルイス・エンリケのチームは、セットプレー専門のコーチを置き、綿密に戦術を組み立てている。特に興味深いのは、コーナーキックの守り方だ。

形としてはマンツーマンとゾーンをミックスしたもので、ニアサイドにひとり、中央にひとり、それぞれマークを持たずにボールに集中して跳ね返す選手を置き、残りはマンツーマンで相手をマークする。

ニアサイドに立つのは、FWルイス・スアレスだ。FWにマークを担当させず、ボールを跳ね返すフリーマンにするのは、セットプレーの守備のセオリーでもある。FWは1対1のマークがあまり得意ではない上に、クロスを跳ね返してセカンドボールになったとき、いち早く前線へ行こうとして、相手の二次攻撃に遭ったときにマークを放してピンチになりやすい。したがって、スアレスをニアサイドに置くのは、ごく普通の選択といえる。

しかし、ルイス・エンリケのやり方が少し特殊になるのは、チーム最長身のDFジェラール・ピケにマークを持たせず、中央でボールを跳ね返すフリーマンとしているところだ。通常のチームの場合、ピケのようなDFは相手チームの最も空中戦に強い選手をマークさせるものだが、バルセロナは違う。

最長身のピケがマークを持たないため、192センチのボアテングを184センチのラキティッチがマーク、186センチのミュラーを173センチのダニ・アウヴェスがマーク、183センチのシュバインシュタイガーを170センチのイニエスタがマーク、といった具合に、芋づる式に著しい『ミスマッチ』が発生する。ただでさえ、平均身長で劣るバルセロナが、ピケをマークの役割から外してしまうのだから、ミスマッチがこれほど深刻になるのも無理はない。

ところが、この方法で今季のバルセロナは、相手のコーナーキックにしっかりと対応しているのだ。

そのポイントは、マークのやり方にある。

後半3分のボアテングに対するラキティッチのマーク、あるいは後半23分のレヴァンドフスキに対するマスチェラーノのマークに表れているが、バルセロナの選手は、マークを外そうとする相手の動きに対して、ボールから目線を切ってでも、相手のマークについていく。このようなマークは、サッカーというより、バスケットボールに近い。

バルセロナの選手たちは、ミスマッチの相手に“競り勝とう”としていない。たとえボールを跳ね返せなくても、相手を自由にさせないことを優先し、流れてきたボールの処理は、ピケやGKテアシュテーゲンに任せる。1対1で勝てない勝負をせず、割り切った守り方をして、集団でコーナーキックに勝とうとしているのだ。

仕上げはメッシとネイマール。このふたりを前線に残し、コーナーキックの守備から、カウンターの刃を突きつける。これがバイエルンを苦しめた。単純な空中戦では劣勢のバルセロナだが、守備を整理しつつ、リスクとリターンにおいては、むしろ上回ってやろうという意図がみえる。

「ミスマッチを作らないようにマークを組む」という常識を覆し、ルイス・エンリケはあえてミスマッチを作りつつ、集団で対応するセットプレー術をまとめた。

小兵が多いチームのコーナーキックの守り方として、理にかなっているし、ともすれば、同じような身体的特徴を持つ日本代表にとっても、参考になるのではないか。

詰め将棋のような打ち合い

無論、グアルディオラが、このような仕組みをわからないはずがない。試合中にはルイス・エンリケの守備戦術を壊そうと試みていた。

それはミュラーとシャビ・アロンソが、ニアサイドのスアレス、中央のピケに対して体をぶつけ、彼らがボールに反応できないように制限しようとしたのだ。このボールを跳ね返すふたりがいなければ、他のポジションは“単なるミスマッチ”になり、バルセロナに問題を引き起こすことができる。

ところが、ルイス・エンリケは、このような打開策をグアルディオラが仕込んでくることを予期していたようだ。ミュラーをマークするダニ・アウヴェス、シャビ・アロンソをマークするジョルディ・アルバが、ぶつかろうとするふたりを懸命にブロックし、スアレスとピケを守った。

相手の一手に対し、的確な駒を打つ。サッカーは荒々しい闘争のようであり、ときどき、このような詰め将棋を思わせる一手一手の打ち合いになることもある。

この試合でバイエルンが獲得した3本というコーナーキック自体も、それほど多いものではなかったが、そのチャンスでさえも、バルセロナは完全に防ぐことに成功した。見事な手腕だ。

以前のバルセロナに対しては、技術的な長所が際立つ一方、それを打ち破る方法論もいくつか出てきたものだが、このルイス・エンリケのチームには、隙がない。非常にバランスの良いチーム作りをしている。

準々決勝の第2戦こそ、ポルトに大逆転を収めたバイエルンだが、さすがに今回ばかりは、用意周到な元チームメートに対し、打つ手が見つからないのではないか。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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