名古屋めしの次なるブレイク候補!?「カレー煮込みうどん」は全国でもウケるか?
ツワモノ揃いの名古屋めしの中でじわじわ高まる存在感
名古屋のご当地グルメ、名古屋めし。味噌煮込みうどん、味噌カツ、ひつまぶし、手羽先、きしめん、あんかけスパゲッティ、鉄板スパゲッティ、台湾ラーメン、小倉トースト、味噌おでん、喫茶店のモーニングなどなど、多種多彩なメニューが目白押し。旅行者の期待値も高く、「名古屋めし」は今や名古屋城と並ぶ、名古屋の最も重要な観光コンテンツにもなっています。
ただし、これらはどれももともと地元で親しまれてきた料理。観光客目当てでつくられたものではありません。2000年代からのB級ご当地グルメブーム以降、名古屋でも新・名古屋めしを生み出そうとする動きがありましたが、ツワモノぞろいの既存勢力に割って入る新興メニューは現在にいたるまでほぼありません(唯一の例外が2008年にデビューしてブレイクした台湾まぜそば)。
そんな中、地道な取り組みでじわりじわり支持を広げているのがカレー煮込みうどんです。
その名前からも想像できる通り、名古屋名物である味噌煮込みうどん、そしてこれも名古屋で独自で進化したといわれる名古屋流カレーうどん、両者をかけ合わせたハイブリッドメニューです(ちなみに味噌煮込みうどんは一般的なうどんと違い塩を使わずに麺を打ち、土鍋の中で煮込む料理。名古屋流カレーうどんは麺は通常のうどんで、インドカレーばりにスパイスを使い鶏ガラダシのスープを使うのが特徴)。
地元うどん店が「新しい名古屋名物に!」の気運を高める
以前から名古屋のうどん店では、味噌煮込みうどんの派生メニューとしてカレー煮込みうどんを出す店はちらほらとありました。これを地域独自のご当地メニューとして積極的にアピールし、新たな名物に育てよう! そんな思いから2011年に発足したのが「尾張名古屋カレー煮込みドット.ナゴヤ」です。
「名古屋市、愛知県のうどん店からなる愛知県麺業組合青年会が中心になってHPを開設。もともとメニューとして出していた店もあるのですが、店主たちが集まって試食会を開くなどして商品力アップに努めました。年々人気は高まっていて注文数は増えています」とは「森田屋」(名古屋市東区)の玉津亮さん。
2015年からはスタンプラリーも開催。今年は2月1日~4月30日の3カ月間、名古屋市内および愛知県内のうどん店21店舗が参加して行われています。「尾張名古屋カレー煮込みドット.ナゴヤ」では、メニューの定義は煮込み専用麺(一般的なうどんと違い塩を使わずに打つ)とカレーを使うことのみ。創作の自由度が高いので、スタンプラリーでは食べ歩いて店ごとの個性を楽しめます(スタンプラリーの台紙はHPからダウンロードできる)。
「森田屋」ではカレー煮込みうどんのために専用のダシを取り、つゆには味噌煮込みには使わない白醤油を使用。単に味噌煮込みをカレー風味にしただけではない、独自の工夫が施されています。
カラフルなトッピングで屈指の人気メニューに
「うどん屋に必ず土鍋があるのは味噌煮込みが定番の名古屋ならでは。カレー煮込みも他にはない名古屋めしのひとつとして今後ますます人気が高まると思います」というのは「勝美屋」(名古屋市東区)の菰田好典さん。
スタンプラリーを機に開発したという彩り野菜のカレー煮込みは、今や屈指の人気メニュー。その名の通り、トマト、ブロッコリー、切り干し大根が黄色いカレーつゆの上でカラフルに映えます。「煮込みうどんは土鍋でことこと煮込むので、麺がカレーのつゆを吸って煮詰まってしまう。そこで水分が出るトマトを加えたところ、煮詰まらずさらにトマトのうまみも加わり美味しさも増しました」と菰田さん。見栄えのよい彩りは、おいしさを求めた結果生まれたものというわけです。
「カレー煮込みうどん」ならぬ「カレー煮込みそば」も!
うどんではなくカレー煮込みそばを味わえるのは「蕎麦屋ながや」(名古屋市中村区)。
「煮込んでも麺がやわらかくなりすぎないよう、十割の太打ちそばを使っています。ダシもカレーの香りに負けないよう和風ダシに鶏ガラを加えています」と店主の長屋健一さん。カレーの香りとダシ、そばの風味がそれぞれバランスよく調和しています。太打ちとはいえうどんに比べて麺が細い分、とろみのあるカレーのルゥがよくからみ、そばとカレーの一体感を楽しめるのも特徴です。
取材やコラボの依頼が続々。味噌煮込みの名店が手がける「鯱市」
地元での人気が高まりつつあるカレー煮込みうどんですが、他地域からの注目度も急上昇中。「鯱市」は味噌煮込みうどんの超有名店「山本屋本店」が手がける専門店ですが、「最近は味噌煮込みよりもカレー煮込みの取材依頼が多いほど」と広報担当の永田剛典さん。
「味噌煮込みは紹介されつくしているので、メディアとしては変化球的に興味を引きやすいという狙いがあるのでしょう。それだけでなく、食べ慣れていないと最初は抵抗を感じる豆味噌に対して、カレー味は全国的に親しみやすいという強みもある。取材だけでなく、企業コラボや東京の商業施設の出店などの要請も、最近は“『鯱市』で”というケースが多いんです」(永田さん)
カレー煮込みうどんは名古屋めしの中で最も全国区向け(?)
「名古屋めしの中におけるカレー煮込みうどんのポジションは、まだ既存の味噌煮込みや名古屋流カレーうどんの派生メニュー的位置づけ」と冷静に現状を分析する永田さんですが、「味噌煮込みうどんがあくまで地域限定であるのに対して、カレー煮込みうどんは全国に向けて仕かけていける可能性がある。名古屋ローカルよりはるかに大きな外食全体のマーケットで勝負できるグルメだと考えています」と大きな野望も胸に秘めています。
名古屋めしは味わいの地域色が強すぎるため、他エリアには広まらないものがほとんど。観光で訪れた人にとって本場で食べる価値が高い一方、日常的に食べたいとはなかなか思ってもらえないことは確かです。しかし、カレー煮込みうどんは国民食であるカレーの包容力の高さによって、地域を問わず受け入れられる可能性が一気に高まります。
定番・名古屋めしを抜き去り全国区に躍り出る‥‥かもしれない名古屋めし界のダークホースに今から注目です!
(写真撮影/すべて筆者)