梅雨末期の豪雨、避難所で赤ちゃんはどうすればいい?ママ防災士が避難所用ベビーベッドを組み立ててみた
7月に入り、梅雨末期の豪雨が発生しやすい時期に入りました。大雨などの災害によって避難所に行かなければならなくなったとき、誰もが「避難所でちゃんと眠れるだろうか」「慣れない環境で体調をくずしてしまわないだろうか」と不安に感じるのではないでしょうか。
特に赤ちゃんは環境の変化に敏感な上に、不安を言葉にすることができません。泣くことしかできない赤ちゃんを抱えて避難する親たちは、避難所へ向かうことをためらう場合すらあります。
今日7月1日は、280人以上の犠牲者を出した能登半島地震から半年の節目でもあります。防災士・気象予報士の資格を持ち、生後4か月の子の母でもある筆者が、避難所用段ボール製ベビーベッドを製造する会社を取材しました。
大人の横で寝ることができない…
近年、年齢やジェンダー、障害の有無、国籍にかからわらずすべての人を取り残さないための防災「インクルーシブ防災」という言葉が知られるようになってきました。赤ちゃんの防災についても、お湯を沸かせない状況でも使えて備蓄もできる「常温液体ミルク」が一般の薬局で販売されるなど、かなり進んできてはいます。
一方で、いざ避難所に行かなければならなくなったとき、実は寝る場所に困るという根本的な問題も残っています。
生後まもない赤ちゃんは、安全上の理由から大人の横で一緒に寝ることはできません。全国的に普及しつつある大人用段ボールベッドで添い寝することもできず、赤ちゃんを毛布やタオルにくるんで床に置かなければならないというのは、家族にとって不安しかない状況。もし誰かに踏まれてしまったら?床に舞うホコリを吸い込んでしまったら…?
そこで開発されたのが、避難所用段ボール製ベビーベッド「ベビーにこっと」でした。
ママ防災士がひとりで組み立て!ベビーベッドは何分でできた?
避難所用段ボール製ベビーベッドは、ベビーカーなどのベビー用品で知られるコンビ株式会社の子会社が2022年に発売したもので、宅配で送れるサイズに梱包され現地で組み立てるタイプの商品です。
実際の避難所では自治体の職員やボランティアの力を借りて組み立てることになると思いますが、万が一助けを得られなかった場合でも組み立てられるか、筆者が実際に試してみました。
同梱されている説明書を見ながら、まずはベッド本体となる外箱を組み立て、次に中に敷く「すのこ」を作ります。この「すのこ」は本体の底に設置して通気性をよくするためのもの。体温調節が苦手で汗ムレにも弱い赤ちゃんを守るためのものです。
外箱、「すのこ」、そして内側の箱を重ねたら、あとは敷きパッドを置いて幌(ほろ)をつけたら完成です。筆者は約8分でできました。
中は想像以上に快適なようで、筆者の娘(生後4か月)を寝かせてみたらご機嫌に過ごしてくれました。星柄の敷きパッドや淡い色合いの幌といったさりげないデザインも、避難所で張りつめがちな親の心を癒してくれそうです。
きっかけは中越地震を経験した母親の声
ベビー用品の会社としてこの災害大国・日本で何かできないかと考え始めたのは、2004年の新潟県中越地震がきっかけでした。避難生活を経験したお母さんたちの座談会を開き、被災当時に何が不安だったか、どんな助けが欲しかったかを聞き、段ボールでつくれるベビーベッドがあれば…というアイデアにたどり着いたとのこと。
しかし、採算が取れにくい防災備蓄品の製作になかなか踏み出せない中、担当者の目を奪ったのは2020年7月に九州で発生した豪雨での救出劇でした。球磨川の氾濫による甚大な被害で知られるこの令和2年7月豪雨の際、福岡県大牟田市で浸水した住宅街から生後2か月の赤ちゃんが自衛隊によって救出される映像を見たとき、「もう二の足を踏んではいられない」と。
赤ちゃんを連れて避難所へ行くことをためらわない社会をつくらないといけない、と製品化に踏み切りました。
能登半島地震でも活躍!今後全国に拡大へ
避難所用段ボール製ベビーベッド「ベビーにこっと」は現在、全国90の施設に備蓄されています(2024年5月時点)。
今年1月1日の能登半島地震の際には現地に運ばれ石川県珠洲市などの被災地でベビーベッドとして使われたほか、自衛隊による入浴支援では脱衣所で床に赤ちゃんを置けずに困っているお母さんの助けにもなったとのこと。また去年2023年の年末に北海道を襲った大雪の際には、空港で夜を明かす赤ちゃんのためにも使われました。
現在は南海トラフ地震の想定被災地である太平洋側の自治体中心に導入が進んでいて、これまでなかったタイプの防災用品であるため予算確保に時間のかかるパターンもありますが、メーカーでは2025年末までに全国への展開を目標としています。
パパ・ママに「すみません」を言わせない社会に
今回の取材で印象に残ったのは、「避難所でパパ・ママに『すみません』を言わせたくない」という担当者の言葉でした。
小さな赤ちゃんを連れて避難することに伴う不安は、赤ちゃんの衣食住が確保できるかだけでなく、避難所で赤ちゃんが泣いて迷惑をかけないかなど多岐にわたります。一方で、もし避難所に赤ちゃん用のベッドがあるとわかったら約6割の親が「避難しようと思うきっかけになる」と答えたアンケート結果も(コンビウィズ株式会社調べ、2023年)。赤ちゃんを迎える準備のできた避難所は、パパ・ママが「すみません」ではなく「ありがとう」を言う社会をつくるきっかけになるかもしれません。
避難所用段ボール製ベビーベッドはまだ知名度が低く、先述のアンケートでも「知っている」と答えた人はわずか4%ほど。しかし一般の人に広く知られるようになれば、行政でも予算が取りやすくなり導入が進むはずです。
「自分が行く避難所には赤ちゃん用のベッドがあるのだろうか?」と不安な場合は、自治体の窓口に問い合わせてみてください。行政は皆さんが思っているよりも、市民から届けられる声に敏感です。皆さんの気づきと行動が、誰も取り残さない防災への一歩になります。
※避難所用段ボール製ベビーベッド「ベビーにこっと」は、コンビ株式会社の子会社コンビウィズ株式会社の製品です。また、この製品は自治体や施設向けに販売されています。