『新しい認知症観』(認知症施策推進基本計画)の概要と問題点【介護福祉士が現場の視点で解説】
令和7年度からスタートする『認知症施策推進基本計画』が、令和6年12月3に閣議決定され、その中で『新しい認知症観』が定義されました。
『新しい認知症観』とは何なのか、その概要を説明した後に、現場で働く介護福祉士が感じる『認知症施策推進基本計画』の問題点について説明します。
新しい認知症観とは
『新しい認知症観』は『認知症施策推進基本計画』の中で、以下のように定義されました。
1.誰もが認知症になり得ることを前提に、国民一人一人が自分ごととして理解する。
2.個人としてできること・やりたいことがあり、住み慣れた地域で仲間と共に、希望を持って自分らしく暮らすことができる。
『認知症施策推進基本計画』は、令和5年に成立した『共生社会の実現を推進するための認知症基本法』(通称:認知症基本法)に基づく、国の認知症施策の基本計画です。
令和7年度から11年度までの5年間が対象となっています。
認知症施策推進基本計画の方向性
認知症施策推進基本計画の基本的な方向性として、以下の4項目が明記されています。
1.『新しい認知症観』に立つ。
2.自分ごととして考える。
3.認知症の人等の参画・対話。
4.多様な主体の連携・協働。
12項目の基本的施策
認知症施策推進基本計画は、認知症の人の声を起点とし、認知症の人の視点に立って、認知症の人や家族等と共に推進するとし、12項目の基本的施策を設定しています。
1.国民の理解
2.バリアフリー
3.社会参加
4.意思決定支援、権利擁護
5.保険医療、福祉
6.相談体制
7.研究
8.予防
9.調査
10.多様な主体の連携
11.地方公共団体への支援
12.国際協力
これらの施策には、認知症の人が、自立し安心して暮らすことができるよう、地域における生活支援体制の整備や、移動のための交通手段を確保することが盛り込まれています。
推進体制
認知症施策推進基本計画の推進体制は、地方自治体に推進計画を策定する努力義務が課されており、地域の実情や特性に即した取組を、創意工夫しながら実施することになっています。
運用例
運用例として以下の具体案が挙げられています。
1.行政職員が、認知症カフェなどの様々な接点を通じて、認知症の人や家族と出会い、対話する。
2.認知症の人が孤立しないよう、本人同士が必要としていること等を話し合うピアサポート活動や、本人ミーティング等の当事者活動を支援する。
3.認知症の人や家族等の意見を起点として、施策を立案、実施、評価することにより、社会参加の機会を確保する。
認知症施策推進基本計画の問題点
長年、介護現場で認知症ケアに携わってきた者の感想としては、『新しい認知症観』と『認知症施策推進基本計画』に、これといった目新しい内容は感じられませんでした。
認知症の人の社会参加、相談体制、認知症の研究、予防活動などは、かなり前から行われているものですし、運用例に挙げられている『認知症カフェ』は、すでに全国に広がっています。
そして今回の基本計画において、大きな問題を感じたのは以下の2点です。
地方自治体への丸投げ
『認知症施策推進基本計画』の推進計画は、地方自治体に対して、策定の『努力義務』が課されているだけです。
これでは「必ず計画を実現する」という国の意欲が感じられません。
地方自治体の『努力義務』だけでは、地域間格差が広がることは目に見えています。
人員が足りないなどの理由で、全く実施されない自治体があってもおかしくありません。
予算の裏付けがない
わたし自身も、地域の『認知症カフェ』に関わったことがありますが、多くのスタッフがボランティアであり、専門職は本業の合間に参加しているのが実情です。
会場も地域の善意で提供されていることが多いと感じます。
ボランティアでできることには限りがあります。
国が本気で認知症施策を進めようとするのであれば、十分な予算の確保は欠かせません。
まとめ
今回の『認知症施策推進基本計画』は、
・地方自治体の努力義務
・十分な予算の裏付けがない
ことが大きな問題です。
実効的な認知症施策を実現するためには、地方自治体に努力義務を課すだけでなく、「必ず、ここまではやり遂げる」という国の最低基準を明示するとともに、それに見合う予算を組むことが必要です。
従来のような『地方へ丸投げ』『予算なし』の計画では通用しない高齢化社会がきています。
効果的な認知症施策が実際に行われれば、多くの高齢者の幸せな老後が実現するだけでなく、将来の社会保障費の削減にもつながります。
しかし今回も、そのような実効的な認知症施策が打ち出されなかったことに、介護の現場を知る者として、強い危機感を感じています。