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コロナ禍で見出した「とろサーモン」久保田の「リミッターの外し方」

中西正男芸能記者
「とろサーモン」の村田秀亮(左)と久保田かずのぶ

 「M-1グランプリ2017」の優勝をきっかけに、活動の幅を一気に広げた「とろサーモン」。しかし、新型コロナウイルス禍で「仕事ゼロ」も経験しました。環境が一変し、久保田かずのぶさん(40)、村田秀亮さん(40)ともに、否応なく自らと向き合う時間を過ごしましたが、そこから見出したキーワードは「リミッターを外す」でした。

カジサックより先に

 久保田:実は、10年ほど前に同期の中山功太とYouTubeをやってたんです。カジサックよりはるか昔に始めてたんですよね。しかも、当時、結構それが話題になったりもしまして。ただね、二人とも飽き性だから、しばらくやって辞めてしまったんです。あれを続けてたら、今はエライことになってたはずです。

 台本も何もなしで、中山とやりたいことをどんどんやって。今のYouTubeみたいに刺激的なことを好き勝手にやってました。中山も本当にお金もなくて、自販機の下に小銭が落ちてないか漁ってた時代だったので(笑)、そらね、ムチャクチャだし、勢いもありました。それが良かったのかもしれませんけどね。

 そして、今年に入ってまた久保田個人のYouTubeを始めたんです。10年前のもったいなさもあって。

 村田:コンビとしての公式YouTubeチャンネルは去年からやってたんですけどね。コンビのチャンネルには、基本的にはコンビのネタとか、単独ライブで使った映像とかをアップしてます。

 久保田:なので、僕個人の方には本当に僕がやりたいことというか、出したいことをやるようにしています。おこがましいですけど、2017年に「M-1」で優勝して、お給料ももらえるようになった。あとは、まだ表現できてないことをやってみたいなと。

 そう思って個人のYouTubeを始めまして、以前やっていた中山との企画もやってますし、文字だけで伝える大喜利「読喜利」だとか、あと「『M-1』の審査員を批判せずに審査してみた」だとか。今で言うと、そんな企画をしています。

コロナ禍での気づき

 村田:コロナでどんどん仕事がなくなっていって、1カ月仕事ゼロというのもありました。

 そんな中、YouTubeの役割を強く感じることも増えました。コンビのチャネルにネタをアップしてたら、ネタ番組のスタッフさんから「YouTubeでやってらっしゃったコント、番組でやってもらえませんかね」という連絡もいただきまして。あまりコントでお話をいただくことはなかったんですけど、こういう流れもあるんだなと。

 YouTubeは見ようと思った瞬間に、携帯ででも見られますからね。その手軽さみたいなところが、仕事にも繋がることを特にこのコロナ禍で感じました。

 久保田:YouTubeを見てもらったら、もうそれでコンビとしての“説明書”になってますもんね。今の時代は。

 村田:確かにそこに僕らの商品説明が並んでるわけですから、一回一回言葉で伝えなくとも、より手に取ってもらいやすいみたいなところがあるんでしょうね。

 ただ、コロナで本当に仕事はなくなりました。劇的にヒマになりました。ありえないくらい時間があるので「何かしておかないと怖い」という感情にもなりました。

 なので、僕はいろいろと過去のことを振り返って、文章を書いてたんです。「note」という文章に特化したSNSみたいなのがあるんですけど、そこに昔の思い出を書いていくと。

 書き出すとね、これが、結構いろいろなことをさらに思い出してきて。アルバイトをしていた時の腹立った話とか、一つ思い出すと「あ、あれもあったよな」と次々出てくるというか。「店長からうっといこと言われたな」「そういえば、お客さんからもうっといこと言われたな」とか。そう考えると、当時の自分は頑張ってたなと思いますし、今の生活が改めて幸せなんだなと思ったりもしてました。

 久保田:「うっとい」って言葉、久々に聞きましたね。

 村田:いや、鬱陶しいと言うよりも、そういう生々しい感情がどんどん出てくるから、そういう言葉の方がフィットするのよ(笑)。だいたい平均して1本の原稿が4000文字くらいで、書くのにかかる時間が6時間くらい。「何かしておかないと怖い」という感情を打ち消すには、本当に良い時間ではありました。

 久保田:やっぱり、あまりにも時間がありすぎると、何をしたらいいのか分からないというのはありますね。有田(哲平)さんからもLINEが来ましたもん。「こんな時って、何をしてたらいいの?」って(笑)。みんなそう思うみたいで。

 自粛期間中、僕は自分のインスタグラムで毎日自分でお題を出してそれに自分で答える連続投稿企画「久保田の小言シリーズ」というのをやったりもしてました。

 あと、家でドラムの練習をやってました。ま、ドラムと言っても、対象年齢8歳までのおもちゃのドラムで。頭おかしくなりそうになりました。長渕を歌いながらドラムをたたいてたら、近くのおばあさんが「あんた、うまくなったね」と言ってくれるような時間を送ってました。

 村田:今のは、怖い話なん(笑)?いや、でもね、本当に仕事がないと、いろいろおかしくなるというか、6月6日にヨシモト∞ホールで無観客で単独ライブをやったんです。会場にお客さんはいないけど、その様子を有料配信するという形で。

 漫才をするのが3カ月ぶりだったんですけど、あれだけ毎日やってきた漫才をするのに、これだけ緊張するかと。2本目のネタまで、足が震えてました。20年ほどやってきても、こんなことになるんやと…。めちゃめちゃ怖い体験でもありましたけど、コロナ禍だからこそ、もう一回漫才と心底向き合えた気がしています。

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 久保田:YouTubeもそうですし、より一層「何かを仕掛けていこう」とは思うようになりましたね。あとは、どれだけリミッターを外すか。

 例えば、究極ですけど、何かを表現するという時に「明日に死ぬ」というヤツの方が本当に好き勝手やるだろうし、恐らく、そいつの方が強いと思うんです。その気構えというか、アクセルをベタ踏みする感覚。これはYouTubeやったら、やっていけるんじゃないか。実は、今まさにその領域に取り組んでいるところなんです。

 リミッターを外すのは、正直、40歳の今くらいしかできないだろうなとも思ってまして。もういい大人だけど、まだ勢いの要素もある。これが50になってやったら、また違う味になってしまうだろうし、60で外したら、それこそ、もっと違う味になりますし(笑)。

 村田:それは、かなりパンチあるな(笑)。

 久保田:既にいくつか動画を撮ったりもしてるんですけど、質問してくださる方が一人いて、僕がそれに答えるというだけの2分くらいのものです。でも、その質問が聞きたいけど、なかなか聞けない領域、例えば、お金に関することであったり、芸能界のルールであったり。そこをフワッとさせずに、100%ホンマのことを言う。この形が進化したら、1年後、2年後に何か新しいものが生まれるんじゃないかなと。

 もちろん、何も生まれないかもしれないし、どうなるかは分かりません。ただ、もともと、人気のあるコンビでもないし、順風満帆だったわけでもないですしね。ずっと海辺の畑で、塩でなかなか作物も育たたない土地を耕してきて、やっと15年で汚い花が咲いたくらいですから。ま、そんなもんです。

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(撮影・中西正男)

■とろサーモン

1979年9月29日生まれの久保田かずのぶと79年12月3日生まれの村田秀亮のコンビ。二人とも宮崎県出身。ABCお笑い新人グランプリ最優秀賞、笑いの超新星最優秀新人賞、NHK上方漫才コンテスト最優秀賞など若手時代から関西の賞レースで結果を残す。10年、活動拠点を東京に移す。17年、出場資格ラストイヤーで「M-1グランプリ」で優勝。YouTubeで、コンビとしての公式チャンネル、そして、久保田個人のチャンネル「もう久保田が言うてるから仕方ないやん〆」も展開している。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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