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全国学力テストで校長名公表の罰、反旗を翻す校長はいないのか

前屋毅フリージャーナリスト

校長という仕事も、なんとも窮屈な役らしい。教育者というよりは、数字ばかりで評価さて尻をたたかれるセールスマンと変わりない。

今年4月に実施された全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の都道府県別結果が8月27日に公表された。この結果に怒り心頭なのが静岡県の川勝平太知事である。

県内の公立小学校の国語Aの成績が、静岡県が最下位となったからだ。これを受けて川勝知事は、9日の定例記者会見で、成績が悪かった100校の校長名を公表したいとの意向を示している。

これには全国学力テストを実施した文部科学省(文科省)も、いささか面食らっているらしい。『毎日新聞』(電子版 9月10日付)によれば、同省の担当者は取材に「学校名を公表するのとほぼ同じ。実施要領に反する」と答えたそうだ。

その「実施要領」には、調査の目的は次のように記されている。「 義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から,全国的な児童生徒の学力や学習状況を把握・分析し,教育施策の成果と課題を検証し,その改善を図るとともに,そのような取組を通じて,教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立する」

つまり、児童生徒の学力・学習状況を把握して教育の改善を図るのが目的だ、というわけだ。それに照らし合わせれば、競争心を煽るような行為は反することになる。ましてや、罰を与える行為など、もってのほかであることは言うまでもない。

そういことにならないように、文科省は学校別や地域別の順位発表は控えるように求めてきている。しかし、学校名ではなく校長名だから文科省の方針には逆らっていない、というのが川勝知事の見解らしい。

もちろん、詭弁というか、こじつけというか、屁理屈としか言い様がない。あきれてしまって二の句が継げない・・・が、言う。

明らかなのは、川勝知事がやろうとしていることは「罰」以外のなにものでもない。そして、公表されるのが嫌なら子どもらの尻をたたいて成績を上げろ、と脅していることに他ならない。それが教育だとおもっているのなら、即刻、知事などお辞めになったほうがいい。静岡県民も黙っているべきではない。

その川勝知事に苦言を呈しているようにみえる文科省も、実は「同じ穴の狢」にすぎない。順位をつけて競わせるのが目的ではなく、学力状況を把握するだけなら、全国の全学校を対象にする必要はない。対象を選んで実施する抽出方式でじゅうぶんなはずなのだ。

あえて競わせる方法で学力テストを実施しているところに、競争で学力向上につなげる、という文科省のホンネが見えみえなのだ。文科省にとっての教育は、その程度のものでしかない。

その文科省にしてみれば、川勝知事のような考え方は実は大歓迎にちがいない。ただ、やり方が幼稚すぎるので、困ったとおもっているだけなのかもしれない。

点数至上主義の競争第一主義をあおる全国学力テストでは、教育の本質がさらに忘れ去られていく。川勝知事のような人物も増えるだけにちがいない。

公表されることにビクビクするのではなく、「そんなものは教育じゃない」と川勝知事に反旗を翻すような校長はでてこないものだろうか。「無理よ」という反応はじゅうじゅう承知しながら、それでも、言わずにはいられない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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