すりおろしリンゴで窒息事故の可能性 あらためて知りたい離乳食の安全とは
保育施設で、立て続けにリンゴを詰まらせて窒息してしまったとみられる事故が報告されました。
りんごを詰まらせたか 生後6か月の保育園児 意識不明 鹿児島
生後8か月の男の子 保育所でリンゴを食べた直後、一時、心肺停止状態 のどにつまらせたか?現在も意識不明の重体
リンゴは離乳食でもよく使われる食材で、「乳児に与えるのは早すぎる」食材ではありません。それだけに、離乳食をどう進めればよいか、不安を感じたり混乱されたりした保護者もいらっしゃるかと思います。食材の選択や調理方法など、改めて知識を整理することで不安の解消につながるかもしれません。
そこで今回はあらためてリンゴも含め乳幼児の食材のリスクを整理し、予防と対処法について考えていきたいと思います。
食べ物が原因の窒息は5歳未満で多い
離乳食に限らず食べ物が原因の窒息は珍しくありませんが、特に低年齢児に多いことが分かっています。消費者庁の報告では、食品による窒息死事故103件のうち85件が5歳未満でした[1]。ほかにも、日本小児科学会の傷害速報(子どもの事故に関する事例を集めて報告するページ)では、「気道閉塞を生じた食物の誤えん」による死亡リスクは5歳未満が高いとの記載がみられます[2]。
乳幼児はそもそも喉に食べ物が詰まりやすい
乳幼児が食べ物を詰まらせやすい原因として、まず、気道の直径が約1センチと、成人(約2センチ)よりも小さい点が挙げられます。そのため、小さな異物でも詰まってしまいやすいのです。咳の反射もまだ弱く、詰まったものを外に排出しにくいです。
また犬歯や臼歯が生えそろっていないため咬む力が弱いです。臼歯が生えてくる目安は1歳半です。生えてきても、十分に咀嚼する能力が完成するまでには時間がかかり、幼児期は不安定とされています[3]。食べながら遊んだり泣いたりすることもあります。
したがって、食材は月齢に応じて食べさせ方を工夫する必要があります。内閣府は教育・保育施設などにおける事故防止ガイドラインを作成していますが[4]、これは一般の家庭でも参考になりますので抜粋してご紹介します。
姿勢を整え、大人が見守りながら量をコントロール
同様に事故予防ガイドラインでは、見守りポイントとして以下を挙げています。
1.食べることに集中する
2.姿勢を整える
例えば生後7~8カ月では顎や舌に力が入る姿勢として、椅子の高さは
足が床につく高さで深く座らせる
3.水分を取ってのどを潤してから食べる
4.食べやすい大きさに切る
5.詰め込み過ぎない など
離乳食が進むと手づかみ食べが始まります。手づかみ食べが始まると、赤ちゃんは自分で口にたくさん入れがちです。したがって大人が見守りながら量をコントロールしたり、よく噛むよう促すことが必要です。大人がゆっくり噛む様子を見せたり、飲み込めないものは口から出すような声かけ、一口ごとに飲み込んでいるかの確認も大切になります。
つるっとしたもの、固いものは窒息のリスクがある
ここまで食べさせ方の工夫について記載しましたが、次に食材についてです。
どんな食べ物でも窒息のリスクはありますが、特に窒息のリスクが高いものがあります。それは、弾力があるもの、つるっとしたもの、丸いもの、粘着性が高いもの、固いものです。
乳幼児期に窒息を引き起こすリスクのある食材と注意点について、次の表にまとめましたのでご紹介します。
リンゴは「固さや切り方によっては詰まりやすい食材」
では、今回の事故の原因となっているリンゴなどの果物についてはどうでしょうか。
果物はつるつるしていて丸呑みしやすいので、大きさや量を調整する必要があります。リンゴなど固いものは、「咀嚼で細かくなっても、固さや切り方によっては詰まりやすい食材」とされており、①加熱する②すりおろす③薄切りにする 方法が有効です[5]。ブドウなど丸いものは皮をむいて小さく切る必要があります。これらの対応により、窒息のリスクを下げることができます。
すりおろしても不十分?複数の対策を掛け合わせてリスクを減らして
ただ、注意も必要です。今回はすりおろしたリンゴでした。対策を立てているのにどうして事故が起こったのか、という点も今回不安につながる一因となっているように思います。
ひょっとすると、すりおろしたはずのリンゴの中に、大きめのかけらが混じっていた可能性もあるかもしれません。前述の事故予防ガイドラインでは、リンゴ・梨については、離乳完了期までは加熱して提供することを勧めています。このように複数の対策を掛け合わせることでリスクを減らすことができます。
子どもがものを詰まらせた!まずは119番、そして応急処置を
十分に気をつけても、食事中に急に顔色が悪くなり苦しそうな様子を見せたり声が出せなくなった場合、窒息の可能性があります。窒息の場合、蘇生のチャンスは最大9分とされ[8]、すぐに処置が必要です。
院外で窒息した場合には、呼吸が止まっただけの状態であれば蘇生率は50%を超えますが、心肺停止の場合の蘇生率は非常に低くなるため、心停止に陥る前に詰まった食べ物を除去する必要があります[9]。
窒息が疑われた場合の応急処置をまとめたイラストをご紹介します。なお、慌てて口の中に指を入れて取り出そうとすると窒息状態が悪化するためやってはいけません。
これら一連の流れ(救急要請~応急処置まで)は政府インターネットテレビ「窒息事故から子供を守る」で分かりやすくまとめられています。8分間の動画で、PCやスマホで視聴できます。お子様の万が一に対応できるよう、これを機に一度ご覧になっていただければと思います。いざというときにはパニックになってしまうものですが、何も知らないよりも知っていた方が、救急隊員からの指示も理解しやすいと思います。
電子レンジの加熱調理に潜む意外な熱傷リスク
最後に、窒息とは別に知っておいてほしい食材調理上のリスクがあります。それは電子レンジの加熱調理によるやけどです。
電子レンジで加熱した食品は水を含む部分が早く加熱され、特に高出力の電子レンジで短時間で加熱した食べ物は食品内の温度差が生じやすいことが分かっています。その結果、保護者が急いで調理した食べ物を与える際、たまたま温度を確認したのが低温部分だったために大丈夫と思って与えると、口の中で高温部分が接触してやけどに至る可能性があります。実際にお粥と麻婆豆腐でやけどした1歳1か月の男児のケース[6]や、ベビーフードでやけどした1歳1か月の女児の例[7]が報告されています。これらのケースは通常のやけどではなく、喉頭熱傷と言って、丸呑みしたことで喉頭にやけどを起こし、呼吸困難に至っています。加熱した食べ物は与える前にしっかりとかき混ぜて、温度を下げてから与えることでこうした事故を防ぐことができますので、改めて気をつけていただければと思います。
今回の事故で離乳食を遅らせようと思う、というSNSのコメントをいくつか見かけました。ただ、赤ちゃんにとって適切な時期に食材を進めることは咀嚼機能や食習慣を進め、豊かな味覚を育てる上でも大切です。家族や仲間と一緒に食事を楽しむことは社会性の発達にもつながります。今回の記事で、少しでも安心して離乳食を進めるためのお役に立てればと願っています。
参考文献
1.消費者庁. 食品による子供の窒息事故にご注意ください!
2.日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会. Injury alert No.49.ブドウの誤嚥による窒息. 2014.
3.Committee on Injury, Violence,Poison Prevention. Prevention of Choking Among Children. Pediatrics. 2010;125(3):601-7.
4.内閣府. 教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン. 2016.
5.小児科と小児歯科の保健検討委員会. 歯からみた幼児食の進め方. 小児保健研究. 2007.03;66(2):352-4.
6.江口博之, 菅谷明則ほか. 喉頭熱傷 熱い食事摂取が原因の1男児例. 日本小児呼吸器疾患学会雑誌. 1996.12;7(2):102-6.
7.森ひろみ, 梅木郁美ほか. 電子レンジ加熱食品による喉頭熱傷の1例. 岩手県立病院医学会雑誌.2022.07;62(1):26-9.
8.日本小児救急医学会・日本小児外科学会監修. 小児救急のストラテジー. 2012.
9.馬場美年子, 武原格, 他. 小児の食物誤嚥による窒息事故死の現状と予防策について. 日職災医誌. 2010;58:276-82.
※23/6/4追記 ご指摘をいただき、誤字を修正しました。