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渡部建は都合よく謝罪したが、注目はそこではなかった

鶴野充茂コミュニケーションアドバイザー/社会構想大学院大学 客員教授
渡部建の会見(AbemaTVの中継画面から)

 急きょ開かれたアンジャッシュ渡部の会見は、テレビ復帰に向けた都合のいい謝罪に思わせたが、謝罪会見としての大きな見どころは、「言えない」と連発した後半部分だった。

 

分かりやすい芸能会見の形

 

 不倫騒動以降、沈黙を保っていたアンジャッシュ渡部建が12月3日、記者会見を開いた。姿を見せずに逃げ回っていたなどと言われていたが、年末向けの番組収録に参加したと報じられたこともあり、急遽セットされた会見だったようだ。

 

 記者会見の形式は囲み型で、全員がフェイスシールドを装着。女性問題に関する会見ということで、分かりやすく女性レポーターが最前線に並んだ。

 

 冒頭に渡部が謝罪をした後、レポーターたちが次々と報道についての事実確認をし、妻・佐々木希さんとのやりとりを聞き、そして多目的トイレにおける行為などについて、本人の口から具体的に喋らせようと質問を投げかけ続けた。

 

 芸能人のこうした不祥事の謝罪会見では、みっともない姿を見せて、世間の溜飲を下げさせるのがポイントになる。ところが、渡部の場合、口がうまいことが逆に災いし、何度も謝罪は口にしつつも、みっともなさが十分に出ず、結局この会見はテレビ復帰が予定されていることを踏まえた単なる通過儀礼のような印象を与えた。

 

流れを変えた質問

 おそらく、これでは世間は納得できない、という空気がその場の取材側にも漂っていたのだろう。会見中盤に、男性レポーターが放った質問が流れを変えた。

 

 番組収録には参加したのか?と聞いたのだった。

 

 渡部は最初、「私の口からは言えません」と言った。他の質問にも移ったが、再び、「すでに仕事を再開しているのかどうか?」という問いが繰り返された。

 

 一般の視聴者にとって、こうしたやりとりはあまり目立たないか、むしろしつこい印象を持たれるかもしれないが、謝罪会見では、喋らないところに本音や隠れた事実があることが多く、それを有耶無耶にすることは、メディア側もグルになった出来レースと見られるリスクがある。記者会見をお膳立てされたエンタテインメントではなく、ニュースとして成立させるには、話す側に都合の良い話だけをさせてはならいという事情があり、重要なやりとりなのだ。

 

 そして、現場にはマイクを持ったテレビ局の人たちが集まっており、番組収録に参加したのかどうかは、質問をする側も分かっているはずである。答え自体はすでに共有されていると考える方が自然だろう。

 

 注目は、それを渡部が自分の口で言うのかどうかというところだった。

 

 収録に出たと言えば、謝罪もせずにと言われるのは明らかだ。年末に放送されれば、結果的に黙っていても答えは出る。謝罪の前に収録に参加していたことが分かる。お蔵入りなら、その分また迷惑もかかる。そんな葛藤の中で、渡部がどんな表情でどう答えるのか。芸人の顔か、好感度タレントの顔か。

 

 結果的に、渡部は「私の口からは言えません」「申し訳ありません」と繰り返した。言外に、「あなたたちも答えは知ってるでしょう」という表情をにじませた。ある意味で、それが最も正直な顔であり、今回の記者会見の見どころだったように思う。

 

 会見は約1時間40分。ではこのあたりでという一瞬の間を読んだ一声で、その場のみんなが撮れ高良しとしたのか、誰も声をあげずに終了した。企業などの謝罪会見では決して見られない終わり方だ。

 

 1時間半程度の長さも、おそらくその場で共有されていた目安の時間だった、という印象を受けた。

コミュニケーションアドバイザー/社会構想大学院大学 客員教授

シリーズ60万部超のベストセラー「頭のいい説明すぐできるコツ」(三笠書房)などの著者。ビーンスター株式会社 代表取締役。社会構想大学院大学 客員教授。日本広報学会 常任理事。中小企業から国会まで幅広い組織を顧客に持ち、トップや経営者のコミュニケーションアドバイザー/トレーナーとして活動する他、全国規模のPRキャンペーンなどを手掛ける。月刊「広報会議」で「ウェブリスク24時」などを連載。筑波大学(心理学)、米コロンビア大学院(国際広報)卒業。公益社団法人 日本パブリックリレーションズ協会元理事。防災士。

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