アマゾン、Alexa大幅刷新へ“必死の試み” 有料版は「非凡なアレクサ」
米アマゾン・ドット・コムが音声アシスタント「Alexa(アレクサ)」の大幅刷新を計画していると英ロイター通信が報じている。10年超にわたり赤字の同サービスを活性化させるため、「必死の試み」に取り組んでいるという。
Alexaを無料版と有料版の2体系に
ロイター通信によると、現行の無料版サービスはアマゾン社内で「Classic Alexa(標準的アレクサ)」と呼ばれており、同社はこれを生成AI(人工知能)搭載版に置き換える作業を進めている。
加えて、より複雑な質問や指示に対応できる高性能AIソフトウエアを搭載した上位版を導入し、これに月5ドル(約800円)超の料金を設定する計画だ。月10ドル(約1600円)程度の料金も検討していると関係者は話している。
アマゾンはこれらの上位版を「Remarkable Alexa(非凡なアレクサ)」と名付けた。有料会員プログラム「Amazon Prime」との連携は検討していないという。
Exclusive: Amazon mulls $5 to $10 monthly price tag for unprofitable Alexa service, AI revamp
https://www.reuters.com/technology/amazon-mulls-5-10-monthly-price-tag-unprofitable-alexa-service-ai-revamp-2024-06-21/
有料版Alexaが目指すもの
新たなAlexaは、アマゾン社内で「Banyan(バニヤン)」と呼ばれるコード名で開発が進められている。2014年にAIスピーカー「Echo(エコー)」シリーズとともに登場したAlexaの初のメジャーアップデートである。
有料版では、簡単なメールの作成・送信、ウーバーイーツへの食事の配達注文など、1度の指示で複数の複雑なタスクを実行することができるようになるもようだ。
会話中に「アレクサ」と何度も呼ぶ必要がなくなり、よりパーソナライズされた対応が期待できるとされる。アマゾンはAlexaによるホームオートメーション機能の強化も目指している。ユーザーの習慣を学習して、様々な家電を動かす機能を導入するようだ。
締め切りは8月中、目指すは収益化
関係者によると、アマゾンは従業員に対し、24年8月にも最新版の開発を完了するよう求めている。CEO(最高経営責任者)のアンディ・ジャシー氏は24年4月に出した株主宛て書簡で「より知的で有能なAlexa」に言及していた。ただし、同氏は具体的な内容を明らかにしていない。
一部の従業員はこのプロジェクトについて、収益化に成功したことのないサービスを活性化させるための「必死の試み」と表現している。管理職からは「今年こそAlexaが意味のある売り上げを生み出せるかどうかを示す重要な年になる」と告げられているという。
ライバルの素早い動き
新しいAlexaについては、24年5月に米経済ニュース局のCNBCが報じていた。アマゾンが刷新と開発を急ぐ背景には、競合の素早い動きがあるとみられる。
Amazon plans to give Alexa an AI overhaul — and a monthly subscription price
https://www.cnbc.com/2024/05/22/amazon-plans-to-give-alexa-an-ai-overhaul-monthly-subscription-price.html
米オープンAIは、24年5月に新型のAIモデル「GPT-4o(フォーオー)」を発表した。GPT-4oはテキスト、画像、音声の任意の組み合わせを入力として受け取り、それらの任意の組み合わせを出力として生成する。テキスト、画像、音声の入力と出力をすべて同じニューラルネットワークで処理することで実現した。
米グーグルも5月に、AIモデル「Gemini(ジェミニ)」ファミリー全体にアップデートを導入したと明らかにした。より軽量で、高速かつ効率的に動作するように設計した「Gemini 1.5 Flash」などを発表した。
Hello GPT-4o
https://openai.com/index/hello-gpt-4o/
Gemini breaks new ground with a faster model, longer context, AI agents and more
https://blog.google/technology/ai/google-gemini-update-flash-ai-assistant-io-2024/
米アップルは24年6月に開いた開発者会議「WWDC24」で、生成AIサービス「Apple Intelligence(アップルインテリジェンス)」とそれを活用する音声アシスタント「Siri(シリ)」を発表するなど、独自のAI戦略を進めている。
ロイター通信によると、アマゾンには課題も多くありそうだ。同社はAI開発において度重なる失敗に悩まされたという。AIがもっともらしい誤答を生成してしまう「ハルシネーション(幻覚)」の問題や、部門内従業員の士気低下といった課題にも直面している。
たとえ改良されたといっても、これまで無料で使えたものにお金を払いたいというユーザーがいるのか、といった疑問の声も上がっているとロイター通信は報じている。
筆者からの補足コメント:
Alexaには「強みとリスク」があるといわれています。世界の何億もの世帯に設置されている専用機器がAlexaの「強み」だとアマゾンは考えています。同社によれば、2023年時点で、同社は5億台以上のAlexa搭載機器を販売しており、消費者市場で一定の基盤を築いているといいます。
一方、Alexaがこの規模で家庭のリビングルームやキッチンに入り込んでいるという事実が「高リスク」につながるといった意見もあります。もしAIが利用者のコマンドを適切に理解できなかったり、信頼性の低い情報を提供したりした場合、アマゾンが支払う代償はより大きなものになると指摘されています。
- (本コラム記事は「JBpress」2024年7月3日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)