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性犯罪で13年間服役し出所した男性の更生レポートその1

篠田博之月刊『創』編集長
13年11カ月ぶりに自分の布団に寝たという(樹月さん撮影)

 2018年11月に、性犯罪で13年間服役し出所した男性の話をヤフーニュースで紹介し、その中でこう書いた。

〈再犯防止のプログラムを受講した彼が出所後、13年ぶりに復帰した社会の中で更生にどう取り組み、厳しい社会の現実にどう向かっていくのか。それをフォローし、ここで随時お伝えすることによって、性犯罪をめぐる問題について、多くの人に一緒に考えてほしいと思う〉

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20181109-00103612/

性犯罪で13年間服役し出所した男性の訴えは社会に受け入れられるのか

 13年間服役した人が出所後どうなっているのかといったことは世間ではほとんど知られていない。そもそも出所したほとんどの人が前科者であることを隠して生きているからだ。ましてや性犯罪となれば、それだけで社会から排除され生きていけない。だからここで取り上げた樹月カインさん(仮名)の報告は貴重な記録だ。なぜこんな試みを行うことになったかというと、いま日本社会では、性犯罪や薬物依存については服役中も出所後も、ただ隔離するだけでなく社会復帰のために治療を行おうというふうに変わりつつあるからだ。

 性犯罪者について言えば、いまは獄中で治療プログラムを受けることができる。それは2004年に起きた奈良女児殺害事件をきっかけに導入されたもので、同事件の小林薫死刑囚(既に執行)とつきあってきた私には、それ故無関心ではいられないものだった。

 だから出所した樹月さんについては、今後もフォローしてみようと考えたし、それは彼自身も望むところだった。

 その後、樹月さんは年末に報告を書いてきてくれた。全文は月刊『創』1月号に掲載したが、さきほどヤフーニュース雑誌に全文公開した。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190131-00010000-tsukuru-soci

性犯罪で13年服役した男性が出所後つづった更生日記

 公開に当たって先ほど、本人に電話して近況を聞いた。出所して今は4カ月だ。

 やはりいまだに就職はできず、職業訓練を受けているという。ただその受講中は多少の経済支援も受けられるため、生活保護と両方で何とか生活できているという。困ったのは、彼はそもそも性犯罪者が社会の中で自分自身をどう更生させていくかに関心があるわけで、カウンセリングを積極的に受けているのだが、それが簡単でないという。

 行政の無料のプログラムでは不十分だとしてそれ以外のものを受講しようとすると、そもそも保険の適用外だし、職業訓練を受けているため時間の融通もきかない。日々の生活に追われて、当初の目的通りにはなかなかいっていないというのだ。

 やはり予想通りというか、なかなか厳しいのが現実のようだ。

 彼の更生の様子は今後も追うことにして、とりあえず年末に彼が書いた更生日記の一部を紹介しておこう。全文は前述したヤフーニュース雑誌で読むことができる。フォローは今後も続けるつもりだ。

13年11カ月ぶりに「自分の布団」で寝た

 2018年9月に旭川刑務所を出所し、13年9カ月ぶりに社会に戻った私は、現在、大阪府内で生活保護を受けながら、一人暮らしをしています。当初は自力での生活再建を目指しましたが、社会の中に生活基盤を構築するためのハードルは予想を遥かに超えて高く、結果的に生活保護を受給しなければ立ち行かない状況に陥ってしまいました。

 今住んでいる部屋は、家賃が4万円のワンルームで、今のところ、テレビや洗濯機はありません。先日、ようやく炊飯器と電子レンジを購入することができ、やっと暖かい食事ができるようになりました。お金がないのでまだテーブルを買うことができず、今はダンボール箱をテーブル代わりにして食事をしています。

 ここに住まいを定めた当初は、寝るための布団もなく、部屋を引き渡されてからの2週間ほどは、床に直に横になって、ジャンパーを羽織って眠るような生活をしていました。その後11月1日に生活保護の受給が決定し、布団一式は役所から現物支給を受けました。長年刑務所暮らしをしてきた私にとって、自分専用の布団があるという状況はとても新鮮で、毎日布団に横になるたびに、「ああ、自分の布団で寝ている」と感激しています。

 

2カ月半で感じた数えきれない危機と困難

 11月12日には、臨床心理士による初回の専門カウンセリングが実施されました。1回のカウンセリングは約90分で、男女1名ずつの臨床心理士がペアになって担当してくださいます。私の担当である2人のカウンセラーはどちらも大変に優秀な先生で、正直になんでも話せる方々だと感じました。良いことも、そうでないことも、正直に話せる第三者が身近にいるというのは、再犯防止を実現していく上でとても重要なことだと思います。

 カウンセリングは、大阪府内の某所で行われます。しかし、その場所について明かすことは差し控えるよう、大阪府の方から要請がありました。また、その場で話された内容も、その場だけに留めてほしい旨の要請がありました。支援の具体的内容や場所などが公開されてしまうと、そこに出入りする他の利用者の心的負担が高まり、影響が出るかもしれないというのが大阪府の懸念のようです。

 個人的には、そうした密行的対応が、性犯罪の社会的理解を妨げる要因のひとつになっているという思いがありますので、全てをオープンにしてしまいたい気持ちもあるのですが、私が明かすことで他の人々のサポートに影響を与え、結果的に新たな被害者を生み出す結果に繋がりかねない危険を考えると、安易なことはできないと感じます。そうしたジレンマを感じることも、社会の中ではごく当たり前のことなので、自分の信念とは違う部分があっても、うまく折り合いをつけながらやっていくしかありません。(中略)

 私の場合は、出所してまだ日が浅く、生活環境もやや不安定な状況にあることから、当面は2週間に1度のペースでカウンセリングを受けることにしています。

 出所後の公的な治療には、保護観察所が実施している再犯防止教育(コアプログラム)もあるのですが、私の場合は満期出所ですので、このプログラムを受講することができません。コアプログラムは、仮釈放で出所した人を対象としたプログラムなので、満期で出所した私がいくら受講を切望しようとも、受講資格が与えられないのです。法の定めでそうなっているのは理解しますが、政府ができる限りの手を尽くして性犯罪の防止に向けた施策を実施するというのであれば、この辺はもう少し柔軟な対応があってもよいのではないかと思います。

 出所から2カ月半が経過し、差し当たりの生活環境が整いつつある自分の経緯を振り返っても、数え切れないほどの危機と困難がありました。それを逐一書いていたら、それだけで1冊の本になってしまうと思います。そして、今後も同様の困難や、それ以上の苦難がたくさん待ち構えているのだと思います。しかし私には、苦労をしながらでも、一つひとつ課題と困難を乗り越えていく以外の選択肢がありません。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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